IT志望の就活生よ、ジミな「法務職」も稼げるぞ

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■「ITコンサル」と「法務職」は転職強者

日本企業に決定的に不足しているのは特定の専門知識と経験を持つプロフェッショナル人材だ。これまで3〜5年ごとにいろんな部署を経験し、やがて管理職になるようなゼネラリストを養成してきた。もちろん、その会社で定年まで過ごすのであれば、会社が敷いたレールを歩むのもいいだろうが、それと反比例するように市場価値も下がっていく。

歳を重ねるごとに会社での価値と労働市場での価値のギャップが広がり、倒産や事業再編の波にのまれてリストラの憂き目に合うと、まざまざと現実の厳しさを思い知らされることになる。

そうならないためには会社にいても自発的に目指すキャリアを選択し、だれにも負けないスキルを磨き上げることだ。学生であれば、将来有望な職種が存在する企業選びから始めたほうがよい。すでに入社している人であれば、業界の中で高い評価を得ている職種にスイッチし、専門職としてのスキルを高めていく努力をすることだ。

前回は、現在も将来も有望な職種としてアクチュアリーとMRを紹介した。今回はITコンサルタントと法務職である。

▼なぜITコンサルタントは有望か

ITエンジニアの中でもITコンサルタントは最も上位の職種として知られる。ただし、IT業界の裾野は広く、業種も多岐にわたる。ここでは企業(顧客)向けの基幹システムや業務システムの企画・設計・開発を手がける業界の職種を紹介したい。

大きくNTTデータ、富士通、日本HPなどの企業を「SIer」(エスアイヤー)と呼ぶ。この「SI」とは顧客の業務を把握・分析し、課題を解決するシステムの企画、構築、運用のサポートなどのすべての業務を指す。

もう一つがITコンサルと呼ばれる業務であり、代表的な企業はアクセンチュア、日本IBMといった企業である。両者の違いについてIT系人材紹介業の担当者はこう解説する。

「たとえば売上げ拡大を図るという経営課題を解決するためにコンタクトセンターを立ち上げようというビジネスプランを描くとする。その際に具体的にどういうシステムにすれば実現できるのかを企画し、提案するのがITコンサルタントの仕事だ。次に、描いたシステムを実際に作り込んでいくのがエスアイヤーの仕事であり、そこから先はものづくりの世界になる。ユーザーのニーズに応じてコンサルタント会社自らSIの仕事まで手がけるケースもあれば、コンサルとエスアイヤーに分かれて作業をする場合もある」

■ITコンサル業界はゼネコンに似ている

▼エスアイアーというお仕事

まず、エスアイアーという仕事を見ていこう。

SIの業界はゼネコンと同じように大手のエスアイヤーが受注し、その下で2次請けのエスアイヤー数社がシステム構築作業に関わる場合も少なくない。

システム開発・構築作業はプロジェクト方式で実施される。中心となるプロジェクトマネージャー(PM)の下でプロジェクトリーダー(PL)、システムエンジニア(SE)、プログラマー(PG)といった職種の人たちが作業に従事する。

PGの業務はプログラム言語を駆使してSEの設計に基づいてソフトウェアをプログラミングする仕事だ。SEの業務は顧客の要望に基づいてソフトウェアの設計と製作指揮を担当する。PLはプロジェクトの各工程の責任者として現場を指揮する。全体を統括するのがPMだ。

もちろん企業によって異なるが、入社後にPGを1〜2年間担当し、SEを経て30歳でPMになる人も珍しくない。

「エスアイヤー大手では28歳でPMになる人もいるが、2次請けの業者には30歳のPGや40歳のSEも珍しくない。エスアイヤー大手のPMの平均年齢は30代前半から40歳ぐらいだが、コンサル会社の場合はもっと若い」(担当者)という。

▼ITコンサルというお仕事

一方、ITコンサルはどうだろうか。

こちらは短期間でプロフェッショナル人材に育て上げる。大手のコンサルタント会社の場合、職位はアナリスト、コンサルタント、マネジャー、シニアマネジャー、パートナーの6段階のクラスに分かれる。新卒入社後、半年間のトレーニングを経てアナリストとなる。アナリストからコンサルタントに昇進するのに最短で2年、平均で3年。コンサルタントからマネジャーへの昇進は2〜3年という早さだ。

■35歳で給料2000万円も可能

▼給料は、大手VS 下請けで大違い

気になるのは給与だ。

じつは社内の職種やキャリアパスに限らず、企業別、そして元請けか2次請けかによって大きく変わる。

【エスアイアー】

エスアイヤー系の職種で言えば、元請けと2次請けで違ってくる。PGは元請けが年収500万円、2次請けは350万円が平均的相場となっている。同様にSEは700万円と500万円、PMは900万円と650万円となっている。

大手人材紹介会社のコンサルタントはこう語る。

「1次と2次請けではプロフィットが違う。1次が受注し、プロジェクトではPMだけを担当し、SEやPGは2次請け、3次請けが行うというケースも多い。2次請けのPGを30歳までやっている人がいるが、それでも年収は350〜400万円程度。それに対して大手のエスアイヤーでは入社2年目で500万円を超えている。また、SEも1次請けは30歳前後で800万円をもらっている人がいるが、2次請けでは40歳過ぎてもやっている人が多いが、年収は550万円程度であり、年齢とは関係ない」

エスアイヤーの元請けと2次請けの関係はゼネコンの下請けとの関係と同様に会社の力関係によって給与の差が大きい。さらにその上をいくのがITコンサルタントだ。

【ITコンサルタント

「ITコンサルティング会社は概して給与が高い。ITコンサルタントを例にとれば、30歳で1000万円を超える。35歳で1500万円ぐらいはもらっている。顧客のニーズを踏まえて何もないところから形を作る上流工程に携わる人と、その形を作っていく下流工程では、上流のほうが付加価値も高い。たとえばITコンサルのさらに上流の経営戦略のコンサルティング会社の場合、35歳ぐらいのマネージャークラスで2000万円近くもらっている」(前出の人材コンサルタント

一般的にIT系企業は離職率が高く、転職を通じたキャリアアップを図る人も少なくない。実際に日本の求人・求職の転職市場の20%以上をIT産業が占めるとまで言われる。IT人材は転職市場でどう評価されているのか。前出の人材紹介会社の担当者は次のように指摘する。

「評価のポイントは年齢に対する経験値だ。たとえば30歳でPMを経験している人であれば、どこの会社でどんなプロジェクトに携わったのか、100人のビッグプロジェクトなのかといった難易度をチェックする。その中でも最初からシステムが固まっていない顧客のニーズを聞き出し、まとめていく力のあるコンサルタントの評価が高い。企業のグローバル化を背景に、英語ができるグローバルなプロジェクトに携わった経験のある人も評価が高い」

国内市場の成熟化やグローバル化の進展に伴い、長期的には国内のIT需要は頭打ちになると予測されている。その中でもITコンサルタントは生き残ると語るのは前出の担当者だ。

「IT業界はオフショア化とクラウドコンピューティングが進行し、システムのものづくりの需要が減少し、中長期的にはプロジェクト自体も小さなものになっていく傾向にある。そうなると、国内ではそれほどものづくりに携わる人は必要性が薄れるかもしれない。IT業界で生き残って行くには、何を作ればいいのか考えられるコンサルティングできる人だ。できればITコンサルタントなっておくことだ」

ITコンサル系では大手エスアイヤーに転職する人、あるいは事業会社の情報システムに転職する人もいるという。

■なぜ法務職はジミなのに花形か

▼法務職というお仕事

企業の法務職も中・長期的に見て有望な職種だ。

法務部門の充実・拡大を図る企業が増えているからだ。商事法務研究会が5年ごとに実施している上場企業調査(「法務部門実態調査の調査結果」2010年)によると、法務専門部署を持つ会社は70.3%。前回(05年)に比べて7.9%も増えている。

部レベルの法務専門部署を持つ会社が42%、課レベルが28.3%となっている。また、法務担当者数も前回調査より10%増加し、日本の弁護士資格を持つ企業内弁護士も168人、前回の3.2倍に増加している。

