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とんでもない本が発売された。この本は、ある意味「就活応援書」であり、仕事に悩む人への「働き方読本」である。しかし、「面接ではこう話しましょう」などといったノウハウ本では全まったくない。むしろ、「マニュアル的なものなど、現実の前には一切通用しない」という、就活の持つエグい一面を嫌でも突きつけられる、リアルな実況中継であり、就活や仕事、人生に立ちすくむ全ての人に効く"劇薬"エッセイなのだ。

○一流大学から就活失敗、そしてニートへ

"穴に落ちるマリオは、落下する瞬間、自分がいた地上の世界をどんな気分で眺めるんだろう。"(『要らないものを捨てる旅』より)「ごうんごうん」と音を立てて上がっていくエスカレーターの前で立ち尽くす著者。その先は、第一志望の企業の最終面接会場につながっている。留学、TOEIC950点、インターンなどの経歴をひっさげて大企業に就職するはずだった。しかし彼女は、エレベーター前でパニック障害を発症し、就職活動ができなくなってしまう。

○誰もが乗れるエスカレーターに、自分だけ乗れない

彼女のこれまでの道のりは壮絶だ。過剰に教育的な母に抑圧され、中学3年生で自傷行為を繰り返し不登校に。せっかく大学に入ったのに、キラキラしたキャンパスライフに馴染めず仮面浪人。予備校の学費を貯めるために六本木でホステスをしつつも、誰からも女として相手にされずスルーされる。そして就職活動をパニック障害でやめ、その後はアルバイトさえ満足にこなせずにクビになる。

これだけ読んだら、「私、こんなに波乱万丈な人生を送ってないし…」と引いてしまうかもしれない。でも、胸に手を当てて考えてほしい。"自分と違う人を下に見てしまう"、"他人の目が異常に気になる"、"人との距離のとり方がわからない"などの「コミュニケーションのつまづき」は、誰しも経験があることではないか。

彼女の問題は、特別な不幸を背負った人だけがぶち当たるものではなく、誰でもが「こういうことってあるよね」と共感できる、等身大の葛藤だ。本書で彼女は自分の中の汚い部分をさらけ出し、目をそむけずに「こんなん出ましたけど!」と見せつける。これまで何かにつまずいた経験のある人、もしくは悩みの只中にある人にとってはグサグサ来る言葉が満載。共感すること間違いなし、である。

○進路や仕事に悩む人の、勇気になる1冊

けれどもこの本が、最近巷に溢れ切った単なる"こじらせ女子"のあるあるエッセイと明確に違うところは、彼女が問題に直面するたびに、思いもしなかった方法で解決策を見出し、そして成長してゆくところだ。その過程が、2525のエピソードを通して、他者との関係を軸に、美しく軽やかな文体で語られる。スペイン巡礼の旅、母との和解、生きるための軸の発見。彼女はひとつひとつの物事に体当たりで答えらしきものを見つけていく。

どのような答えを見つけたかは、是非本書を読んでほしい。奮闘する姿が目に浮かぶほどリアルに描かれるからこそ、再生の過程は読みごたえがある。そしてこの本の良いところは、たとえ奮闘の末に見つけだした答えだとしても、それを読者に押し付けないところだ。彼女の言葉は優しく包むように心に響き、読み終えた後は、「自分はどうだろう?」と考え始める読者も多いのではないか。

この本は、これから迎える就活に足がすくむ人、進路や仕事に悩む人、そして"理想の自分と現実の自分のギャップに苦しむ人"に刺さると思う。今が苦しい人、背中をそっと押されたい人、一度読んでみませんか。

『傷口から人生。〜メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』著者プロフィール

小野美由紀(おの・みゆき) ライター・コラムニスト1985年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文学科卒業。学生時代、世界一周に旅立ち22カ国を巡る。卒業後、無職の期間を経て13年春からライターに。Webを中心にコラムニストとして活躍している。14年12月、絵本『ひかりのりゅう』(絵本塾出版)を出版した。15年2月、エッセイデビュー作となる『傷口から人生。〜メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』を発売。