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「人は努力と訓練によって、何者にでもなることができる」と言われたら、あなたはどう思うだろうか。きっと多くの人は、「さすがにそれは楽観的すぎるのでは?」と感じるに違いない。しかし、このような楽観主義を基本的な考え方として心理学の体系を創りだした人がいる。オーストリア出身の心理学者、アルフレッド・アドラーだ。

アドラーの創始した「アドラー心理学」はいま日本でちょっとしたブームになっている。本屋に行けば、アドラー心理学の本がズラリと並んでいる。もしかしたら既にアドラー心理学に関する本を読んだことがあるという人がいるかもしれない。読んだことがなくても、名前ぐらいは聞いたことがあるという人が多いのではないだろうか。

今回紹介する『1分間アドラー 人間関係の悩みをゼロにする77の原則』(桑原晃弥/SBクリエイティブ/2015年2月/952円+税)もそんなアドラー心理学に関する本のうちの一冊だ。もっとも、本書は既に数多く出版されているアドラー心理学の入門書とはちょっとだけ違う。本書はいわゆるアドラー心理学の解説書ではなく、語録集に近い。節のタイトルとしてアドラーの言葉が引用され、その言葉について見開き1ページ程度で解説がなされる、というのが本書の基本的な構成だ。言葉は全部で77個掲載されている。書名が示すように1節は1分程度でサクッと読める。通勤電車の中や待ち合わせの空き時間など、細切れ時間に読むのに適した構成だと言えるだろう。もちろん、時間をとってまとめて読むのも悪くない。

○アドラー心理学はアドラー自身の体験に基づいている

アドラー心理学は非常に前向きで、時には理想主義的すぎると言われることも少なくないが、アドラーは別に机上の空論といてこのような楽観主義的な心理学を提唱したわけではない。実はアドラー自身が、楽観主義によって人生を切り開いてきたという経緯がある。そういう意味では、アドラー心理学は彼自身の経験に基づいた理論なのだとも言える。

アドラーは幼少期、様々な困難に直面していた。数々の持病に悩まされ、勉強では優秀な兄と比較されることが多くコンプレックスを感じることも少なくなかった。学校の授業は退屈で、数学は落第寸前だった。しかしアドラーは負けなかった。周囲のサポートによってアドラーは持病を克服し、病気で死にかけた経験から医師になることを志す。落第寸前だった数学は、最終的には得意教科に変わっていた。このようにアドラーは幼少期の困難を乗り越えたが、それができたのは彼が「できることをしよう」という楽観主義的な考えを持っていたからだ。

物事を楽観視せずに冷静な目で批判的に分析することも時には必要だが、そうやって批判ばかりしているだけでは前には進めない。基本的に、自分を取り巻く世界を変えようと思ったら行動する以外の方法はない。あれこれ悩んで行動できないという人は、きっとアドラー心理学からヒントを得ることができるはずだ。

○行動はすべて目標によって確定される

また、アドラー心理学は「行動」だけでなく、その前提となる「目標」についても触れている。単に「行動しろ」と言われただけでは、何をすればいいのかわからない。行動はすべて目標によって確定される。言われてみればあたりまえだが、この点を意識できていないばっかりに迷走している人は数多くいる。

毎日、漫然と生きているだけでなんとなく不安な気持ちを抱いているという人は、往々にして目標を見失っている。行動するにも何をすればいいかわからないという人は、一度自分の目標について考えてみるとよいだろう。

また、その時には「共同体感覚」を意識してみるとよいかもしれない。「共同体感覚」は、アドラー心理学を語る上での重要なキーワードだ。「共同体感覚」の詳しい説明は本書に譲るが、ざっくり言えば他者について「私たちはみな仲間だ」と感じ、そこが自分の居場所だと感じられることである。このような「共同体感覚」を意識した上で目標が設定できれば、有用で意義のある行動へとつなげることができるだろう。

○「前向き」になるためのヒントをさがす

本書を読むと、アドラーがフロイトやユングといった分析的な心理学者と比べてかなり目的志向であり、前向きであることがわかる。そういう意味では、アドラー心理学は実践的な心理学だと言えるかもしれない。

生きていれば、誰だって落ち込むことがあるはずだ。そんな時には、本書をパラパラとめくってみると、前向きな気持ちになれる言葉を見つけることができるかもしれない。気持ちが後ろ向きになってしまった際には、本書で「前向き」になるためのヒントをさがしてみてはいかがだろうか。

日野瑛太郎ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。

(日野瑛太郎)