■日本代表
遠藤保仁インタビュー(1)

「アギーレ監督、解任」――衝撃的なニュースが駆け巡ったのは、ガンバ大阪が宮崎キャンプに出発する前日の夕方だった。日本代表の主力である遠藤保仁は、冷静な口調でこう語った。

「残念だよね。オレは好きな監督だった。(選手の自主性を重んじる)ザッケローニ監督やジーコ監督と違って、トルシエ監督に近い感じ。よく怒るけど、いいプレイをすると褒めてくれる。練習は、メリハリが利いていて、新鮮だった。日本人のメンタリティーをより理解すれば、日本代表にとって、すごくいい監督になると思っていたんだけどね......。(八百長疑惑の)裁判で、最終的に"クロ"の判決が出たのなら仕方がないけど、その前の段階で解任っていうのは、個人的にはもったいないな、と思っている」

 アギーレ監督の解任が発表されるおよそ10日前、日本代表は連覇をかけて臨んだ2015年アジアカップ(オーストラリア)で準々決勝敗退に終わった。グループリーグは安定した戦いを見せて、3連勝で難なく突破。決勝トーナメント初戦のUAE戦でも、相手に先制点を許したとはいえ、日本が完全にボールを支配していた。しかし1−1に追いついたあと、相手をさらに突き放すことができず、PK戦(4−5)の末に敗れた。後半途中、柴崎岳と交代し、ベンチから戦況を見つめていた遠藤は、この敗戦をどうとらえているのだろうか。

「敗因? う〜ん......簡単に言うと、点が取れなかっただけ。チャンスは作っていたけど、シュートを決められなかったからね。

 一方で、失点したことを(問題視されて)いろいろと言われたけれど、グループリーグ3試合は無失点だったでしょ。守備に関しては、大きな問題はなかった。UAE戦に許した先制点は、やや集中力が欠けていて、マーク(の受け渡し)をミスしたことが原因。確かにそれは、オレたちの不注意だけど、結局相手はそのゴールシーンと、最初にカウンターで1回くらいしかチャンスがなかった。逆に、オレらは60%以上、ボールを支配していた。それって、ほぼ攻めっぱなしの状態だからね。それでも負けてしまうときが、サッカーにはあるんですよ」

 昨年のブラジルW杯では、グループリーグ敗退に終わった。周囲の期待を裏切った日本代表には、明らかに逆風が吹き始めていた。アジアカップは名誉挽回する絶好のチャンスだったが、再度期待を裏切る結果に終わった。主将の長谷部誠をはじめ、岡崎慎司や長友佑都ら主力選手たちは、W杯に続く惨敗にかなりショックを受けていた。

「オレだって、ショックはあるよ。でも、負けたショックで言えば、ブラジルW杯のときのほうがはるかに大きかった。あの(充実した)メンバーで、自信を持って挑んだにもかかわらず、何もできずに終わってしまったからね。

 それで今回、アジアでも負けて『日本は大丈夫か?』と、みんな思っているかもしれない。(メディアなどでも)『アジアの勢力図が変わった』とか言われているけど、オレはまったくそう思っていない。前回(2011年アジアカップ)優勝したときは、(グループリーグから)どの試合も僅差の勝利だった。それが今回は、UAEにはPK戦で負けたけど、すべての試合で相手を圧倒していたからね。(日本が)これほどの戦いをしたアジアカップって、最近はなかったと思う。だから、オレは(日本代表の現状に)なんら心配はしていない。『なんで、そんなに悲観してんの?』って思う」

 しかし、日本は準々決勝で敗れた。下のカテゴリーを見ても、U−16代表が昨年はU−17W杯のアジア予選で敗れ、U−19代表にいたっては4大会連続で世界大会出場を逃している。さらにクラブにおいても、2008年にガンバが優勝して以来、JクラブはAFCチャンピオンズリーグで結果を残せていない。アジアで勝てなくなった状況には、多くの関係者やファンが危機感を抱いている。

「オレは、なんとも思っていない。中東の各国が成長しているのは理解しているし、これからはアジア各国で力のある帰化選手が増えてくるんだろうな、とは思う。でも、(今回のアジアカップで)評判の高かったイラクやUAEと対戦したけど、どちらの試合もオレらが圧倒していた。日本は、相手にほとんど隙を与えなかった。もちろん、日本代表は勝たなければいけないし、結果がすべて。だから、負けた批判は受け止めるけど、今、自分たちが考えなければいけないのは、成長する他国のことじゃない。自分たちの個の力や決定力を高めることでしょ。それは、下のカテゴリーも一緒だと思うよ」

