とうとう始まった2016年卒向け就職活動。一橋大学卒で博報堂に入社し(そして4年で退社し)た著者・中川淳一郎が書く就活本『内定童貞』(星海社新書)が刊行されました。

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2015年3月1日。例年より3カ月遅れて、2016年新卒の就職活動がスタートした。就職情報サイトのリクナビ・マイナビはしばらく「つながりづらい状態」、すなわち軽度のサーバーダウン状態にあった。日曜日ということもあり、早くも合同説明会などが行われていたらしい。
……完全に他人事みたいに書いているが、実はまったく他人事ではない。私はいま大学院の修士1年生で、今年は私にとっても就職活動をする時期にあたる。
正直なことをいうと、完全に怯えている。サークルの先輩の話、大学院に進学せず一足先に社会に出た同期や後輩の話、それからネットに流れるたくさんの噂にめちゃくちゃビビっている。
3月1日だけは見ないフリをしてBerryz工房のライブに行ったが、3月2日には心臓をバクバクさせながらリクナビとマイナビのアカウントを作り、プレエントリーをした。たった30分間ほどなのにものすごく頑張った気持ちになってしまった。
Twitter上を「リクナビ」「マイナビ」「就活」で検索すると、私と同じような状態の学生が雨後の筍のように出てくる。ごく一部の超絶優秀な学生を除き、みんなビビっている。

ビビっているときは、心の支えになる本を買いたくなる。そこで中川淳一郎の『内定童貞』(星海社新書)を買った。著者の中川は新卒で博報堂に入社(スゴイ)。それを4年で辞め(スゴイ)、フリーライター&フリー編集者として活動、単著も出している(スゴイ)。前著の『夢、死ね! 若者を殺す「自己実現」という嘘』(星海社新書)も面白かった。

カバー見返しの最初の一文にはこうある。
〈学生は、就活への恐怖を肥大化させ過ぎている〉
めっちゃ恐怖、デブってます!
読み進めていくと、次のように書いてある。
〈本書では、学生が本当に知りたいであろう「面接の本質」「社会人として生きる術」「内定を取るまでの建前排除の手順」「企業・面接官が考えていること」「失敗しがちな学生が陥るワナと成功する学生の飄々とした様子」「失敗した場合の心構え」「人生は案外うまくいく」ということについてを、これまでなんとか社会で生き残ってきた経験をもとに書く〉

全4章の目次と、小見出し(一部)を紹介しよう。
・はじめに
合理的にやれば、就活など怖くない/命あってこその就職。死ぬな
・第1章 「就活」という悪夢を分解する
企業の「求める人物像」を真に受けてはいけない/面接は「気持ちよく会話ができるか」、これに尽きる/現代就活あるある座談会
・第2章 面接官は神でも巨悪でもない、ただの人間である
人事は「圧倒するべき敵」ではない/面接に必要な、5つの「答え」/内定が内定を生む
・第3章 美辞麗句の裏にある、企業の本音を知れ!
面接は合コンである/通った理由など、誰にも分からない/質問に答えること、面接官を敵視しないこと
・第4章 「仕事=神聖なるもの」という誤った認識
仕事は基本、くだらない/第一志望に入れずとも、いくらでも死ぬな/幸せは、「環境」がもたらすものではない

就活本といえばES(エントリーシート)のオススメの書き方や、自己分析や業界研究のやりかた、面接のときに注意するべきことなどがたくさん並んでいる。が、『内定童貞』で書かれているポイントは非常にシンプルだ。

・面接はコミュニケーションの場であり、合コンみたいなものである(出す話題は「このネタは合コンでウケるか?」と自問自答してみるといい)
・就活は学生と会社とのなんとなーくの相性を見るもの(なので、落ちてもそこまで凹む必要はない)
・ウソをつかない(バレるし、咄嗟の受け答えに焦りが出るから)
・OB訪問をする
・社会人からのアドバイス(「この業界に向いてるんじゃない?」など)は素直に聞く
・就活でうまくいかなくても死ぬな

わかりやすい。中で紹介されている具体例は、著者の中川が就職活動をしていたときのエピソード(プロレスの話がウケたことや、博報堂の社員に受けたアドバイス)や、逆に中川が人事に一部関わった時に出会った学生のエピソードが中心だ。知り合いのエピソードで「僕はエッチの大魔王で〜〜〜す!」と自己紹介して電通から内定をもらった例などもある。
就活は、いかに魅力的な人間であるかと、いかにきちんと(「うまく」ではない)コミュニケーションができるかがポイントなのかもしれない──就活をしたことがない「就活童貞」にすらそう思わせる説得力がある。
その分、魅力やコミュニケーション能力に自信がない身としては「や、やばい!」と違った意味で焦りを感じるが、「難しいことはしたくない、顔はブス、コミュ力は自信ない、石油王と結婚したい」は都合がよすぎることもさすがにわかっている……。

できれば本書は3月中(少なくとも、就活初期)に読んでおいたほうがいい。これから数カ月して選考が始まり出し追い込まれてくると、裏技や特効薬にすがりたくなる。また「咄嗟にこんな受け答えができるなんて、さすが頭のいい人は違うな……それに比べて自分は……」と卑屈にもなりかねない。
今のうちに読んでおいて、うまくいけばそれでよし。うまくいかなくても「う〜〜〜死にたいにゃん〜〜〜」と思いかけたときに、「いや、死ななくてもよくね?」と我に返る安全装置として働くよう持っておきたい。

ちなみに、本のタイトルの『内定童貞』とは、学生が内定を取れない(=童貞を卒業できない)ことで焦り、よけいに迷走し、悪循環に陥る状態のこと。童貞をひょんなことから卒業すると次の機会も発生しやすくなるように、内定童貞を卒業できれば他の企業からも内定が来るようになるのだという。
2015年3月現在の段階では「早く童貞卒業したい!」という気持ちと、「好きな人に捧げたい!」という気持ちが入り混じっている。童貞をこじらせかけたら、『内定童貞』を読み返します。

(青柳美帆子)