2015年女子ツアー「ニューヒロイン」候補(1)
■江澤亜弥(えざわ・あや/20歳)

『ゴルフに本気になればなるほど
プロになる夢が遠くなっていった』

 2014年シーズンも、若手プレイヤーの活躍が目立った日本女子ツアー。なかでも、ツアー本格参戦1年目となる、2013年プロテスト合格組の躍進は目覚ましかった。

 まず、鈴木愛(20歳)が日本女子プロ選手権(9月11日〜14日/兵庫県)を制覇。同大会の最年少優勝記録を更新するとともに、ツアー初優勝をメジャー大会で飾るという快挙を達成した。「大型ルーキー」として注目された藤田光里(20歳)も、優勝こそなかったものの、ベスト10フィニッシュを4度記録。賞金ランキング38位と奮闘し、見事今季のシード権を獲得した。さらに「2013年合格組」と言えば、プロテスト合格前から(TPD単年登録者として)ツアーに参戦していた成田美寿々(22歳)がいる。彼女もメジャー大会のワールドレディスサロンパスカップ(5月8日〜11日/茨城県)をはじめ、シーズン3勝を挙げる活躍を見せた。

 そして、まもなく開幕を迎える2015年シーズン、新たな「2013年合格組」のひとりが注目を集めている。昨年のファイナルQT(※)を21位で通過し、今季初めてツアーフル参戦を果たすことになる、江澤亜弥(20歳)だ。
※クォリファイングトーナメント。ファースト、セカンド、サード、ファイナルという順に行なわれる、ツアーの出場資格を得るためのトーナメント。ファイナルQTで40位前後の成績を収めれば、翌年ツアーの大半は出場できる。

 今季の目標を、彼女はこう語る。

「まずはシード権獲得。そして、1勝したいです」

 3歳からクラブを握る江澤は、「鮮明な記憶じゃないんですけど」と前置きしながら、こう振り返った。

「父が練習に行くのに、『亜弥も行く!』ってついて行ったのが、ゴルフを始めたきっかけらしいです。最初は、うまく打てなかったのが、少しずつうまくなっていったのが楽しかったんだと思います」

 父・利光さんは少し照れくさそうに、そのエピソードの真相を明かしてくれた。

「亜弥が3歳のとき、妹が生まれたんですね。私は休日、ゴルフの練習に行きたいんだけど、妻に娘ふたりの面倒を託すのは申し訳ない。でも、練習に行きたい。そこで、妻に『亜弥が、どうしてもゴルフに行きたいって言うんだ』って、亜弥を"ダシ"に使ったんです(笑)。(娘にも)その気にさせるために、シャフトにミニーマウスの絵が描かれたクラブを買って」

 しかし、練習場で利光さんは、我が子の思わぬ才能を知ることになる。顔見知りのコーチが、利光さんに言った。

「亜弥ちゃん、空振りを1回もしないですね。あの年齢で、それってなかなかないことですよ」

 娘が小学校2年生になったとき、利光さんは「今後もゴルフをやるなら、プロを目指さないか?」と聞いた。8歳の娘は、二つ返事で「うん、わかった!」と首を縦に振った。

 その返事から10年後、本当にプロになった江澤が言う。

「8歳なんで、プロというものをよく理解しないで、ただただゴルフをやりたくて、『プロを目指す!』って言ったと思うんです(笑)。もちろん、(宮里)藍さんへの憧れはあったんで、いつか私もプロの舞台で、ということは漠然とは思っていたと思うんですけど」

 江澤が小学生時代、宮里藍、横峯さくらら若手プロが躍動。女子ゴルフブームが巻き起こっていた。江澤は、家から近いということもあり、大塚家具レディス(2004年〜2010年まで埼玉県・武蔵丘GCで開催)を毎年生観戦。宮里の組について回り、毎年、その背中を見つめていた。

