『福島第一原発事故7つの謎』(講談社)

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 最悪の原発事故から、もうすぐ4年が経とうとしている。しかし、問題は何も解決していないと言ってもいい。

 高濃度汚染水は今も増え続け、昨年内に終了する予定だった処理作業はトラブル続き。海への汚染拡大も懸念されている。また、事故原因も解明されず、責任についても誰もとってはいない。業務上過失致死傷容疑で告発された東京電力の勝俣恒久・元会長と当時の幹部2人に対し、東京地検は2度にわたり不起訴処分とした。

「謎が多くて何も分からない」──それが福島第一原発と事故の現在だ。『NHKスペシャル メルトダウン』シリーズは事故以降5回に渡って放映されてきた検証・取材番組だが、その取材班による『福島第一原発事故7つの謎』(NHKスペシャル『メルトダウン』取材班/講談社)には、恐るべき原発事故の内幕が描かれている。

 そこで浮かんでくるのは、まさに危機の連続だった。1号機の冷却機能喪失はなぜ見逃されたのか。ベントはなぜ遅れたのか。消防車が放水した水はどこに消えたのか──。こうした謎に挑んだ本書だが、なんといっても最大の恐怖は2号機を巡る攻防だ。吉田昌郎所長をして「東日本壊滅」「死を覚悟した」と言わしめ、全体の4割もの放射線をまき散らした2号機。実はこの2号機こそ、「福島第一原発事故最大の危機を迎えた主戦場」だった。2号機の状態いかんでは"最悪の事態"が引き起こされた可能性が高かったのだ。その裏では何が起こっていたのか。

 実は水素爆発を起こした1、3号機に比べ2号機は、3月14日夜まで冷却機能が維持されていた。それは偶然と幸運がもたらしたものだった。2号機の中央制御室が停電する直前、RCIC(原子炉隔離時冷却系)の操作が行われ、冷却機能が維持された。しかし、14日正午にはRCICが動きを止める。そのため、ベントと同時に原子炉の圧力を格納容器へ逃がすSR弁を開く作業を行うが、双方とも失敗、2号機の操作は完全に行き詰まる。原子炉の減圧ができず、原子炉の水位はどんどん下がっていく。そして減圧しなければ消防車のポンプの水の圧力との関係から原子炉に水は入らない。2号機には注水さえできなかった。吉田調書にはこのときのことが、こう記されている。

「私自身、パニックになっていました。(中略)廊下にも協力企業だとかいて、完全に燃料露出しているにもかかわらず、減圧もできない、水も入らないという状態が来ましたので、私は本当にここだけは一番思い出したくないところです。(中略)ここで本当に死んだと思ったんです」

 そのタイミングは最悪のものでもあった。このとき、既に1号機と3号機は水素爆発していたが、両機ともまがりなりにもベントは成功、消防車による注水が行われていた。しかし──。

「2号機のSR弁が開かず、全く水が注げないままメルトダウン、そして格納容器破壊のシナリオになってしまった場合、1号機と3号機に水が注げなくなってしまい、さらに使用済燃料プールへの対策が滞ってしまうことだった。まさに福島第一原発の最悪のシナリオだ。そしてそこから放出された放射性物質の影響で南におよそ10キロの所にある福島第二原発もオペレーション不能になれば、それこそ東日本全体が放射能に覆われてしまう」(同書より) 

 この最悪のシナリオが現実に迫ってくる。そのため、吉田所長の調書には「東日本壊滅」「死」との言葉が出てくるのだ。

 実際、2号機は最後まで原子炉格納容器の中の圧力を下げる緊急措置であるベントができず、危機は広がっていった。

「その結果、圧力に耐えきれなくなった格納容器の配管のつなぎ目が壊れたり、蓋の部分に隙間ができたりして、断続的に放射性物質が漏れ出したのではないかと見られている」

 こうして14日深夜、2号機から放射性物質が大量放出されたと"推測"され、東京の渋谷でも通常の2倍もの放射線量を記録した。だが、ベントができなかった"謎"について、実は現在でも解明されていないという。

「高い放射線量に阻まれ、現場の配管を十分に調査することができないため、事故から3年半以上経った今も謎のままである」

 さらに大きな謎がある。放射性物質を大量放出した2号機だったが、吉田所長が恐れた東日本壊滅という事態には至らなかったことだ。

「結果的には幸運にも吉田所長が恐れたように、原子炉の核燃料全体が一気に放出されるまでには至らなかった。2号機の格納容器の封じ込め機能は、東日本壊滅をもたらすほど決定的には壊れなかったのである」

 2号機の格納容器の破損は部分的なものだった。そのため放射性物質漏洩は部分的なものとなった。しかし、その理由も恐るべきものだ。なぜ、決定的に壊れなかったかについて「いまだによくわかっていない」というのだから──。

「東京電力の対応とはほとんど無関係に、いつしか沈静化していった」

 福島原発事故にはいくつもの「謎」が存在し、その謎は解明されないままだ。そして本書には"幸運"という言葉が随所にちりばめられる。

 予期せぬ爆発を起こした4号機についても、2号機とともに"最悪のシナリオ"と"幸運"が存在した。定期検査中だった4号機の燃料はすべて使用済燃料プールに保管され、もっとも高い熱量をもっていた。

「爆発によってプールの底が抜けて冷却水が漏れ出し、核燃料がむき出しになり過熱すれば、核燃料を覆っている被覆管が溶け出す。(中略)むき出しのプールから直接、大量の放射性物質が放出されることになる」

 そうなれば2号機のケースと同様、福島第二原発も高濃度の放射性物質で汚染され、冷却作業は不可能となり、東日本壊滅のシナリオが想定されたのだ。

 しかし、原子炉建屋が原形をとどめないほど大爆発を起こしたにも関わらず、核燃料プールは無事だった。さらに"幸運"なことに、定期検査のため核燃料プールには「通常の2倍近い貯水量があった」という。

 事故の原因さえ分からず、様々な「謎」は何も解明されてはいない。ただ"幸運"の連続の結果、"皮一枚の運"で免れたのが東日本壊滅という最悪のシナリオだったのだ。

 事故原因、その責任の所在は不明のまま、汚染水は排出し続け、その処理も進んではいない。周囲の除染もいたちごっこで、多くの住人たちは生まれ育った故郷に帰れずにいる。にもかかわらず、安倍政権は再稼働に向け着々と動き、今年には九州電力川内原発の再稼働が現実化しつつある。

 原発事故は決して過去のものではない。現在も続く"人災"なのだ。いまだ謎と危険に満ちた日本の原発。その再稼働を許してはいけない。
(田部祥太)