かつては森ファンの女性が大挙した(川口オートレース公式HPより)

写真拡大

 現在、国会ではカジノの開設を巡るIR法案の議論が進んでいる。日本国内では、金銭を賭ける行為は法律に抵触する違法行為となっているが、他方で法律的に合法化されている公営競技が存在する。また、パチンコも三点方式という不透明なシステムで換金は実質的に黙認されている。

 そんなギャンブル大国・日本ではあるが、公営競技の売上は年々減少している。これは単に景気が悪いというのが原因なのではなく、公営競技からファンが離れていることが大きな理由だと言われる。公営競技の売上は自治体財政にも影響を与える。それだけに興亡盛衰は、私たちの生活にも関係してくる。

 そうした公営競技を揺るがす事態が起きている。その発端となったのが、オートレース発祥の地といわれる船橋オートレース場の廃止問題だ。

 近年、船橋オートレースは赤字に苦しみ、地方自治体の財源を逼迫させる要因になっていた。経営健全化を進め、現在は単年度黒字になるまで業績は回復した。それでも廃止論は根強く、「施設が老朽化しているのでスタンドの改修や券売機のコンピューターシステムの更新をしなければならず、その費用は約15億円かかるのです。とてもオートレースの黒字から拠出できません」(千葉県担当者)

 そうした事情から、船橋オートレース場は来年3月に廃止されることになった。船橋ショックは、単純に船橋のオートレース場が廃止されるという意味にとどまらない。

新たなファン層を開拓できず経営難に

 オートレース場は全国に6か所しかない。その規模は競馬や競輪・競艇と比べても極めて小さい。船橋が廃止されると、残るは伊勢崎(群馬県)・川口(埼玉県)・浜松(静岡県)・山陽(山口県)・飯塚(福岡県)の5か所となる。

 川口オートレースは元SMAPの森且行選手が活躍していることでも知られる。森選手がデビューした直後は、川口オートに若い女性が大挙して押し寄せた。現在、森選手はファンサービスに力を入れるなど、ファンとの交流を熱心におこなってきた。

 それでも、一時期のブームは収まり、川口オートレース場から若い女性は姿を消した。森選手一人では、結局のところオートレースへの注目が一過性に終わり、固定ファン層の拡大にはつながらなかったのである。

「ほかの公営競技も収支は厳しいですが、なによりもオートレースの厳しさはほかとは比べ物になりません。中央競馬は早くからテレビコマーショルを打ち、イメージアップを図りました。イメージアップのおかげでギャンブル色は薄まり、レジャー化することができました。それがファン層の拡大につながって、売上をなんとか維持しています。地方競馬では大井競馬場などが夜間に開催したり、おしゃれなレストランをつくるなどデートスポット化といった工夫を凝らしています。大井は立地的にも優位だから客が来ると思われがちですが、そうした努力がファン離れに一定の歯止めをかけているのです」(経済産業省幹部)

 競艇は呼称をボートレースと変え、頑なにそれを使い続けてイメージチェンジに努めているが、さらに平和島ボートレース場は複合アミューズメント施設を併設し、施設内には24時間営業の温浴施設まである。温浴施設は羽田空港の早朝便に乗る人たちが前日に宿泊利用するようになり、今般のLCCブームも後押しして需要は拡大している。こうした多角的な戦略で、ファン層の拡大を図った。

「オートレースはそうした多角化をうまく進められず、新たなファン層を開拓できなかった。森選手に頼り過ぎた感はあった」(前出・経産省幹部)

 オートレースは競馬のように世界で開催されているわけでもなく、競輪のようにオリンピック競技にもなっていない。いわば日本固有の公営競技だが、そんな絶滅危惧種のようなオートレースだからこそ保護しなければならない気もする。オートレースは生き残れることができるのだろうか?

(文/小川裕夫)