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「ここが犯人の自宅らしいよ」。2月に少年3人が殺人容疑で逮捕された川崎市の中学1年生殺害事件で、逮捕された少年の自宅前とみられる場所から、ニコニコ生放送のユーザーが、ネット中継している動画が話題になっている。

このユーザーは、逮捕された少年の自宅前とみられる場所でネット中継を行い、マスコミの取材陣が集まっている様子や、親族とみられる人たちが出入りする様子を生中継していた。表札を映して、「犯人の本名は●●、下の名前は●●」と個人名を口にしたり、「人を殺しているからね。まあしょうがないね」と取材陣が殺到していることについてコメントしていた。

この動画に対して、ネットユーザーからは「お前の行動力に脱帽した」「個人情報出すな、訴えられるぞ」「これが冤罪だったらどうするよ」など、さまざまなコメントが寄せられた。

最近の犯罪では、犯罪の容疑者の情報をネットでさらして、社会的な制裁を加える「私刑」が問題になっているが、今回のケースにはどんな法的問題があるのだろうか。元裁判官の田沢剛弁護士に聞いた。

●社会的利益がある報道は認められる

「法治国家においては、原則として『私刑』は禁止されています。これを認めてしまえば、裁判所も警察も関係ない、無法状態となってしまうからです」

田沢弁護士はこのように切り出した。では、今回のようなケースが、具体的にはどういった法的問題があるのだろうか。

「人には、『私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利』があります。次の3つの要件に当てはまるような情報を公開されると、プライバシーの侵害として、民事上の責任が生じます。

(1)一般人にまだ知られていない、

(2)公表されると、私生活上の事実または、事実らしく受け取られるおそれがある

(3)一般人の感受性を基準にして、公開を欲しない。

公開された人物の社会的評価を低下させるような場合には、名誉毀損に該当し、刑事罰の対象となることもあるでしょう」

対象が犯罪の容疑者であっても、同じ扱いなのだろうか。

「マスコミによる犯罪の報道については、プライバシーを侵害するような内容であっても、これを報道すべき社会的利益が上回る場合には、違法になりません」

実名であることも「社会的利益がある」と言えるのだろうか。

「実名を挙げて報道すると、読者や視聴者に対する事実の訴求力が異なります。また、政治家の汚職事件など、実名での報道が権力の追及につながることもあるでしょう。

こうした理由から、マスコミには基本的に実名報道の原則があるようです」

●違法となる可能性が高い?

だが、今回は容疑者は18歳の少年ということで、事情が異なるのではないか。

「20歳未満の少年による犯罪の場合は、少年法61条が実名報道、推知報道を禁止しています。条文には、次のように規定されています。

『家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない』

これは、仮に罪を犯しても、いまだ成長途上にある少年の健全育成を援助することが社会の責任だ、という考え方が背景にあります。

実名報道など少年のプライバシー等を侵害するものは、その健全育成を阻害しかねません。そのため、そうした報道を規制する必要があるとの趣旨で設けられました。

少年法の規定があるため、未成年者の実名や容貌の報道が控えられているのが通常です」

今回、生中継をして情報を発信していたのは報道機関ではなく、個人だ。その点はどう見ればいいのだろうか。

「少年法の規定の趣旨からすれば、マスコミではない個人が興味本位に、容疑者とみられる少年の自宅前で中継行為を行うことは、まさに個人のプライバシーを侵害するものです。

また、容疑者の実名を公開することも名誉毀損罪に該当し、違法とされる可能性が高いです。慎むことが賢明でしょう」

田沢弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
田沢 剛(たざわ・たけし)弁護士
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。

事務所名:新横浜アーバン・クリエイト法律事務所
事務所URL:http://www.uc-law.jp