『今日も嫌がらせ弁当 反抗期ムスメに向けたキャラ弁ママの逆襲』(三才ブックス)

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 たとえばFacebookなどで、ひとりのママ友が『妖怪ウォッチ』のキャラ弁をあげれば、ほかのママたちも我が我がと『アナ雪』だ、『仮面ライダードライブ』だ、『アイカツ』だのをアップして......。そうしたママ友間の激しい戦いが繰り広げられるのがキャラ弁の世界、かどうかは分からないが、子どもを喜ばせることがキャラ弁の目的だろう。弁当の蓋を開けるやいなや目をキラキラさせ、美味しそうに食べる我が子の姿を想像しながら、朝もはよからわざわざ凝った弁当を作るのではないだろうか。

 しかし蓋を開けたら、「切断された指」が入っていたらどう思うだろうか。人の指に造形したウインナーに、血に見たてたケチャップを添えた、その名も「残暑見舞い。身も心も凍りつけ!」弁当だったとしたら。

 そんな指弁当の作者は、八丈島に住むとあるシングルマザー・ttkk(Kaori)氏である。なぜ、彼女は可愛らしいキャラ弁ではなく恐ろしい弁当を作るのだろうか。

『今日も嫌がらせ弁当 反抗期ムスメに向けたキャラ弁ママの逆襲』(三才ブックス)によると、その名の通り「無視した返事をしない程度の可愛らしい」反抗期を迎えた高校生の次女への、「ささやかな抵抗としてスタート」したという。それをなんと、高校3年間毎日続けたというから大した執念である。

 さて、冒頭の指弁当は製作時期も初期のため、まだまだ序の口である。毎日作り続けたことで、嫌がらせ度も技術も目に見えて向上しているのだ。

 そのひとつとして、海苔文字が日に日に美文字に。その作り方がまた面倒極まりない。

「1.切り抜きたい文字や絵をトレーシングペーパーをのせボールペンでなぞって書き写す。2.カッティングボードの上に海苔を置き、トレーシングペーパーを重ねてカッターで切り抜く。(中略)5.チーズを下敷きにして並べる。(中略)全体の配置のバランスを見ながら、ご飯の上など、平らな部分に並べていく。完成!」

 こんな執念深い作業に、「早起きしろ!」「弁当箱出せヨ」といった母の主張を乗せるのだから、その思いが娘に伝わらないはずがない。

 嫌がらせ弁当2年目ともなると、技術力が格段にアップ。「缶コーヒー・BOSS」弁当や、「木工用ボンド」弁当、「日清・カップヌードル」弁当など、実在の商品を海苔やカニカマ、白飯などで精巧に模した弁当が登場。これがもはや、素人技ではないのだ。

 さらに3年目には、海苔で描く似顔絵弁当も進化。マツコ・デラックスや美川憲一、黒柳徹子、江頭2:50などなど、プロの似顔絵師顔負けの模写を披露するのだ。普通の絵でも絶賛するレベルなのに、これが海苔を切ったものなのだから、脱帽モノの器用さである。

 技術もさることながら、毎回違うネタを考えなければいけないということも、嫌がらせ弁当最大の難点だろう。

 だが、母親はそんなところではつまずかない。なぜなら、弁当の最大の目的は技術を披露したり嫌がらせすることではなく、娘とコミュニケーションを取ることにあるから。伝えたいネタは尽きないのだ。

 1年目は「あくまで娘に対する一方的な嫌がらせが目的」だったが、「日々お弁当を作り続けるうちに楽しくなって」きたといい、娘は「ウザイウザイと呟きながら」登校していた。

 そして2年目になると「よりメッセージ色が濃くなっていった気がします。『何かを伝えたい』という思いが増えていった」という。娘も「ごくまれに、私がお弁当に込めたメッセージになんとなく応えてくれたことも」あったそうだ。

 3年目はさらに、「お弁当に込める思いが、より強くなってきた」という。それはわかりやすいメッセージのほか、「形にはあらわれない、内側に込めた思い」と振り返る。

 そんな母の思いまみれのお弁当を「残さず食べてくれた」娘もまた、毎日蓋を開ける瞬間を心待ちにしていたに違いない。今日はどんな嫌がらせなんだろう、と目をキラキラさせながら。
(羽屋川ふみ)