初優勝を目指したアルガルベカップ初戦で敗北を喫したデンマーク戦から、中一日を挟んで行なわれたポルトガルとの戦いは、文字通り決して負けられない一戦だった。ワールドカップ本大会のシミュレーションとして捉え、敗戦後に第2戦のプレッシャーを選手たちに与えた佐々木則夫監督。その責を負ってピッチに送り出されたのは、佐々木監督が明言していた通り、全員がサブメンバーだった。

 立ち上がりから日本がボールを支配するも、厳重に引かれたポルトガルの守備網は簡単には揺るがない。日本はなかなかシュートにまでこぎつけないでいた。しかし、これも想定内のこと。なぜならポルトガルはフランスとの初戦を、強固な守りで1失点に抑え込んでいたからだ。

 今大会優勝候補の一角に名を連ねるフランス。多少の戦力を落としていたことを考慮しても、ポルトガルの守備はただ人数を割いて引いているという類のものではない。最後まで粘って足を出してくる。前半、この最後の"伸び"にパスのコースを何度も変えられた日本は、ポルトガルの守備を崩すことができない。

 そんな中、前半36分にコーナーキックのこぼれ球を川村優理(ベガルタ仙台レディース)がボレーで叩き込む。流れからのゴールではないが、欲しい先制点を手にした。後半9分には横山久美(長野パルセイロ・レディース)が、34分には菅澤優衣香(ジェフ市原・千葉レディース)がゴールを決め、3−0で勝利。至上命令である勝ち点3を手にした。

 ゴールを挙げた横山は、この試合がなでしこ初出場。もともとは同時期にスペインで開催されていた、ラ・マンガU-23女子国際大会への招集が決まっていたが一転、なでしこ初選出となった。

 突然の知らせに驚いたというが、「このチャンスを掴みたいと思った」と振り返る。力強いドリブル、軸のブレないシュート力が武器の21歳。得意とする「ターンからのシュートでゴールを決めたい」という言葉通り、左サイドからパスを受けた横山は、反転して思い切り右足を振りぬく、鮮やかなミドルシュートでゴールを奪った。

 しかし、本人は冷静に初ゲームを受け止めている。

「緊張はなかったといえばウソになる。守備もまだまだ。やっとスタートラインに立った感じです」と今一度気持ちを引き締めた。

 そして、"格下相手に快勝"と言われる試合の裏側には、ある想いがあった。

 デンマーク戦の敗戦にショックを受けていたのは、決して主力だけではない。宇津木瑠美(モンペリエHSC)は北京オリンピック前からのなでしこの常連である。ボランチ、CB、SBと試されたポジションは計り知れない。なでしこには欠かすことのできないユーティリティプレイヤーである。

 日ごろから「サブメンバーの気持ちは私が一番理解できる」と、率先してサブ組を牽引してきた。もちろんサブ組に甘んじている訳ではないが、チームに自分のような役割も絶対に必要だと、主力組と同じ熱意を持って、サブ組を鼓舞する数少ない選手であり、常に"自分に何ができるか"を追求しているのが宇津木だ。

 そんな宇津木がデンマーク戦の翌日、あえて明るい表情を見せた。

「日本人は外国の選手よりもはるかに気が利くプレイができるし、本当に上手いんです。代表に呼ばれるってことはみんな上手いんですよ。だから、そんなみんなが力を合わせれば強いチームになれるに決まっている」

 フランスでの選手生活から、にじみ出る言葉に思わず励まされた気分になる。そしてその後、寂しそうにこうも言った。

「なんか一番大事なことを忘れてしまっている気がする......もったいないですよね」

もちろん個のアピールは大事だ。けれど"チーム"はそれだけではない。宇津木自身はデンマーク戦でも後半39分から出場している。そのわずかな時間に放った強烈なミドルシュートには想いが込められていた。

「まだ終わってないよ!」

 そんな宇津木がボランチとして率いる、サブメンバー全員で臨むポルトガルとの一戦は、個のアピールだけでなく、"チーム"として戦う姿を懸命に描こうとしている選手たちの姿があった。

 攻守すべてがバラバラになってしまったデンマーク戦が、サブメンバーをこれまでと違う意味で奮い立たせたのかもしれない。実際、これまでにも格下相手にターンオーバーを行なってきたが、会心のゲームというのはなかなか生まれていないのが現実。だからこそ、自分たちのできる、ギリギリの高い位置からプレスをかけ続け、長短のパスに一定のメリハリをつけて揺さぶる。シンプルだが効果はあった。

 90分の中には、簡単にゴール前まで運ばれてピンチを迎えるシーンも度々あったし、イージーなパスミスも多かった。洗練されたプレイではなかったかもしれないが、その時々でピンチをお互いにカバーした。それがこの"チーム"で決めた決まり事だったからだ。

 1点目はセットプレイから泥臭く、こぼれ球をモノにした。2点目は若手・横山が個の力でこじ開け、3点目は川村からアイコンタクトでDF裏に走り込んだ菅澤がトラップ後、滑り込みながらゴールを奪った。すべてシンプルながら狙いを定めて、繰り返すことで生まれたゴールだった。

「このメンバーだから今日の試合でイニシアティブを取れたんですよ」と語るのは佐々木監督。相手が格下だからではなく、このメンバーだからこのプレイができたのだという。

 ピッチに立つのは11人だが、サッカーは11人だけで行なうものではない。もちろん、デンマークとポルトガルには実力差があるため、スコアやポゼッションのみを取り上げて比較することはできない。

 さらに自分たちの選考もかかっている試合で、サブ組が自身の可能性を犠牲にして、主力組のために戦ったとも言わないけれど、"今の自分たちは何ができるのか"を話し合った彼女たちが"チーム"として戦うことを選択したということだ。

 その向こう側に、いつも真っ向から世界とぶつかっていく主力組への想いがあることは間違いない。このポルトガル戦を他の選手たちはどう捉えるのだろうか。主力組に向けて佐々木監督もメッセージを送った。

「デンマーク戦はチームで戦っているように見えて、6割は個の判断だった。その反省を踏まえ、今日の試合を客観的に見て気付くこともあるでしょうし、彼女たち(主力組)なら(修正が)できると思います」

 その答えはきっと、中二日で迎えるフランス戦のピッチにあるはずだ。

早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko