2015年2月下旬、待望の来日を果たした起業家・投資家ピーター・ティール。「起業家を目指すな」「カテゴリーに抵抗しろ」等々、『WIRED』とSTARTUP SCHOOLが共催する学生限定のイヴェントに登壇したティールが、日本の学生に語った熱いメッセージを紹介。

「ピーター・ティールが、日本の学生に語った10のこと」の写真・リンク付きの記事はこちら

「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」

ピーター・ティールは採用面接で必ずこう訊くそうだ。

あなたは、どんな答えが浮かんだだろうか。ティールは近著『ゼロ・トゥ・ワン ─ 君はゼロから何を生み出せるか』(NHK出版)において、この質問に対する答えのほとんどは「異なる視点で現在を見ているだけ」のものだと指摘する。

さらに、ティールはこの質問をビジネスに敷衍し、問いかける。

「誰も築いていない、価値ある企業とはどんな企業だろう?」

この問いかけこそ、先日来日し実現した、ティールと日本の学生との対話のなかで語られたテーマだ。ティールの言葉に日本の若者たちは何を求め、何を見るのか。幣誌編集長、若林恵も交えた質疑応答の一部を紹介する。


1.日本の既存プレイヤーは真似ばかり?

日本のスタートアップは、既存のビジネスモデルやプロダクトを真似てばかりです。一方、シリコンヴァレーは新しい価値を生み出し続けているように思います。日本ではなぜ新しい価値を生み出すことができないのか。そして、どんな環境が日本に欠けていると思いますか?(学生その1)

ピーター・ティール(以下PT):日本が真似ばかりだとは必ずしも言えないでしょう。例えば、ヤフーは本国のヤフーが苦戦しているにも一方で日本では成功しているし、シリコンヴァレーでも二番煎じなものは多いです。オリジナリティーさえあれば何でもいいわけではない。グローバルなテクノロジー・リーダーとなる企業を目指すなら、人々がまだ見たことがないような世界に発信できる価値を創るべきです。

2.スタートから世界展開を視野にいれるべき?

起業するにあたっては、初めから世界を視野に入れるべきですか? それともまずは特定のターゲットに絞って起業すべきですか?(学生その2)

PT:特定のターゲットに絞るべき。まだ人々がやっていないことをやりなさい。それから世界に広げるべきです。ローカルな計画からグローバルへ展開するのが望ましいでしょう。

3.AIスタートアップの可能性

人工知能(AI)に注目が集まっています。以前クリーンエネルギーがトレンドになったときに多くのスタートアップが生まれましたが、しばらくしてそのほとんどが消えていってしまいました。それと同様に、今後AIスタートアップの多くもつぶれるのではないでしょうか。「テスラ」のように、業界で革新的なポジションを占め、しかも企業として存続し続けるには今後、AIスタートアップは何を心掛けるべきだと思いますか?(学生その3)

PT:たしかに、AIはバズワードになっています。ここで言えるのは、みんながAIというテクノロジーそのものに注目しすぎているということ。どのようにしてビジネス化するかの視点が満足ではありません。

いわゆる「AI」の意味するところは広範かつ曖昧で、そのままではビジネスモデルとして従来のソフトウェアをベースにしたものに劣ってしまいます。例えば、テスラはクルマというコンポーネントとしてはありふれていましたが、テクノロジーとコンポーネントの組み合わせがイノヴェイティヴだった。AIについても同じことが言えて、「AIが人に取って代わる」という考えには賛同できません。AIと人が補完しあう、そのコンビネーションこそが重要なのです。

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4.変化そのものより、変化のない未来の方が不安だ

シンギュラリティに至るには、ヴィジョンをもった企業が主体的に牽引する必要があると思いますか?(弊誌編集長・若林恵)

PT:わたし自身の考えでは、近い将来シンギュラリティが到来するかというと、それははっきり言えないと思っています。シンギュラリティとは、カウチに座ってポップコーンを食べているだけでいつの間にか辿り着いている、というような類いのものではありません。実現に向けて、人々がどれだけ努力するかにかかっています。

とはいえ、この話は、現実になったときの不安よりも、何も起こらなかったときの方が不安要素として大きいと思っています。何も起こらないということはつまり、テクノロジーにおける人類の進歩の停滞を意味するのでから。

5.いま日本で起業するならどんなビジネスがふさわしい?

もしもティールさんがいま22歳で、日本に住んでいる若者だったとしたら、どんなビジネスを始めますか?(学生その4)

PT:何かを始めたいというのなら、自分が得意なもので、まだほかの人がやっていないことをやるでしょうね。そしてその答えは、皆さん自身が出さなくてはならないもの。これまでの常識を無理に覆そうと躍起になる必要はなくって、もちろん競争相手が多すぎては成功の可能性も小さくなるのですが。「得意であること」と「ライヴァルがいないこと」。この2つが鍵になるでしょう。

6.起業家の資質

起業家になるには、もって生まれた才能が何かしら必要だと思いますか?(若林)

PT:必要なものがあるとすれば、環境と才能の組み合わせでしょう。アメリカには起業カルチャーがあり、人がやらないことをやりたいという風土があります。他方、わたしが生まれたドイツでは、かつてはどちらかといえば、起業に対して保守的でした。

それにしても「起業家」とは変わった言葉だと感じます。「起業家になりたい」は「金持ちになりたい」と同じで、漠然としていて曖昧に聞こえます。大切なのは目的意識をもちチャンスを逃さないこと、そしてつくった会社の数を誇るよりも、本当に良い会社を1社でいいから創ること。それが「起業家」、というものでしょう。

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7.ティールさん、ぼくの会社に投資しませんか?

わたしは外国語学習を補助するサーヴィスを展開しています。ぼくの会社に投資してみませんか?(学生その5)

PT:そうだね、残念ながらいきなりは決められないかな。こういう場合には紹介者が必要で、投資を決めるには本人と少なくとも1〜1.5時間はじっくり話すようにしている。

若林恵(以下KW):何を基準に最終的に投資を決めているのですか?

PT:特に基準のようなものはありませんが、あえて挙げるなら3つの要素を見ています。

まずテクノロジーがどれだけ優れているか。次に、ビジネスモデルがしっかりしているか。最後に、創業者たちの人間性。良い投資になりそうか迷ったときは「なぜ人はそのビジネスを良いと思わないのか?」と自問し、ほかの人にまだ認められていない良い企業、そういう「ブラインド・スポット」を見つけようとしています。

KW:ティールさんが「ブラインド・スポット」を「スポット」できるのはなぜだと思いますか?

PT:ほかの人が知らないで自分だけが知っている要素が何であるか、深く考えるようにしています。例えば、その起業家のことをよく知っているか、であるとか。もし知らないとすれば、それは投資の際の懸念材料となるわけです。

KW:そのなかには、起業家自身も気づいていないこともありそうですが。

PT:気づいていなかったり、気づいていてもうまく表現できないこととかね。わたしは彼らに「カテゴリーに抵抗しろ」と言うようにしています。「SNS」だとか「クラウドサーヴィス」だとか、創業者は自分たちのサーヴィスをカテゴライズしたがります。しかし、グーグルにせよマイクロソフトにせよ、大きくなる企業というものは、創業当初からサーヴィスやプロダクトが変化し、拡大するものなのです。

8.投資家に話を聞いてもらうには?

どうしたら投資家たちに話を聞いてもらえるのでしょうか?(学生その6)

PT:話を聞いてもらうまで漕ぎ着けるのは難しいものですが、創業者としてそれはやらなければならないこと。(自ら立ち上げた)PayPalのケースでいうと、わたしは100回近く、投資家たちと会いました。最初の50万ドルを投資してもらうのがいちばん難しかったですね。それから後も、例えばある投資家に中華料理店で、「あなたの会社に投資すべきか判断がつかないのでフォーチュンクッキーの占いを見て決めよう」と言われたこともあります。占いの結果は悪くなかったが結局投資はしてくれなかったのですが。

つまり、投資家たちにとっても起業家に投資すべきかどうか、その判断は難しいことが多いということ。そのため起業家がプレゼンするにあたっては、自分たちの誇るテクノロジーだけでなくコミュニケーションにも気を遣えるバランス感覚が大切です。自分たちのテクノロジーやサーヴィスに慢心してはならない。アドヴァイザリー・レポートをいろいろな人に書いてもらったり、あなたをよく知る人に紹介を頼んだりして第三者の意見に助けを求めるのも良いでしょう。

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9.規制と起業、ディスラプトなサーヴィス

政府による規制と起業について伺いたいです。(学生その7)

PT:わたし個人としては、規制が厳しいところに対する投資は躊躇します。ただ、グレーゾーンがある場合もある。例えばPayPalがまさにそうで、まだ規制がないグレーゾーンからスタートしました。「あなたたちのやっていることは銀行の業務と同じではないか?」と尋ねられれば「いや、送金ビジネスだ」と答えたものです。

このようにグレーゾーンをビジネスチャンスと捉えて既存のビジネスを補完し、ユーザーの利便性を高めるサーヴィスがある一方で、タクシーや音楽等既存の業界そのものを崩壊させる「ディスラプト」なサーヴィスもある。これはあまり賛成できませんが、要は「規制のなかで自分の企業をどのように位置づけるか」にあるということです。

10.よい起業家になるためのアドヴァイス

日本の学生に向けて、より良い起業家になるためにアドヴァイスはありますか?(若林)

PT:起業するのに「いい時代」も「わるい時代」もありません。どの時代においても、人々がまだ気付いていないところに目を付け、0から1を生み出すことは可能です。

ただ、創業者に対して「これまでチームで一緒にどんなことをやってきたのか?」と聞いたとき、「実はわたしたちは1週間前に知りあったばかりなんです」と答えが返ってくるようなものはダメ。「幼なじみで何年も付き合いがある」というチームの方が上手くいくものです。良い友情、良い人間関係をビジネスを通して築いていく。何十年も続くような関係こそが、結果的に良いものをかたちとして残すことに繋がるのです。


自分の得意なことを、ライヴァルのいない分野で、素晴らしい友情を仲間と育みながら追求する、その先にこそ「誰も築いていない価値ある企業」というものが存在するというティールのメッセージは、起業だけに留まらず働くという社会的行為そのものへのポジティヴな姿勢を未来のアントレプレナーたちに示そうとしているかのようだ。

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ピーター・ティール
シリコンヴァレーで現在もっとも注目される起業家、投資家のひとり。1998年にPayPalを共同創業して会長兼CEO に就任し、2002年に15億ドルでeBayに売却。初期のPayPalメンバーはその後ペイパル・マフィアと呼ばれ、シリコンヴァレーで現在も絶大な影響力を持つ。情報解析サーヴィスのパランティアを共同創業したほか、ヘッジファンドのクラリアム・キャピタル・マネジメントと、ヴェンチャーファンドのファウンダーズ・ファンドを設立。Facebook初の外部投資家となったほか、航空宇宙、人工知能、先進コンピュータ、エネルギー、健康、インターネットといった分野で革新的なテクノロジーを持つスタートアップに投資している。

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