事業ポートフォリオマトリクス

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●骨肉の争いが繰り広げられる大塚家具

 大手家具販売の大塚家具に激震が走っています。

 創業者で会長の大塚勝久氏と、その娘で社長の久美子氏が、お互いの経営能力に疑問符が付くとして激しい主導権争いを繰り広げているのです。2月25日の記者会見で勝久氏は「悪い子供を持った」、翌26日には久美子氏が「創業者から離れなければならない」とお互いを非難し合い、関係は抜き差しならないところまできています。会長と社長の骨肉の争いに社内は真っ二つに分かれ、どちらが勝利を収めたとしても事態が混迷することは避けられません。

 この大塚家具の新旧経営者、しかも親子の争いは、根本的な経営方針の違いに端を発します。

 大塚家具を創業した勝久氏は、それまで値引き販売が当たり前だった家具業界に、最初から割引価格を提示して値引きは行わないという業界の慣習を破る手法で成長を遂げてきました。ただ、業界の破壊者だけに、メーカーの中には大塚家具との取引を拒む業者も現れました。そこで、勝久氏は対策としてビジネスを会員制とし、限定した顧客に対してまとめて家具を販売するビジネスモデルを生み出します。不特定多数ではなく、限られた顧客に販売するのだから業界全体には大きな影響はないだろうと、メーカーの怒りをそらす狙いもあったのです。大塚家具はこの会員制により、来店した顧客にはマンツーマンで丁寧に接客して家具をまとめ売りすることで、大きな売り上げを上げていきます。

 ところが、最近ではIKEAやニトリなど家具販売業界に流通革命を引っ提げて参入した新規競合に顧客を奪われ、従来のスタイルは消費者から支持を受けなくなってきました。さらに追い打ちをかけたのが最近の円安であり、売り上げの大半を占める輸入家具の仕入れコストが上昇し、利益が出にくい構造に陥ってしまったのです。

 そこで社長に就任した久美子氏は、これまでのビジネスモデルを全否定し、会員制を廃止して誰でも気軽に足を運べる店舗運営を目指します。そして、中価格帯の家具を単品で販売するビジネスモデルに大きく転換を図ろうとしているのです。低価格帯まで降りていけばIKEAやニトリと正面切っての勝負になりますが、中価格帯であれば目立った競合も存在せず、優位にビジネスを展開できるともくろんでいるのです。

 ただ、このようにこれまでの努力の結晶であるビジネスモデルを全否定された勝久氏は、面白いわけがありません。机上の空論を振りかざし、独断で大きくビジネスを変えようとする久美子氏の経営手腕を問題視して株主総会で解任を提案するなど、後戻りできない深刻な争いへと突き進んでいくことになるのです。経営陣の意見の相違はどのような企業でも避けられないものですが、なまじ親子という関係で本心のぶつかり合いが生じ、修復のできないところまで達してしまったのでしょう。

●争いで大塚家具が失うもの

 今回の経営の主導権をめぐる骨肉の争いは、大塚家具にとって今後の経営に大きな影を落とすことになりそうです。

 まず1点目は、社内が会長派と社長派に真っ二つに割れたことでしょう。一部報道によれば、全16店舗の店長と約8割の幹部、42名から勝久会長を支持する署名が寄せられたといいます。一方で久美子氏を支持する経営陣や社員も多く、3月27日の株主総会でたとえどちらかに軍配が上がったとしても、社内に大きなしこりが残ることは間違いないでしょう。

 続いて2点目は、顧客の信頼を大きく損ね、「大塚家具」というこれまで築いてきたブランドを失墜させたことです。今回の争いの原因は経営者の経営方針の違いであり、顧客が置き去りにされていることは否めません。業績が悪化したからとこれまでの顧客を見限り、まったく違う層の顧客にフォーカスしようというのです。これまで品質の高さや丁寧な接客から大塚家具を贔屓にしてきた優良客は、今後これまで通りのクオリティを提供してもらえるか不安を覚えるでしょうし、新たなターゲットとなる顧客は社内でゴタゴタのある会社からは製品やサービスを購入しようなどとは考えないでしょう。

 生産地の偽装などの顧客を裏切る不祥事ではありませんが、やはり「お金のことで揉めている会社」というイメージがメディアを通して広まると、どちらかというとネガティブな印象を持つ消費者も多くなっていきます。

