遥かなるツール・ド・フランス 〜片山右京とTeamUKYOの挑戦〜
【連載・第46回】

 TeamUKYOに移籍して3年目――。31歳の土井雪広は今季、エースライダーとして若いチームを牽引する。ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアと並び、「3大ツール」のひとつに数えられるブエルタ・ア・エスパーニャを日本人として初めて走った土井は、今の若手に対してどう思っているのか。

 2015年のTeamUKYOは、31歳の土井雪広が名実ともにチームの司令塔として中心的役割を担う。昨年まで自らに課していた役割は、レース全体の状況を見ながら戦略を組み立て、集団の中で駆け引きを行ないつつ、エースライダーたちを勝負どころまで牽引していくアシストの役割だった。しかし今年は、「自分自身も積極的に勝ちを狙いに行く」と話す。

 そのひとつとして、明確に目標を据えているのが、毎年初夏の6月ごろに行なわれる全日本選手権だ。

 土井は2012年の全日本選手権で勝利を収め、「ナショナルチャンピオンジャージ」を手にしたその年の冬、TeamUKYOに加入した。各国のナショナル選手権で優勝を果たした選手は、次の年の大会まで、その国の国旗をあしらった特別なチャンピオンジャージを着用してレースに参戦する権利を持つ。ナショナルチャンピオンジャージを着ることができるのは各国1名と限られているため、国旗をあしらったジャージを着用している選手は、自転車ロードレースの世界では大きな敬意をもって待遇される。

 2013年の全日本選手権は新城幸也(チーム・ユーロップカー所属)が優勝し、日の丸がデザインされたジャージを着用して、欧州で数々のクラシックレースやグランツールに参戦した。2014年、土井は日本チャンピオン奪還を狙って全日本選手権に臨んだが、残念ながらその目標を果たすことはできなかった。だからこそ、2015年は3年ぶりの王座奪還を狙いたい、と話す。

「全日本は勝ちたいですね。(地元の)山形のファンにも公言してきたから、プレッシャーも大きいんですよ。チャンピオンジャージを1回着たから、『もういいかな』とも実は思っていたんですけど(笑)、やっぱりそうじゃない。また勝ちたいし、やらなきゃならない。だから、今年はガチンコで勝負に行きますよ」

 全日本選手権のみならず、土井は国内シリーズ戦のJプロツアーでも優勝を狙いたい、と話す。そのためのチーム体制作りという点では、昔からよく知る29歳の後輩・畑中勇介がシマノレーシングチームからTeamUKYOに移籍してきたことは心強い材料だろう。

「おそらく基本的な戦略としては、畑中がJプロツアー、僕が全日本選手権やツアー・オブ・ジャパンを狙いに行く、というスタンスになると思います。ただ、Jプロツアーを毎戦、畑中やスプリント勝負の窪木(一茂)たちが勝てるわけでもないだろうから、そこはレースの種類や展開などの状況に応じて、臨機応変に組み立てていきたいと思っています」

 一般に、日本国内の自転車ロードレースの競技水準は、ワールドツアーの本場である欧州と比較して数十年の遅れをとっている、と言われている。その実力差は、欧州でプロコンチネンタルチームに所属し、数々のレースに長年参戦してきた土井自身が身にしみて痛感してきたことだ。欧州のトップクラスの選手たちと肩を並べて競い合うため、ひたすら己を徹底的に追い込む努力を続け、その結果、自転車ロードレース界の頂点でしか味わうことのできない喜びも味わってきた――という自負が、土井にはある。

 だからこそ、自分の経験してきたものを、可能性のある若い選手たちにも彼ら自身の手で獲得してほしい......という、強い願望と期待を抱いている。

「ロードレースって、1日に200キロほど走ることを、来る日も来る日も延々と続ける競技だから、精神的にも肉体的にも、すごく苛酷なスポーツだと思うんですよ。でも、今の日本の環境ではそんな苦労が報いられるだけの、プロフェッショナルと呼ばれるに相応しい報酬が確立していないというのも、厳しいけれども現実なんです。

 たとえば、30歳になったときの年収で比較したら、同年代のサラリーマンと同程度の収入がある選手は、日本では本当にごく一部です。一般論で言えば、会社に勤めていたほうがよっぽど儲かるし、安定している。でも、今の若い選手たちには30歳になったときに、『こんなことなら自転車選手にならず、就職しておけばよかった......』とは思ってほしくない。

 では、そのためにはどうすればいいのかというと、自分自身を厳しい環境下に置いて鍛え、どんどん強い選手になって欧州を目指すしかないんです。辛いことを言うようだけれど、『ヨーロッパに行きたいと思わないのなら、銀行員を目指してください』と、むしろ僕は思う。何百万円も親にお金を出してもらって大学を卒業したのなら、日本で全然食えない名前だけのプロ選手をやっているよりも、ちゃんと就職をしたほうが親だってきっと安心しますよ。

 もちろん、お金がすべてではないけれど、どうせ戦うなら最高レベルでやっているところに行きたいと考えるのが当たり前だと思う。だから、自転車に乗る以上はヨーロッパでクラシックレースを走ってほしいし、やがてツール・ド・フランスを走れる可能性だってあるだろうから、ボロボロになるまで努力をして、そこを目指してほしいんです。

 これは本当に、心底そう思う。だからこそ、TeamUKYOの選手たちに限らず、今の若い選手たちに問いかけたいんですよ、『君は何を目的として、今、日本で走っているの?』って。僕も初めてヨーロッパに行ったときなんて、本当に辛いしイヤでしたよ。言葉は分からないし、実力は全然違うし、いじめられることだってある......。でも、走れるようになれば彼らは認めてくれるし、そこでようやくレースの面白さや難しさも分かるようになる。それこそ、グランツールなんて走ると、ものすごく苦しいレースだけど、だからこそ本当に楽しい。その喜びこそが、スポーツだと思うんですよ」

(次回に続く)

西村章●構成・文 text by Nishimura Akira