「たとえ会社をアメリカのファンドに取られたとしても、私はこれで終わるつもりはない。人生を捧げてきたキノコ産業の発展と普及のために、死ぬまで頑張るつもりだ」

 東証2部上場のキノコ生産大手「雪国まいたけ」の創業オーナー・大平喜信氏(67)は自らを会社から“追放”しようというTOB(株式公開買い付け)に直面しても怪気炎を上げ続ける。ジャーナリスト・伊藤博敏氏がレポートする。

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 新潟県六日町(現・南魚沼市)の貧しい農家に生まれた大平氏は、中学卒業後、職を転々とし、「太もやし」の栽培などで事業の失敗を重ねながら、難しいとされてきた高級品種「まいたけ」の人工栽培に成功。83年、35歳で「雪国まいたけ」を創業した。
 
 同社のキノコは南魚沼市でコシヒカリと並ぶ「魚沼ブランド」となり、従業員1900人、年商300億円の規模に成長した。
 
 だが、さる2月23日朝8時、大平氏のもとに米大手投資ファンド「ベインキャピタル」が同社に対しTOBを実施するという驚天動地の情報が飛び込んできた。
 
 雪国まいたけ株は大平氏を始め創業家で約64%を保有していた。本来なら大平氏サイドへの根回しなしにTOBが実施されても成功するはずはない。
 
 ところが、メインバンクの第四銀行など銀行6行は株を担保に大平氏らに融資しており、その借金の返済が滞っていた。それを理由に銀行が担保権を行使して同社株を取得した上で、ベインキャピタルのTOBに応じるという。
 
 TOBに至るまでには、同社の経営権を巡る長い内紛劇がある。

 大平氏は2010年9月、大手自動車メーカーで最年少役員となったA氏を迎え入れ、実質的なナンバー2に据えた。だが、A氏が経営で独自色を打ち出そうとすると、「農業も、キノコも何もわかってないのに」と大平氏は不満を抱くようになり、2013年6月の株主総会でA氏を退任させた。それに反旗を翻したA氏は金融庁、東証、取引銀行へ大平氏の不適切な会計処理を内部告発した。
 
 その結果、大平氏は社長退任を余儀なくされた。しかし、株の過半を握るのは創業家である。昨年6月、「経営に関与しない」はずの大平氏が株主総会を操り、怒号が飛び交うなか、「反大平派」の役員を降ろし、代わりに自動車大手「ホンダ」出身の鈴木克郎氏(現会長兼社長)らを役員に送り込んだ。
 
 ところが事態はさらに混乱してゆく。大平氏が送り込んだ鈴木氏ら新役員が「反大平」に回ったのだ。大平氏にとっては裏切りである。大平氏は再度、株主権を行使して役員を送り込み、支配権確立のチャンスを窺っていた。
 
 時期到来と考えたのが昨年末だ。一部の株主が臨時株主総会の開催を迫ると、会社側との対立が決定的になった。そして鈴木会長兼社長と銀行団が「ホワイトナイト(白馬の騎士)」としてベインキャピタルを招くに至ったのだ。
 
 銀行団が担保権を行使して株式を取得した2月24日の段階で、筆頭株主は創業家から銀行に移った。TOBは20日の終値(207円)を18%上回る1株あたり245円で4月6日まで実施されるが、成立はほぼ確実だ。

※週刊ポスト2015年3月13日号