 UAE戦では、35本のシュートを放って、奪ったゴールは1点のみ。日本の「決定力不足」が大きくクローズアップされた。この課題を克服するためには、どうすべきだろうか。

「決定力を高めるのに、特効薬はないよ。でも、リラックスした状況でシュートを打てるようになれば、入る確率は高くなるんで、そのためのやり方はあるよね。例えば、練習の中でもいかに実際のゲームと同じような状況を作れるか。ただシュートを外したとか、決めたとか、一喜一憂しているようではダメ。10本シュートを打って、3本入らなかったら『次の試合は出場させないよ』って言われたら、みんな真剣にやるでしょ。そのくらいの厳しさをもってやらないといけない。だって、国際試合でシュートを決めれば、人生が変わるんだから」

 決定力不足とともに、アジアカップの敗因のひとつに"香川真司の不調"が挙げられた。実際、UAE戦では決定的なチャンスを決め切れず、PK戦でも香川が失敗してチームは敗退した。ブラジルW杯でも活躍することができず、いまだかつての輝きを取り戻せていない日本の『10番』の姿を、遠藤はどう見ていたのだろうか。

「UAE戦では、チャンスを決め切れなかったね。あと、ドリブルしてあっさり獲られたり、バックパスを簡単に奪われたり、ハッとするようなミスがたまにあって、それで(見ている側の香川の)印象が悪かったのかもしれない。でも、PKは運もあるし、仕方がないこと。それに、真司はオカちゃん(岡崎)と同じくらい、よく走っていたし、点にも絡んでいた。(2列目の)インサイドハーフで一緒に並んでプレイしたけど、やりづらさはなかった。まあ、真司ぐらいの選手であれば、今の自分がどういう状態なのか、よくわかっていると思う。自分の思いどおりにいかないことのほうが多くて、実際に悩んでいるかもしれないけど、オレはみんなが言うほど、悪いとは思っていなかった。真司がいたから、あれだけチャンスを作れた、というのもあるからね」

 今回のアジアカップでは、主力メンバーが4年前の大会とほとんど変わらず、新戦力の台頭もあまり見られなかった。新陳代謝の必要性がチーム内外から囁かれる中、武藤嘉紀や柴崎岳ら期待の若手が途中出場に甘んじるなど、ブラジルW杯組を越える選手が出て来ていないのだ。

「武藤にしろ、岳にしろ、いきなり『代表の中心でやりなさい』と言われても難しいって。オレだって、代表でコンスタントに試合に出るようになって、自分らしくプレイできるようになるまで、1年近くかかっているからね。だから、彼らのことも、今はそっとしておいてあげたほうがいい。野放しにして、好きなようにやらせるのがいい。そうして、彼ら自身が(代表で)何をすべきかを自覚して、それをクラブに戻って自分のモノにしていけば、自然と成長していくよ。まあ、これからも『若手を使え!』って周りは言うだろうけど、W杯予選は難しい。W杯予選は勝たなければいけないから、監督は絶対的に信頼する選手を使いたくなる。そこに(新たな選手が)入っていくのは、そう簡単なことじゃない」

 ブラジルW杯では、チームとしても、個人としても、世界との差を痛感させられた。その差を埋めて、世界でも戦えるチーム作りを目指して、アギーレジャパンは始動したが、はや半年で指揮官は解任された。チーム作りは道半ばで終わってしまったが、ブラジルW杯が終わって以降、チームや選手個々に何かしらの成長の跡は見られたのだろうか。

「ブラジルW杯のときよりも、どういう状況になっても慌てず、どっしりと戦える感じになってきたね。それは、W杯を経験したことが大きいと思う。戦術的な消化というか、吸収力も早くなった。アギーレ監督になって、システムが4−3−3になったけど、短時間でうまく攻撃を組み立てられるようになったし、コンビネーションもよかった。W杯とほぼ同じメンバーだったんで、当たり前と言えばそうなんだけど、それでも質は上がっていると思うよ。次、どういう監督になるのかわからないし、どういう選手が選ばれるかわからないけど、W杯メンバーをはじめ、今回のアジアカップを戦った選手たちには、まだまだ伸びしろがあると、オレは思っている」

 アジアカップでは途中交代が多く、遠藤本人は「まだやれる」と思っていただけに、途中でピッチから去るのは「悔しかった」という。

 今年、35歳となり、代表キャップは150試合を超えた。それでもなお、代表でプレイする意欲は衰えず、チームメイトからの信頼も厚い。新たな指揮官のもとでも、欠かせない存在になりそうだ。

佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun