by Tanvir Alam

健康のためには適度な運動が必要ですが、過度に体重が増えてしまった場合は、「胃を小袋に分ける」や「一部を縛って満腹感を作り出す」などの手術が行われることもあります。胃バイパスなどは開腹手術が必要なわけですが、新たに開腹手術なしで「胃に器具を入れることで脳をだます」というダイエット法が考案されました。これまで胃バイパス手術を受けても効果がなかった人が満腹感を得つつも劇的に体重を落とすことができるなど、かなり効果が見込まれそうな内容となっています。

BFKW - Full Sense Bariatric Device

http://www.bfkw.org/

The Invention That Could End Obesity - BuzzFeed News

http://www.buzzfeed.com/joeloliphint/the-invention-that-could-end-obesity

胃バイパス手術や胃バンディング手術が「少ない食べ物で満腹になる」というコンセプトなのに対し、新しく考案されたFull Sense Deviceによる減量法は「食べ物がなくても満腹になる」というもので、内視鏡を用いて食道と胃をつなぐ部分に以下のような器具を設置します。



仕組みはこんな感じ。



Full Sense Deviceを開発したのはランダル・ベーカー医師。1980年代に胃バイパス手術を受けたボニー・ローラさんという女性がいたのですが、彼女は手術のせいで胃が小さくなってしまい、ほとんど液体しか摂取できなくなってしまい、肉やパンを食べるとすぐにもどしてしまうという状態でした。何とかしてローラさんを普通の生活に戻すべく、ベーカー医師が行ったのが血管などを管腔内部から広げるステントを胃に設置するというもの。ものを飲み込めない人が食道にステントを設置して食道を開いたままにする施術はよく行われるのですが、胃にステントを設置した人は過去にいなかったとのことです。

写真の男性がベーカー医師。



処置から2週間後、ローラさんは液体以外の食べ物を摂取できるようになったたけではなく、体重を減らすことができました。ローラさんの「お腹が減らない」という発言を聞き、ベーカー医師はこれまでの施術は誤りで、「胃の一番上の部分を圧迫することで、実際に食べ物を摂取しなくても脳が『満腹感』を得られるのでは」という仮説を導き出しました。そして「胃の上部に圧迫をかける器具を設置したらどうなるだろう」という考えから、Full Sense Deviceが開発されることになったわけです。

ベーカー医師が作ったFull Sense Deviceは、本体はシリコン製で、筒部分にはニチノール製のメッシュワイヤが使われています。これを10分たらずで食道を通して胃まで到達させ、最大6カ月間、体内に置いておきます。現在までにFull Sense Deviceを試した人の多くは6カ月の間に増えすぎた体重の75%を減少させ、器具を体内から取り除いた後も体重を減らし続けることができているとのこと。6カ月で75%という数字は他のダイエット法に比べても著しいもので、減量の際に「厳しい副作用はない」とベーカー医師は語ります。



もちろんFull Sense Deviceに懐疑的な医師も存在し、酸っぱい液体が口まで上がってくる「呑酸(どんさん)」に慢性的に悩まされる人も報告されています。しかし、Full Sense Deviceが正式に市場に出ることとなれば5000ドル(約60万円)で肥満を解消できることとなり、1年で何十万、何百万もの人々の悩みを解決できると考えられています。

「空腹」の概念はシンプルですが、科学的には解明されていない点が多くあります。グレリンレプチンというホルモンがカギとなっているということまでは分かっているものの、胃が脳とどのようにコミュニケーションを取っているのかもいまだ不明。肥満手術がなぜ体重の減少をもたらすか、ということについても、実はまだ意見の一致を見ておらず、「物理的なサイズが小さくなるため」という説もあれば「吸収不良を起こすため」という説、あるいは「胃の中のバクテリアが重要な働きを行う」という説もあります。

一方で、ベーカー医師の見方によると、胃バイパス手術が体重を減少させるのは胃を小さくすることで少しの食料でも胃を圧迫し「満腹である」というシグナルを脳に送るからとのこと。多くの人は満腹の状態をオンかオフ、つまり「空腹」か「満腹」の2択であると考えていますが、「満腹」は連続するシグナルの1つであり、胃にかけられる圧力により「むかつき」「嘔吐」などに変化していくそうです。そのため、適切な圧力を胃にかければ食べ物の有無に関わらず脳に満腹シグナルを送れるわけです。

以下が徐々に改良されていったFull Sense Deviceのプロトタイプ。



Full Sense Deviceが一般的に使われるようになるには各国の認可が必要なのですが、ヨーロッパで販売するためのCEマークは取得できそうなものの、アメリカ食品医薬品局(FDA)の認可の取得は時間がかかるとのこと。これはCEマークが安全性を求めるのに対し、FDAが安全性と効果の両方を示さなければならないため。FDAの認可がなければ人を対象とした治験も行えないため、これまではメキシコのカンクンで治験が行われていました。アメリカでの使用が認められるのはそう簡単ではなく、Full Sense Deviceの開発を行うBFKWの社長であるフレッド・ウォルバーン氏は「FDAが処理を行うまで3〜4年はかかるだろう」と見ているとのこと。



今日明日の実現は難しいものの、何十年も胃バイパス手術に苦しめられてきた人や、一向に効果がでなかった人が、たった6週間Full Sense Deviceをつけただけで体重が減少した事例もあり、市場に出回れば多くの人を健康にできると考えられています。実際にFull Sense Deviceを試したローラさんは「ベーカー医師は胃バイパス手術に何年も苦しめられてきた私を救ってくれました。もう一度ステントを設置して、効果があることを人々に伝えたいくらいです」と語りました。