1931年創部の古豪JTサンダーズは、日本リーグ時代を含めて一度も降格を経験していない唯一のチーム。ただ、その一方で優勝の経験も創部以来84年間一度もない。近年は低迷が続いていたが、2009年から部長を務める栗生澤淳一は、昨年思い切った手を打った。

 現在欧州でもトップリーグの一つとなったトルコ準優勝チーム、ハルクバンクから、ヴェセリン・ヴコヴィッチ監督を招聘し、同時に全日本の主力・越川優を獲得。JTは8季ぶりのプレーオフ進出、10季ぶりの準優勝を果たし、栗生澤は成績と動員数アップの功績でベストGM賞を受賞した。

 今年度に入ってもJTの勢いは止まらず、天皇杯で優勝、リーグもレギュラーラウンドを首位で通過(※)。悲願のリーグ初優勝に向けて着々と歩を進めている。その栗生澤GM(部長)にJT再建について、そして悲願の初優勝にむけての話を聞いた。
※現在、8チーム3回戦総当たりで21戦を消化。これから、上位6チームがV・ファイナルステージに進出し、優勝を争う

―― JTは監督を生え抜きでなく、外から迎える事が続いていますが、そういうチームでのGM(部長)の役割とはどんなものでしょうか。

「チームに成果を挙げてもらうためにしっかりとサポートをするのは不変ですが、言語も習慣も異なることから特にコミュニケーションを密にする事を意識しています。さらに、今は強いだけではダメなので、いかにお客様に愛されるようなチームになるか、バレー教室等を通じたスポーツの振興と発展・CSR(企業の社会的責任)活動も行なっていくことが、企業スポーツに求められるものだと認識してます。強いチームであれば効果も高まるでしょう。

 公に言われている訳ではないですが、JTは『バレーボールは"社技"』のような風潮が感じられます。JTグループ全体がバレー部を支援してくださるので......本当にありがたいことですね」

―― GM(部長)就任前後からしばらく成績は低迷していましたが。

「正直どうしようかと思い悩むことが多かったです。自分がバレー一筋でやってきたことが視野を狭めたり。もう、誰が見ても当たり前のことをしっかりやるしかない。スカウトも必死に行なったつもりでしたが、低迷しているチームには、私の話術も含め、説得力は感じられなかったのでしょう」

―― 昨年は準優勝でしたが、ヴコヴィッチ監督の招聘と越川選手の獲得は大きかったですね。

「監督を選ぶときに、なんでもかんでも条件を並べて求めていましたが、昨年はいったん棚上げした。もう、とにかく強くしてくれればいいと。

 これまでは余計な事を求め過ぎてたんですよ。企業スポーツを理解してくれてとか、泥臭く粘って、伝統のレシーブを元に戻して攻撃力を増してとか。結局チームを一新しないと、どうしようもないところまで求めていた。これはいかんと。とにかく常勝チームにしてほしいということに絞りました。監督選定については、ハルクバンクの映像も見ましたし、現地にも視察に行きました。

 JTにとっての初めての外国人監督は99年のパルシン氏で、低迷していたチームを引き上げ、3回準優勝してます。その時に思ったのが、なぜ外国人監督が来たら、ある一定の成績を出すのだろうと。スキル部分だけじゃないものがあるんじゃないかってね。

 ヴコヴィッチ監督も、最初はネットで探したり、情報をもらったりしていたんですけど、"人となり"っていうのは絶対会わないと解らない。知っている人だと安心感だとか、妥協が出るかもしれないけど、全く知らない人との初対面はすごく緊張感がある。

 選手が監督を迎え入れたときも、『あの人知ってるから大丈夫』とかが一切ない。そういうスキルでない、人間的な部分ってすごく効果があるんだろうなと。たぶん、それがパルシン監督のときにもあったのではないかと思います。

―― JTサンダーズの悲願「初優勝」について、どうお考えですか?

「創部が1931年。84年という歴史から、OB・諸先輩方からの激励が期待やプレッシャーとして伝わってきます。ものすごい重圧とも取れます。84年間優勝していないチーム。それは必ずついて回るんですね。監督への条件付けも、脈々と続いたこの歴史が、そうさせたのかもしれない。84年の歴史というのは、成績が良くないときは、『呪縛』でもあるんだろうかと考えた時期もあります。社内では試合への動員をお願いしていますが、強くなれば、それも自発的に増えますし、JTの結束力は抜群です。それから、勝てば『応援に行こう』と関心も高まりますよね」

―― 優勝することで、何か変わることはあるでしょうか?

「オフシーズンに、バレー教室を行なって延べ人数3千人ほど、指導をさせてもらっていますが、その時に6位のチームが行くのと、準優勝のチームが行くのと、反応が違うでしょう? 同じ事をやっても違うでしょう? 優勝したらもっと違うと思うよって選手に話したことがあります。

 私がオリンピック出場して帰国後、『出場して何が変わりましたか』って聞かれましたけど、最初に私が変わったんじゃないんですよ(笑) ただ、周囲の反応が変わるんです。それを見て、聞いて、肌で感じて知らないうちに自分が変わって成長させてもらった。リーグ優勝でも同じ気づきがきっとあると思うんです」

―― 昨季獲得した越川選手とは、浅からぬ縁がありますよね。彼は大学進学の考えを覆し、サントリーに入社しました。できるだけ早くレベルの高いところでやりたいからとの理由でした。あの時、進学が決まっていたのが、当時栗生澤さんが監督を務める中大でしたね。

「あの時は、チーム(大学)を考えると残念で悔しかった。でも、いつまでもそれを引きずっていてもしかたがない。それに、私の中大の監督任期も決まっていた。だから、彼があのまま進学しても、そこで縁は切れていたかも知れません。状況的には今来てくれて助かったなと。去年、彼と食事に行なって、『そりゃあね、あの時は俺も残念だったけど、今こうやって12年越しに同じチームにいることが嬉しいよ』っていう話をしました」

―― 昨季の準優勝に続き、首位を走り続けている今季をどう見ますか。

「私見ですが、勝負には二通りの考え方があると思うんです。一つは、自分が何本クイックを決めた、ブロックを止めたという『どれだけ決めるか』という考え方。もう一つは、いかに相手に良いパフォーマンスをさせないようにする『どれだけ決めさせないか』。

 今季サンダーズの数字自体はそんなによくない。サーブとブロックはいいですけど、アタック決定率は決してよくない。でも相手より失点は少ないケースが多かったと思います。ブロックがついたときに無理をして打たないというのもあるし、相手に好きにさせないということでもあります。両チームの実力が拮抗していれば80%しか力を出せなくても、相手が50%だったら勝てるわけで、今季はそれができている。そして越川選手やヴィソット選手は、『勝負所』で得点してくれる。それは数字を一見しただけではわかりませんけどね」

―― 前回のパナソニック戦後、清水邦広選手が、「JTさんにうちのバレーを全くやらせてもらえなかった」と言っていましたが、まさにそういうことですね。

「そうだと思います。別のある試合では、攻撃のミスがゼロでした。普通あり得ないことなんですけど、こんなところが今季のうちのチームを象徴しているかなと」

―― ファイナルラウンドに向けて、いかがでしょう。

「入れ替え戦のときと同じで『普段通りいい仕事をしましょう』と。ただ、その『普段通りのこと』のレベルが上がってるだけなんです。いいときはそーっとしている方がいいから、黙ってベンチに座っています(笑)
 
 84年の悲願という話や諸先輩方の想いはオフシーズンにはしますが、シーズン中は、こちらからはしません。私自身が入社した時で、すでに60周年くらいですから、私も創部当時の事まで、すべて把握していないですし、諸先輩から聞いた話がほとんどです。

 今、頑張らなきゃならない選手達にプレッシャーに感じてもらいたくない。成し遂げた後にはいっぱい話したいと思いますけど。OB代表とも言える猫田(勝敏)さん(※2)も、私が大学1年の時にお亡くなりになっており伝説の人。『世界一にはなったけど、日本一にはなっていない』というような文言が一人歩きしてしまっている感もあるので、今は後ろ(過去)ではなく前(未来)を見て目標達成に集中してほしい」
※2 猫田勝敏(1944〜1983)。日本専売公社(現・JT)所属のセッター。全日本にも選出され、1972年ミュンヘン五輪で金メダルを獲得。丁寧なトスさばきで、世界を魅了した。

 序盤から首位を走ってきたJTだが、終盤にサントリーに1度抜かれ、最終日のサントリー戦では2セットとって、首位は確定したものの、フルセットの末敗れている。

 今季からサントリーで指揮を執るジルソン・ベルナルドは、パルシン監督時代に、3度あった優勝の機会を全て阻んだサントリーの元大エースなのだ。今度こそ、ついに初優勝が実現するのか、それともまたしてもJTの優勝をジルソンが打ち砕くのか。JTから移籍したイゴール選手がリーグ最多得点をたたき出す豊田合成や、最終日に入れ替え戦行きから一転5位まで復活した堺の勢いも侮れない。3月1日から始まるファイナル6は、初戦から熱い戦いとなりそうだ。

中西美雁●文 text by Nakanishi Mikari