斉藤愛璃(25歳)にとって、女子ツアー開幕戦のダイキンオーキッドレディス(3月6日〜8日/沖縄県)は特別な大会だ。

 実質的なルーキーイヤーとなる2012年大会には、ツアー初優勝を飾って、一躍脚光を浴びた。そして、シード権を失って不安を抱えながら挑んだ昨年の大会では、2位タイの好成績を挙げて、どん底にあった自信を少なからず取り戻すことができた。

 そんな良き思い出の地で、再び新シーズンを迎える斉藤の気分は高まっていた。

「私、沖縄がすごく好きなんですよ。温かくてプレイしやすいですから。それに、ダイキンオーキッドレディスは(過去に)いい成績を出せているので、いいイメージで大会を迎えられます」

 迎えた開幕戦、斉藤は通算3オーバー、42位タイで終えた。

「思ったよりも、成績はよくありませんでしたが、(2位タイだった)昨年が良過ぎた感があるので、そんなに心配はしていません。これから、徐々に結果は出せると思います。オフに集中して練習したアプローチとパッティングは良かったですから。ショットの精度も、試合をこなしながら良くなる感触を得ることができました」

 決して満足できる結果は残せなかったものの、ホールアウト後の斉藤はそう語って、すがすがしい笑顔を見せた。その表情からは、過去3年とは違う、何か吹っ切れた様子がうかがえた。

 振り返れば、2012年シーズンは、いきなり優勝して、瞬(またた)く間に周囲の期待が高まってしまった。自らの実力以上に注目度が増す中、自分を見失って苦しんだ。翌2013年シーズンも同様だった。ツアー優勝者として「結果を出さなければいけない」という思いが先行して、空回りしてしまった。

 昨シーズンも、失ったシード権を取り戻そうとする気持ちだけが先走った。プレイの安定性を欠いて、出場したレギュラーツアーの半数で予選落ちを喫した。トップ10入りは、開幕戦のダイキンオーキッドレディス(2位タイ)と、8位になった日医工女子オープン(7月4日〜6日/富山県)のみ。結局、賞金ランキング61位で、シード権獲得はならなかった。

「昨年は、賞金ランキングがひとつ上がったり、下がったりするのを気にして、結果に対してすごくナーバスになっていました」

 しかしその後、年末のファイナルQT(※)で29位という成績を残した。その結果、今季ツアーのフル参戦の権利を得ることができた。それが、斉藤の中に溜まっていた"重い気分"を振り払ってくれた。
※クォリファイングトーナメント。ファースト、セカンド、サード、ファイナルという順に行なわれる、ツアーの出場資格を得るためのトーナメント。ファイナルQTで40位前後の成績を収めれば、翌年ツアーの大半は出場できる。

 シード落ちした一昨年のファイナルQTでは48位に終わった。おかげで昨季は、出場資格のない試合でも会場に足を運んで、出場選手の病欠などによる繰り上がりでの出場機会を現場で待つことが多かった。試合に出られなければ、交通費や滞在費などが無駄になるが、今季はその心配がいらなくなった。その分、試合にも集中できる。斉藤の気分が晴れるのも、当然だった。

「賞金シードは獲得できませんでしたが、今季ツアーにはフル出場できることが決まって、改めて『がんばろう!』という気持ちになれました。試合に出られることの大切さをしみじみ感じていますし、(今季は)一試合、一試合、大事に戦っていきたいと思っています」

 ツアーの出場権を得て、ゴルフだけに集中できるようになった斉藤は、このオフ、精力的にトレーニングをこなしてきた。「12月にインフルエンザにかかって、1週間ほど休んでしまった」と苦笑するが、それ以外はほぼ休みなく、練習とラウンドに明け暮れた。なかでも、時間を費やしたのは、パッティングだと言う。

「これまでは、(自分の中で)パッティングがいい時期というのがずっとなかった。でも、成績が良かった試合を振り返れば、おおよそパットがよく決まっているんです。だから、このオフは相当パッティングの練習をしました。特にやったのは、ロングパットの距離感をつかんで、3パットにならないようにする練習です。いかにロングパットを寄せて、楽にパーをとるか。そこを重点的にやってきました」

 さらに、ツアーで活躍する選手たちから話を聞いて、長いシーズンを戦うための効果的な方法を、今季は積極的に取り入れていくという。

「毎年、夏場になるとすごく痩せてしまって、体力が持たなくなる傾向があるんです。そうしたら、渡邉彩香さん(21歳/昨季賞金ランク11位)もそんなことを言っていて、とにかくお腹がすいたら、プレイ中でも何かを食べるようにしている、という話を聞きました。それで、私も今季は『お腹がすいたら食べる』ことを心掛けていこうと思っています。できれば、1日5食とか食べるようにして、夏バテをしないようにしていきたい」

 ここ数年は、自分のことだけで精一杯だった。が、ツアーフル参戦が決まって、精神的にも落ち着いた斉藤は、周りがよく見えるようになったのだろう。練習ラウンドやラウンド中にも他の選手と会話する余裕が生まれ、プレイに限らず、さまざまな知識を吸収できるようになった。

 視野が広がれば、プレイの幅も広がるはずである。そんな斉藤の活躍にますます期待が膨らむが、今季の目標について彼女はこう語った。

「(3年前に)初優勝してからは、自分の調子がぜんぜん上がってこなくて......。(周囲から)目標を聞かれても、『また優勝する!』という言葉を、なかなか言えませんでした。(優勝した)当時はまだ力がついていない状況で、結果だけ先に出てしまったんですね。でも今は、あの頃よりも力がついた、と確信しています。そういう意味では、優勝やシード権獲得より、今季はまず自分の平均ストロークをイーブン(72.0000)に持っていけるようにしたい(昨季平均ストローク66位=73.5118)。それが、目標です」

 プロゴルファーの実力を測る数字の、最たるものは平均ストロークだ。昨季も、平均ストローク72.0000以下だった25人の選手は皆、賞金ランキングの上位に名を連ねた。25位(71.9333)の福田真未(22歳)も、優勝こそなかったものの、賞金ランキング27位という好成績を収めた。つまり、その数字を達成できれば、賞金シードは確実となる。

 斉藤がそこに目標を定めたということは、目先の結果ばかりを求めて、苦い思いをしてきたここ数年の反省もあってのことに違いない。シーズンを長い目で見られるようになり、プロとして地に足をつけて戦えるようになった今季、斉藤が女子ゴルフ界の"ヒロイン"として、再びブレイクしてもおかしくない。

text by Kim Myung-Wook