「そうして、中学2年生くらいから、自分も大会などに出始めるようになりました。以来、プロというのが、漠然とした憧れや夢から、現実的な目標に変わったんです」

 練習も本格化し、父とともに連日夜遅くまでクラブを振り続けた。

「正直、挫けそうにもなりましたね。練習をすればするほど、今まで以上に思うようにいかない。父にも怒られるし(笑)。『他の子は遊んでるのに!』って、遊びたい気持ちもあって。妹に『もうやめたいよ』ってグチったりもしました。でも、そんなときは、練習しながら『私は夢に近づいているんだ』って、自分に言い聞かせてきました。他の子より、有名な人になってやるんだって(笑)」

 父・利光さんは、娘の負けず嫌いな性格を理解し、よくこうハッパをかけたという。

「俺がプロを目指してくれってお願いしたわけじゃない。いつやめてもいいんだぞ」

 すると、娘は必ずこう答えた。

「ヤダ、絶対プロになる!」

 高校は、名門・埼玉栄高に進んだ。2011年には、現在プロツアーに参戦している渡邉彩香(21歳)、辻梨恵(21歳)、保坂真由(19歳)ら先輩、後輩とともに奮闘し、全国高等学校ゴルフ選手権の夏季大会で団体優勝を遂げている。その後、江澤はJGA(日本ゴルフ協会)女子ナショナルチーム育成選手にも選ばれ、将来を期待されるようになっていく。

 ただ、その実績と反比例するように、本人は「本気になればなるほど、夢が遠くなるようだった」と感じていた。

「中学生時代は、このままいけばプロになれるんじゃないかなって思っていたんですけど、高校に入ってからは、正直『厳しそうだな』って思うようになって......。うまい人はいくらでもいる。現実を知ったというか......実際、プロテストを何回受けても受からない人もいるし、受かったとしても上まで行けない人もたくさんいる。甘くないんだなって......」

 それでも、彼女の背中を押したのは何だったのか?

「やっぱり、女子ツアーの華やかな舞台で私も戦いたくて。あの舞台で戦いたいって思いが、諦めなかった、いちばん大きな理由ですね。『諦めたくない。やるだけやってみよう』が、今日までつながった感じです」

 彼女には、ふたつの好きな言葉があるという。ひとつは"初心忘るべからず"だ。

「高校時代、そして霞ヶ関CC(埼玉県)での研修生時代は、本当にがむしゃらにがんばってきました。あの日々の気持ちを忘れちゃいけないな、と思って。プロになるのが目標じゃなくて、プロになってから活躍するのが目標ですから」

 もうひとつの好きな言葉は"感謝"だと続ける。

「いろんな人が支えてくれたので、裏切れないし、裏切りたくないです」

 忘れられない光景がある。

「妹もプロを目指しているんですけど、父と娘ふたりが夜遅くまで練習し、帰宅すると、母はウトウトしながらも、必ず起きて待っていてくれたんです。『お帰り。お疲れさま』って」

『諦めないゴルフが身上
宮里藍さんのような選手になりたい』

 2013年、江澤はプロテストに8位で合格。しかし、すぐにプロのハードルの高さを思い知らされる。「いつもどおりにプレイすれば通過するだろう」と挑んだサードQTで、まさかの58位。翌2014年シーズンのシード獲得はならなかった。

 その結果、昨季はステップアップツアーを中心に活動。11試合に参戦し、トップ10入りは2度あった。レギュラーツアーには、推薦で4試合に出場。そのうち、2試合で予選突破という成績を残した(日医工女子オープン=20位タイ。サマンサタバサレディース=41位タイ)。

「去年を漢字一文字で表すと、"耐"だったなって思います。いろいろな意味で耐える1年でした。プレイはもちろん、同期の子たちが活躍しているのを見て、悔しいけど、自分もがんばらなきゃって......」

