2015年女子ツアー「ニューヒロイン」候補(2)
松森彩夏(まつもり・あやか/20歳)

■大きな達成感があった
ファイナルQTの4日間

 昨季の女子ツアーでは、日本女子プロ選手権を制した鈴木愛(20歳)や藤田光里(20歳)など、2013年プロテストに合格した『85期生』が躍動した。その世代には、まだまだ逸材が控えている。昨年末のファイナルQT(※)で11位という好成績を残し、今季からツアーフル参戦を果たす松森彩夏(20歳)も、そのひとりだ。
※クォリファイングトーナメント。ファースト、セカンド、サード、ファイナルという順に行なわれる、ツアーの出場資格を得るためのトーナメント。ファイナルQTで40位前後の成績を収めれば、翌年ツアーの大半は出場できる。

「昨季はとにかく、今季ツアーの出場権を獲得できる年末のQTに照準を合わせていました。おかげで、ファイナルQTでは(11位という)結果を残せましたが、江連忠プロ(師匠である青山裕美プロの師匠)がキャディーについてくれたことが、とても心強かったですね。試合の途中でちょっと消極的になったときには、『何やってんだ!』と檄(げき)を飛ばされて、そこからまたポジティブな気持ちで戦えるようになりましたし、最終日には『(ツアーの出場権が得られる40位前後の)下のラインを見るのではなく、上を見て、1位通過することを考えなさい』と言葉をかけていただいて、変にプレッシャーを感じることなく、楽な気持ちで戦うことができました。そういう支えがあって、4日間、毎日順位を上げることができました。あの4日間は本当にいい経験になりましたし、達成感がすごくありました」

 江連プロのフォローがあったとはいえ、松森に実力が備わっていたからこそ、出せた結果である。ファイナルQTは、松森がプロとして戦えることを十分に示した4日間でもあった。

 一昨年のプロテストで合格したあと、その年のファイナルQTでは86位に終わった。昨季は、主催者推薦などによる限られた試合しか出場できず、下部ツアーとなるステップアップツアーを中心に戦うことになった。その際、松森はある決断をした。

「一昨年までは、試合出場の手続きをはじめ、宿泊先や交通手段の手配など、すべて母がしてくれていたんです。試合会場まで、母が車を運転して送ってくれたりして......。でもそうしたことを、昨年からは全部自分でやるようにしたんです。

 さすがに最初の頃は大変でしたね。レンタカーを借りて、会場まで自分で運転して試合に臨んで、終わったらまた次の会場に移動して試合をこなして......。そのサイクルに慣れなくて、疲れも相当たまっていました。それでも、同期の沙弥香ちゃん(土田沙弥香/20歳)らと協力して、各試合会場にも一緒に移動したりして、徐々にツアーを転戦するサイクルにも慣れていきました。途中からは、大好きなテイラー・スウィフト(アメリカの人気女性シンガー)の曲を車の中で聴きながら、ノリノリでトーナメントが行なわれるゴルフ場に向かっていましたね(笑)。

 そうして心に余裕が生まれると、気持ちの切り替えがうまくできるようになって、ゴルフにも集中できるようになりました。ステップアップツアーでも賞金をもらえるようになって、上のツアー(レギュラーツアー)でも予選突破する機会が増えたんです。何事もひとりでこなすようになったことは、とてもいい経験になりましたし、ほんの少しですけど、大人になれたのかな、と思います」

 松森がステップアップツアーで自己鍛錬を重ねている中、『85期生』の同期がレギュラーツアーで実力を開花させていた。前述の鈴木、藤田らが活躍する姿を、松森はどう見ていたのだろうか。

「同期が活躍しているのは、すごく刺激になりました。私もがんばらなければいけないな、と思いましたね。同時に(鈴木や藤田は)同い年なので、『私もやれるはず』という、気持ちも生まれました。ただ、そうは思っていても(同期で結果を出している)みんなに追いつくためには、同じ舞台に立たなければ、話にならないじゃないですか。そのためにも、QTが重要でした。そこはもう必死で、『何がなんでも(上の舞台に)這い上がってやる!』と思っていました」

 愛らしい笑顔を浮かべながらも、時折"負けず嫌い"の一面を垣間見せる。元来の性格もあるのだろうが、プロになることを意識した小学生の頃から、さまざまな競争や試練を経て、プロ向きの性格を育んできたのかもしれない。

■私には夢があるからって
ずっと自分に言い聞かせてきた

 松森がゴルフと出会ったのは、4歳のときだった。

「ゴルフ好きの祖父の練習についていったのが、きっかけでした。本格的に始めたのは、小学5年生のとき。父の転勤で神戸に引っ越して、知り合いに勧められた『江連忠ゴルフアカデミー』に参加してからでした。その環境のよさにも感動して、『真剣にゴルフをやりたいな』と思ったんです。ただ当時は、ゴルフにどっぷりと浸かっている感じではなかったですね。友だちと遊んでいることも多かったですし、陸上や水泳など他のスポーツもやっていましたから」

 地元・東京に戻って中学校に進学すると、ゴルフ一本に絞った。

「中学校に入る頃には、自分でも将来はプロゴルファーになりたいな、という思いを描いていました。そんなとき、母から『将来、どうするのか決めなさい』と言われて、『ゴルフをやる』と答えました。どうして? と聞かれると困るんですけど、それだけゴルフが好きだったんだと思います。それからは、小さい頃から習っていたピアノやそろばんなど、他の習い事をすべてやめて、ゴルフだけに専念するようになりました」

 インタビューに同席していた松森の母親によれば、10代前半の娘に将来への決断を促したのには、理由があったそうだ。欧州の育児書に記してあった「日本は大学生になって進路を決めているが、それでは遅い」という考え方に共感し、それを実行したという。また、「娘には自分に賭けて、後悔しない人生を送ってほしい」という思いが強かった。ゆえに、娘が小学校6年生になる頃から、「将来、何になりたいか、決めなさい」という問いかけを繰り返してきたそうだ。

 そんな母親の話を横で聞いていた松森は、少しはにかんで苦笑いを浮かべた。

「自分で『ゴルフをやる!』と覚悟を決めたというより、親に決めさせられた感もあるんですけどね(笑)。でも、ゴルフをやめたいと思ったことはなかったですし、(いろいろと誘われた)他のスポーツに気持ちが揺れることもありませんでした。それだけ、ゴルフに対する思いが強かったからです。

(江連)アカデミーに通っていたときは、上田さん(桃子/28歳)や諸見里さん(しのぶ/28歳)らがいて、一緒に練習をやらせていただいていたんです。そういう身近にいた人が、その後、素晴らしい活躍を見せてくれた。テレビを通してその姿を見て、『自分もああなりたいなぁ』という気持ちが一層強くなりました。それが、プロになる動機にもなりました。もちろん中学校、高校のときは遊びたい時期でもありますから、『なんで、練習ばっかり』と思うこともありましたが、その度に『私には夢があるから』って、自分に言い聞かせてきたんです」

 高校に進学してからも、練習漬けの毎日だった。夜遅くまでボールを打ち込んで、帰宅したらすぐに就寝という日々を繰り返した。休日もゴルフ。両親と妹と家族4人でコースやショートコースをラウンドして、アイアンショットやショートゲームの技術を磨いた。

 そうした生活の中で息が詰まってしまう日も、当然あった。そのときは、一日完全オフにして、目いっぱい遊んだ。そうすることで、翌日からまたゴルフに集中して取り組むことができた。その成果が、2013年のプロテストで一発合格という形に出た。そして、いよいよ今季、ツアー本格参戦を果たす。

 このオフ、松森は江連プロたちとタイ合宿を行なって、自らの課題に取り組んできた。

「このオフや合宿で主にやってきたのは、アプローチとパットです。ショットが悪くても、パープレイで回れる人は、リカバリーがしっかりできていますから。自分もそこの技術が上がれば、もっとスコアがよくなると思うんです。このオフにはもうひとつ、フィジカルの強化を重点的にやってきました。筋肉をつけて、体重を増やすことが目的でした。

 あと、(ツアーに臨むうえで)大切なのはコンディション作りですね。プロになる前は、プロの試合を見ていて、技術のことばかり気になっていたんです。でも、プロになってからは、技術以上にコンディションが重要、ということがわかりました。1年間、コンディションをどう整えて戦っていくのか、それが大きなカギになると思います。また、片山(晋呉)プロからは、『1年間プレイしていると、悪いときのほうが多いから、そのときにどれだけネガティブにならずにプレイできるか。次の試合のために、と思って、常に前向きにプレイすることが大事』というアドバイスを受けました。その言葉も忘れないようにして、調子が悪いときでも目の前の一打、一打を大切にプレイしていきたいと思います」

 充実したオフシーズンを過ごして、戦う準備は整いつつある。同期たちに追いつき、追い越そうという意欲もある。松森は今季、具体的にどんな目標を立てているのだろうか。

「一番の目標は、優勝です。昨季は予選通過を目処にやっている感じだったんですけど、予選突破は必須条件です。そこから、優勝に向けてどう戦っていけるかが、ポイントになりますね。

 先のことを考えれば、2020年の東京五輪にも出場したいですし、海外のメジャー大会にも挑戦したい気持ちもあります。それらのことは簡単に実現できることではないし、そういう夢を語ったりすると、周囲からは『物事をもっと冷静に考えろ』って言われるんですけど、自分の中ではそういう思いは持ち続けていたい。これまで、それでなんとかやってこられましたし、これからも『なんとかなるさ』っていう気持ちを忘れずにやっていきたいと思います(笑)」

 話をしている間、松森は背筋をピンと伸ばし、一度も姿勢が崩れることはなかった。プロとしての意識の高さは、そんな所作からも読み取れた。さらに、身長170cmという恵まれた体型からは、アスリートとしての大きな可能性も感じられた。そのうえで、洗練されたファッションに身を包んだ彼女からは、スター選手が持つ"華やかさ"が伝わってきた。だからこそ、プロの世界における飛躍を一層期待させる。

 松森彩夏――彼女が今季、女子ゴルフ界に新たな風を吹かせてもおかしくない。

佐藤 俊●文 text by Sato Shun