人体自然発火は本当に存在するのか?

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家の中で炭化した人々の記録は120件記録されている。一見すると説明の付かない状況だ。謎はどのようにして解き明かされたか。

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先月、ウェブメディア『Doubtful News』が奇妙な話を伝えていた。インド・パランギニ村の生後7日の新生児が、足の表面10%にわたる重度の火傷によって入院したというニュースだ。2年前、当時生後3カ月だった兄のラーフルが、腹部と胸部に同様の火傷を負って入院している

この話の何が“奇妙”かというと、どちらの場合も、彼らの家族は原因として、人体自然発火を挙げているのだ。これが遺伝的な原因によるものかどうかを解明するために、調査が行われるとされている

数日前、この赤ん坊は両親とともに自宅に戻ることができたが、喜んでいいかというと、必ずしもそうではない。というのも、医師たちは、これが幼児虐待ではないかと疑っているのだ。

まず、遺伝的であろうがなかろうが、人間を自然発火させるような「症候群」は存在しない。そして、未成年の人権保護活動家シャンムガ・ヴェラユタムは、この家族は政府からの援助を要求するためにこの「戦略」を用いた可能性を指摘している。実際のところ、2013年、ラーフルの事故の結果、この両親は経済的援助を受け、農村地域において太陽光発電の新しい住居を分配していたプログラムにより、住む場所を得た。

どちらの事件も、子どもたちが自然に発火したことを証言する唯一の証人は母親自身だけだ。そして彼女の言葉を抜きにすれば、残るのは何も特殊なことのない火傷だけ、なのだ。

しかし、ひとつの疑問が残る。人間の体がひとりでに燃焼すること、いわゆる「人体自然発火」は、本当にありえないものなのだろうか?

古くからの謎

人体を燃焼させるには、少なくとも摂氏1,000度の高温が必要だ。これまでのところ、住居内で人が灰化して発見された事例は数々記録されているが、これらに見られる奇妙な事例として、遺体の周囲に火が広がらなかったケースが確認されている。このことから一部の人々は、この燃焼現象が体の内部から自然に発生したと信じるようになった。

人体自然発火への言及は、少なくとも17世紀にさかのぼる。19世紀の前半からは、医学雑誌でも議論されるようになった。当時、権威ある医療学術誌『British Medical Journal』までが、この問題に関して多くの発言を掲載している

おそらく、知名度に貢献したものの多くは、チャールズ・ディケンズの小説『荒涼館』(1872年)のような空想の作品だ。この作品では、アルコール中毒のクルックが人体自然発火で死亡する。ディケンズ自身、これが実際に起こると信じていた。

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Charles John Huffam Dickens” by Grammaticus Bramlington (CC:BY 2.0 Generic)

それほど「自然」ではない発火

しかし当時から、医師の大部分が、この現象を繰り返し否定している。彼らは特に、すべての事例が、病人に関わるものであることを指摘した。病人たちは、自分の衣服に火が燃え移ったとしても気づかないことが多かっただろうし、対処するのも困難だったことだろう。さらに多くの場合、着火や、燃焼を促進する外的な要因(暖炉、ガスランプ、タバコなど)が存在していたという証拠も残されていた。

こうした説明は、確かに合理的だ。しかし、生身の肉体が灰のかたまりに変わるという恐ろしいシナリオを完全に説明するものではない。さらに、全身が燃えてしまうならともかく、足やすねが燃焼を免れていたケースもあった。これはいったい、どうしたわけだろう?

結果として、疑似科学の理論がはびこることになった。例えば、1996年に出版されたのが、『謎 戦慄の人体発火現象』(原題:Ablaze!)という本だ。スクールバスの運転手で独学で科学を学んだという著者、ラリー・アーノルドは「ピロトロン」の存在を解説している。アーノルドが発見したこの粒子は、ある種の状況において、わたしたちの体を発火させる連鎖反応を引き起こすのだという。

実験

今日、人体発火が想定される事例に関して最も受け入れられている説明は、2人の懐疑論運動の巨人、「探偵」ジョー・ニッケルと犯罪科学の専門家ジョン・F・フィッシャーの努力の賜物である。2人は、2年にわたってこの現象を研究して、次のような結論に達した。人体自然発火に外的要因が必要であるならば(分析されたすべて事例において外的要因を排除することはできなかった)、最もありうべき説明は、いわゆる「ろうそく効果」(芯燃焼)だ、というものだ。

一度人体に火が付くと、体内の脂肪が溶けて、被害者の衣服に染みこみ始める。溶けたろうがろうそくの芯に燃料として供給されるのと同じメカニズムだ。このようにして数時間すると、骨も粉々にするほどの温度まで到達する。

燃え残った部分があったことに対する最もシンプルな説明は、「多くの被害者は座っていた」「火は高所に上っていく傾向がある」、さらに「足やすねはあまり脂肪を含んでいない」というものだ。そして、豚を用いたさまざまな犯罪科学の実験が、この理論を裏付けた。

さらに、ろうそく効果の「変種」が生物学者、ブライアン・J・フォードによって考え出された。フォードによると、少なくともいくつかの事例においては、人体の燃焼をケトーシスの状態が助けることになったという。脂肪酸の代謝異常が、極度に燃焼しやすい分子、アセトンを過剰につくり出す状態を考慮したフォードは、豚肉をベースにしたスケールモデルをアセトンで浸して実験したのだが、結果として、この豚肉は非常に急速に燃焼したという。

細胞が、燃焼の進行に決定的となるほどのアセトンをつくり出すことは困難だ。しかし、この“燃焼促進剤”の存在が、被害者の衣服をより燃焼しやすくしたというのはありえることだ。

こうした証拠があるなか、それでもまだ、人体の未知なる特性による人体自然発火が本当に存在している人は、懐疑論者ベンジャミン・ラドフォードによる、次の論理的な統計学的反論に答えなければならないはずだ。

「もし人体自然発火が現実の現象なら、なぜもっと頻繁に起こらないのか? 世界に70億人の人がいて、道を歩いている間に火に包まれた人の事例を私たちはまだ知らない。誰も、突如燃えている間に、目撃されたり、撮影されたり、映像が見つかったり(例えば監視カメラで)したことはない。常に個々の人に起きていて、火の元の近くに1人でいた人たちだ」

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