かつての企業法務といえば、不祥事が発生した後の訴訟対応など顧問弁護士を通じた業務が主流であった。しかし、1990年代以降の証券不祥事などの事件を皮切りにコンプライアンスの強化など各事業部門が引き起こす事件を未然に防止する「予防法務」の重要性が高まった。

さらに2000年以降、会社法の改正による企業統治改革の進行、国内外の経営環境の変化による会社分割などの組織再編やM&A、新規事業の取り組み、海外事業の拡大などグローバル化の進展によって企業法務の役割が飛躍的に増大したことも法務専門部署拡充の背景にある。

食品会社の法務部長は「最近は訴訟などの事後的対応や予防法務に加えて、会社法の施行への対応や買収防衛策、内部統制システムの整備など経営の根幹に関わる重大案件にかかわるようになっている」と語る。

仕事量の増加に伴う法務部門の拡充のもう一つの背景として、すべての案件を外部の法律事務所に任せていては費用も莫大になるという事情もある。

法務職の仕事は基本的に各事業部門の法律相談を行うことであるが、通常の業務としては

(1)取引先など顧客との間で締結する契約書のひな形を作成業務や事業部門の契約書の審査
(2)株主総会の召集通知や議案の作成などの実務や取締役会、監査役会、役員会の運営実務
(3)コンプライアンス上のガイドラインの作成や社内教育

――などがある。

そのほかに合併・買収や事業の売却、資本参加などの法律にかかわる戦略法務や、海外現地法人の設立・撤退・買収のほか国際交渉の業務もある。

もちろん、不祥事案件の処理もある。金融証券取引法違反のインサイダー対応、独占禁止法、労働法務の対応、業界に関係する法律の対応など多岐にわたっている。

■法務職は外資転職でバンバン稼げる

法務職を目指す人は、入社後に法務部門のエキスパートとしてキャリアを磨き、最終的に役員に昇進する道もあるが、法務専門職として転職し、ステップアップしていく道もある。法務の役割の重要性が高まるに伴い、転職市場での求人ニーズも増えている。

人材紹介会社のコンサルタントはこう解説する。

「上場企業など大手企業は即戦力となる法務人材をほしがっている。それでも条件に合う人がいなければ法科大学院卒の若手を育てていこうという会社もある」

実際に商事法務研究会の調査(2010年)では法務担当者の採用方針は「法務業務経験者を中途採用する」と回答した企業が47.5%と最も多い。次いで「他部門から異動させる」(45.9%)、「新卒または勤務経験のない既卒を採用する」(39.1%)となっている。

▼法務職の給料 驚きの相場

ところで気になる給与だが、基本的には他の部署の総合職の社員と同じ賃金体系に基づいて決まる。日本企業に転職する場合の法務職の年収は20代の若手社員の場合は400〜600万円、課長クラスで600〜900万円。部長クラスで1000〜1300万円という。大手企業の他部署の社員の年収とほぼ同じと見てよいだろう。

これに対して外資系企業は日本企業よりも総じて高く、外資に転職する人も少なくない。

前出の人材紹介会社コンサルタントはこう続ける。

「マネージャークラスで1200万円前後、ディレクター(部長)クラスになると2000〜2500万円になる。日系から外資系企業への転職も多く、たとえば大手の法律事務所からインベストバンクなどの金融機関に転職する人もいる。一方、外資から日系企業に転職する人もいるが、年収よりも身分の安定性と業務のおもしろさに魅力を感じている人が多い」

法務職の将来性については「成長産業のIT関連企業の求人ニーズは高く、製造業や商社の法務職から転職している人も多い。経営のリスクをヘッジする会社の心臓部であり、今後はグローバル化で需要は益々高まる。今後需要が高まるのは間違いない」(前出・コンサルタント)。

どんなに専門性が高くてもすべての職種が将来も生き残るわけではない。時代やビジネス環境の変化に応じて廃れる職種もあれば、注目される職種もある。そうした変化を見据えて目指すべき職種を選択することだ。

(溝上憲文=文)