クマムシ、テツandトモ…ヘタなミュージシャンより歌心があるお笑い芸人列伝
 お笑いコンビ、クマムシの決めフレーズ『あったかいんだからぁ♪』が一つの曲になって、2月4日にシングルリリースされました。

⇒【YouTube】最近話題のクマムシ「あったかいんだからぁ♪」が唄になりました。 http://youtu.be/tuQdyk1lZXA

 このクマムシの他にも、『もしかしてだけど』のどぶろっく。少し前には、ゆずを上回る質の高さを誇った山口智充と宮迫博之によるユニット・くず。さらには芸人たちが「マジソング」を作ってしまうテレビ東京の番組『ゴッドタン』など、昔からコメディと音楽は切っても切れないもの。

 そこで比較的記憶に新しいところから名曲、名演を振り返りつつ、「もしかしたら下手なミュージシャンよりすごいんじゃないか?」という彼らの実力を改めて味わってみたいと思います。

◆実は名曲、テツandトモの「なんでだろう」

 まず音楽そのものがネタになっている例で外せないのが、「なんでだろう」のテツandトモ。02年度のM−1グランプリで立川談志から絶賛されたエピソードはあまりにも有名です。そしてネタに合わせた曲の展開も見事でした。

「ルカ」の大ヒットで知られるシンガーソングライターのスザンヌ・ヴェガは「すべての神秘はAマイナーでやってくるのよ」と語りましたが、彼らの「なんでだろう」が心をとらえて離さないのもそのせいかもしれません。

 しかしその純粋な闇のようなマイナーコードが、オチへ来ると一転してAメジャーコードになって視界が開ける。分かっていてもこのカタルシスには抗えない。それはデル・シャノンの気持ちよさに通じる瞬間です。

「なんでだろう」で思いだす名曲 Del Shannon - Runaway…

⇒【YouTube】Del Shannon - Runaway http://youtu.be/0S13mP_pfEc

◆ムダに高水準だったアダム・サンドラーの1曲

 そしてネタが名演を生んだのか、はたまたその逆か。いずれにせよ、曲の完成度、歌唱ともにムダに高水準だったのがアダム・サンドラーの「Red hooded sweatshirt」。

 ソングライティングの教科書があったら、参考例として掲載したいほどの見事な押韻です。そのうえで意味を通し、笑いを誘い、最後にはどこかさびしげで優しい余韻が残る。基礎がしっかりと押さえられているからこそ可能なパロディなのではないでしょうか。

⇒【YouTube】Adam Sandler:Valentine’s Day Song - Saturday Night Live http://youtu.be/81WwGlbVcBg

 余談ですが、当時MLBシンシナティ・レッズに所属していたブロンソン・アローヨ投手が、キューバからやってきたアロルディス・チャップマン投手と一緒にこの曲をカバーしたのも傑作でした。

◆井上マーの「尾崎豊のモノマネ」は絶品だった

 もう一つお笑いと音楽を結び付けるのが、モノマネ。尾崎豊になりきる井上マーは絶品でした。最近ではギターを弾きながらの歌マネも披露していますが、かつての“尾崎漫談”には遠く及びません。語り口をなぞる正確さの方に、より音楽を感じるからです。

⇒【YouTube】尾崎豊とミスチル(Mr.Children)が絶対に言わないこと【芸人動画図鑑】【井上マー】 http://youtu.be/GuGVykS1Pr8

 それにしても、どうしてこれほどの芸をいまテレビで観ることができないのでしょうか。怒っちゃう人でもいるんでしょうか。

◆ブルース・スプリングスティーンが2人いる!

 “教室の楽器でやっちゃおう”シリーズでおなじみのジミー・ファロンもモノマネの名手。ブルース・スプリングスティーンとニール・ヤングという、声質の全く異なる二人を完璧に再現する超絶テクの持ち主です。

⇒【YouTube】Bruce Springsteen And Neil Young Sing“Whip My Hair”(Late Night with Jimmy Fallon) http://youtu.be/9adAljIaKYc

 またスプリングスティーンの器の大きさも見逃せません。

 本人登場まではモノマネ番組でよくある展開。しかしバンダナや袖なしのデニムジャケットといった80年代風のファッションをバカにしたファロンの出で立ちそのままで現れるのはさすが。「ボス」と呼ばれるだけのことはあります。

⇒【YouTube】Bruce Springsteen & Jimmy Fallon:“Gov. Christie Traffic Jam”(“Born To Run”Parody) http://youtu.be/VKHV0LLvhXM

◆ビル・マーレイのヘタクソで得体の知れない歌

 最後にネタでもなんでもなく、ヴァン・モリソンの名曲「Gloria」をヘタクソなギターで真剣に歌ったビル・マーレイをご紹介。07年、クロスロードギターフェスティバルからのワンシーンです。いつ見ても何を考えているか分からない表情をする人です。そもそも彼はこの曲が好きなんでしょうか?

 しかしこの得体の知れなさに、本物のコメディアンの凄味を感じてしまうのです。

⇒【YouTube】Bill Murray and Eric Clapton - Crossroads http://youtu.be/Nh9HdpqOaXo

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>