 そして3点目には、今後委任状の争奪戦で株主に対しても悪い影響を及ぼす懸念があります。社員と同じように株主も会長派と社長派に分かれ、株主総会までに激しい委任状の争奪戦が繰り広げられることになりますが、両陣営はより多くの票を獲得するために積極的に動くことが予想されます。この動きを察知して、大塚家具の株は連日ストップ高を続けるなど急騰し、短期間で倍近い株価となるなど、株式市場ではマネーゲームの様相を呈しています。このような株主は会社の経営よりも、いかに大塚家具の株で儲けるかを主眼に置いており、不安定な株主として今後経営に対して悪い影響を与えることも十分に考えられるのです。

 このように、大塚家具は図らずも大きな岐路に立たされています。3月27日の株主総会でどちらが支持されるにせよ、信任を受けたリーダーが強力なリーダーシップを発揮してステークホルダーをひとつにまとめ結束を固めていかなければ、難局を乗り切ることは難しいといえるでしょう。

●大塚家具はどうすべきだったのか?

 問題がこじれ、多くの人を巻き込んだ争いに発展してしまった現在では、遅きに失した感がありますが、大塚家具は本来どうすればよかったのでしょうか?

 個人的な意見になりますが、久美子氏が創業者であり父でもある勝久氏をリスペクトし、勝久氏の意向をくんだうえで新たな道を模索すれば、問題はここまで大きくならなかったのではないでしょうか。

 勝久氏は大塚家具を創業し、ここまで大きくしてきた最大の功労者です。その功労者が血のにじむような苦労をして築き上げてきたビジネスモデルを「時代遅れ」の一言で全否定し、まったく違うものに変えようとすれば、それがたとえ実の娘であろうと、全力で叩き潰すのは当然のことといえます。

 大塚家具にとって高級家具の販売は主力事業であり、利益が出にくい体質になってきているとはいえ、まだまだキャッシュを生み出す「金のなる木」です。この「金のなる木」を伐採して新たな木を植えようといっても、その事業が本当に「金のなる木」になる保証はありませんし、もしなったとしても時間がかかるのは間違いないでしょう。

 久美子氏は先日発表した中期事業計画で、中価格帯の家具販売にフォーカスするというプランをぶち上げましたが、現在消費は二極化しており、中途半端なクオリティと価格では消費者から見向きもされない可能性も十分に考えられます。

 確かに業績不振に陥った時には、これまでの成功体験をすべて捨て去り、まったく新たな価値観でビジネスを展開すれば大きな成功を収めることも可能です。例えば、アサヒビールはスーパードライを市場に投入した際に、それ以前のビールをすべて廃棄し、スーパードライ一本に注力することにより、ビール業界に革命を起こしました。これは、それまでのビールが「コクか、キレか」という時代に、「コクがあるのにキレがある」というビール業界でイノベーションを起こすことができた結果の賜物なのです。

 ですから、大塚家具も従来のビジネスモデルから180度転換して新たなビジネスを展開するのであれば、イノベーションが必要不可欠となりますが、久美子氏の下で策定された中期経営計画からは、残念ながらワクワクするようなイノベーションの青写真は伝わってきません。

 つまり新たな事業が「問題児」からスタートして「花形」へと育つかどうかは、まったくの未知数といわざるを得ないのです。

●再び成長軌道に乗せることも十分に可能?

 このような状況を鑑みれば、勝久氏の従来のビジネスモデルはまだまだ「金のなる木」であり、主力事業として収益性の向上を模索する一方で、久美子氏の新たなビジネスモデルは新たな業態として大塚家具からスピンアウトして、久美子氏主導の下、早期に収益の柱となるように事業を進めていくことが理想といえるでしょう。

 確かに従来の高級家具販売は苦戦しているかもしれませんが、高級家具を購入したいという顧客がいなくなることはないでしょう。そこで、高級家具販売の大塚家具はそのままにして、新たなブランドネームで中価格帯の家具販売事業をポートフォリオの中に組み込めば、経済の波やライフスタイルの変化などに影響を受けない、より安定的な企業運営ができるようになるのです。

 優秀な経営者同士で反発し合うのではなく、それぞれの良さを生かす経営を志せば、大塚家具は難局を乗り切り、再び成長軌道に乗せることも十分に可能なのではないでしょうか。
(文=安部徹也/MBA Solution代表取締役CEO)