 冒頭で綴ったとおり、同い年で同期の鈴木愛は、実質プロ1年目でツアー優勝を飾った。

「(ステップアップツアーでも)一緒にやっていた子がポンって優勝したので、驚きというか、(先を越されて)悔しいという気持ちは確かにありましたね。でもそれ以上に、私だってできるはずだって、勇気づけられました。まだまだ(鈴木)愛ちゃんには届かないかもしれないけど、自分だってたくさん練習して、(鈴木に)追いつきたいし、追い越したい」

 いよいよツアーフル参戦を果たす今季に向けて、江澤自身、手応えをつかんでいる。

「(昨年は)レギュラーツアーにも4試合出させてもらって、2戦で予選を通過しました。初めて予選通過できたのが日医工女子オープン(7月4日〜6日/富山県)なんですけど、たまたまキャディーの方と年齢が近くて、リラックスしてプレイできたんです。本来の自分のプレイができれば、予選通過はできなくはないなって、自信になりましたね。私は、いい感じで進むと、(逆に不安になって)急に自分にブレーキをかけてしまって、結果崩れちゃうときがあるんです。だから、平常心でプレイすること、笑顔でゴルフを楽しむことが、今季の課題のひとつです」

 技術的な部分においても、強化すべきポイントは明確になっているという。

「ファイナルQTを戦う最中、ドライバーの調子だけがすっごく悪くて、もうどうやっても真っ直ぐ飛ばない。でも、ショットが曲がっても、アプローチ、パターで凌(しの)ぐことができれば、大崩れしないってことが実感できたというか、アプローチとパターの重要性を再認識したんですね。ショットはやっぱり水モノな部分ってあると思うんです。体調に左右されることもあるので。そういうときに救ってくれるのが、アプローチ、パター。これからは、アプローチとパターの練習の比重を、より増やそうと思っています」

 そして彼女は、自身の持つ武器も理解している。

「私は、諦めないゴルフが身上なので。最後まで粘り強く諦めないことが持ち味だと思っています。目標とする選手ですか? 小さい頃にずっと見ていた(宮里)藍さんみたいな選手になりたいなって思いますし、馬場ゆかりさんように、常に予選を通過する、崩れない、安定して上位にいる選手になりたいです」

 取材終盤、何気なく「もしプロゴルファーでなかったら、今何をしていたと思いますか?」と聞いてみた。

「競技は何かわからないですけど、昔からアスリートになりたいなっていう気持ちは強かったです。スポーツって、がんばったらがんばった分だけ、結果を出せば出した分だけ、評価される世界ですよね。ある意味、単純明快じゃないですか。それが、(自分の)性格に合っているっていうか」

 そう言って笑うと、彼女はこう続けた。

「長距離走は苦手なんですけど、バレーボール、バスケットボール......球技はどれも好きでした。結局、いちばんボールが小さい、かなり難しい球技を選んじゃったんですけどね(笑)。でもいつか、この競技で"一番"になりたいです。賞金女王にいつか、なりたいですね」

 男らしくて頼もしいですね、と言うと、やはりまだ20歳の乙女だ。江澤は少しはにかんだ。

「女の子っぽいとこもあるんですけどね。ピンクのウェアが好きだったりするので。でも確かに、お父さんにも言われるんです、『おまえは、ゴルフクラブを握ると性格が変わるな』って(笑)。調子が悪かったりすると、お父さんが、ああじゃないか、こうじゃないかって言っても、『黙ってて!』って。ゴルフ以外のことだと、大抵のことなら、『ま、いっか』って感じなんですけどね」

 試合前は、大好きなBIGBANGの曲を聴いてテンションを上げるという彼女。理想の男性のタイプは、「スポーツマン! 爽やかな人がいいです。30歳までには結婚したいですけどね(笑)」と言って、愛らしく笑った。しかし次の瞬間、凛としてこう言った。

「でも今は、ゴルフ。恋は、一人前になってからです」

 快活で、ゴルフに対して一途な江澤。「ニューヒロイン誕生」とメディアを騒がす日が訪れるのは、そう遠くないはずだ。

水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro