日々取扱い量が増える日本の宅配業界だが、業界を牽引してきたのが、最大手のヤマト運輸であることは間違いない。しかし、その盟主もまた、急成長に伴う「痛み」に苦しんでいる。ジャーナリストの横田増生氏がレポートする。

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 ヤマト運輸では、社員ごとに〈勤怠確認リスト〉という表がある。リストは「交番計画」(労働計画)と「PP(ポータブル・ポス)入力実績」(労働者がPP端末に入力した労働時間)、それに「勤怠登録」(実際の給与が支払われる時間)と「修正」の四項目からなる。

 ドライバーが業務を終えてPP端末を終了する際、「あなたの就業時間は、〈交番計画〉通りでしたか?」という確認の画面が現れる。「はい」と押せば修正の欄には何も現れない。

 金井は社内のプレッシャーから、また、近藤はセンター長という立場から、〈交番計画〉通りではなかったのにもかかわらず「はい」と押している。そのため記録の上ではサービス残業を確認することはできない。

 しかし、首都圏で一〇年以上働く野口真一=仮名の二〇一四年の前半の某月の〈勤怠確認リスト〉では、二一日の出勤日のうち、一一日分に「修正」の欄に「**」がついていた。野口は、PP端末を終了する際に、「いいえ」と押して、その後に、正しい労働時間を一五分刻みで入力している。その上でその自己申告した労働時間を、上司が申告より短い時間に変更すると修正の欄に「**」の印がつく。野口の場合、休憩を一五分や三〇分としているのに、給与に反映される勤怠登録では一時間に書き換わっている。

 しかし、同社の〈勤怠確認リスト〉の確認欄に「**」がついているのは、ドライバーだけにとどまらない。

 首都圏の支店で一〇年ほど内勤として働く野村直子=仮名の二〇一四年の前半の一カ月の〈勤怠確認リスト〉では、一四日の出勤日のうち、一一日分に「修正」の欄に「**」がついていた。

「内勤の主な仕事は、破損事故やクレームなどの電話処理で、午後からのお問い合わせが圧倒的に多いので、一時間の休憩がとれないのです」

 休憩がとれていないと入力しているにもかかわらず、勤怠登録では一時間の休憩をとったことになっているからだ。

 ヤマト運輸の人事総務部の渡邊一樹課長は「勤怠確認リストに『**』がついているのは、社員がPP入力した労働時間が(上司によって)短縮されて勤務登録されたことを表す印で、最悪の場合、労働時間の改ざんにもつながる」と説明する。

 ヤマト運輸は過去に労働時間の改ざん問題で、不祥事を引き起こしている。

 読売新聞は二〇〇七年九月二三日、一面トップで「ヤマト運輸 違法残業 記録改ざんの疑い」と伝えている。

 記事によると、ヤマト運輸の給与計算の基となる勤怠記録が実際の端末(PP端末を指す)と異なり、労働時間が短くなっていたケースが判明した。記録改ざんの疑いもあり、大阪南労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受けた、というものだ。

 同社の常務執行役員である長尾裕はこう話す。

「読売新聞の記事が出たことは、当社にとって大きな転機となりました。それまで本社の方で、勤怠の時間を正確に見ることができていなかったという反省に立ち、態勢を見直しました。さらに、ドライバーの負担を軽減するために、積み込み専門の〈早朝アシスト〉や配達を補助する〈フィールドキャスト〉などのアルバイトを増員するなどして負担軽減の態勢を整えました」

〈早朝アシスト〉とは、朝五時からドライバーの代わりに荷物をトラックに積み込む短時間アルバイトを指し、〈フィールドキャスト〉とは、配達荷物の多い午前中にドライバーと一緒になって、荷物を配る短時間アルバイトを指す。

 長尾はさらに続ける。

「サービス残業を強要しても、会社にとっていいことはなにもありません。サービス残業を黙認することは会社にとってリスクでしかない。各地の支店長クラスには、ドライバーの無理が常態化しているのでは、お客様にいいサービスは提供できない。(人件費に)お金をかけることも重要な経営判断だと説明しています」

※SAPIO2015年3月号