優勝し手荒い祝福を受けるハーン(中央)(撮影:岩本芳弘)

写真拡大

 ノーザントラスト・オープン最終日は大混戦になった。
ノーザントラスト・オープン、全選手の順位をリーダーボードで!
 リビエラの芝が「母国・南アの芝に似ているから好きだ」と言っていたレティーフ・グーセンは、2009年以来、104試合ぶりの優勝を目指し、首位で最終日に挑んだ。だが、「75」と苦しみ、8位に沈んだ。
 最終日を3位で迎えたべ・サンムンは今季開幕戦ですでに勝利を挙げたものの、昨年暮れから母国・韓国での兵役義務問題が浮上。本人は「全然ダイジョブね」と言い切って笑っていたが、そんな心の揺れが最終日の彼のゴルフを揺らしたのかもしれない。後半はバーディーが1つも取れず、3ボギーを喫して失速。「72」と振るわず、やはり8位へ沈んだ。「少しプレッシャーがあったと思う。今日は、もう少し上手くプレーできたはずなのに……」と唇を噛んだ。
 大混戦を抜け出し、プレーオフに残ったのはダスティン・ジョンソン、ポール・ケイシー、ジェームス・ハーンの3人だった。
 ジョンソンは、すでに通算8勝のベテランだが、昨夏から自主的にツアーを離れ、わずか3週間前に復帰したばかりだ。ツアーから離れていた期間がちょうど半年だったこともあり、「本当は出場停止処分を食らっていたのではないか」という噂や陰口も聞こえてくる。だが、すべてを打ち消すためには優勝するしかないと言わんばかりに、先週は4位に食い込み、今週はプレーオフへ。3ホール目の5メートルのバーディーパットを沈めることはできなかったが、復帰3試合で「予選落ち→4位→2位」の回復ぶりは賞賛に値する。
 ケイシーも2009年以来の勝利を目指して踏ん張っていた。一時期はひどいスランプに陥ったが、諦めず、踏みとどまり、ようやく通算2勝目に手が届きそうになった。しかし、その手はトロフィーを掴み損なった。
 出場していた144人、いや、米ツアーにいるどの選手にも、いろんな想い、いろんな事情がある。その中で誰もが勝利を目指している。だが、勝利に輝くのは、たった一人だけ。一流選手ばかりがひしめく中で「たった一人」に輝けるかどうか。そのチャンスは千載一遇だ。地道に、地味に、長く長く、歩き続けられるかどうか。その途上に「千載一遇」の日が、きっとやってくる。
 優勝トロフィーを最後に掴んだのは、地元カリフォルニアで生まれ育ったハーンだった。「ハーン」と言われて、すぐにその顔を思い浮かべられる人は少ないだろう。日本のみならず、この米国でも彼の存在感は薄かった。
「今日、プレーオフが決まったとき、ギャラリーのそばを通ったら、人々が『プレーオフだぜ。ダスティン・ジョンソンとポール・ケイシーと……あと、もう1人』と言っていた」
 米ツアー3シーズン目を迎えながら、いまだに名前すら覚えてもらえず、認識もされず、戦い続けた日々。それでもシード権だけはぎりぎり維持して踏ん張ってきたからこそ、ハーンは勝利に漕ぎつく今日という日に巡り合えた。
 松山英樹は今季5度目のトップ10入り、今年に入って5試合で3度目のトップ5入りを果たした。その成績は目を見張るほど素晴らしいけれど、彼の姿勢はむしろ地味で謙虚になりつつある。もちろん目標は常に優勝だ。しかし、息切れすることなく地道に歩む大切さを彼はしっかり噛み締めている。「少しでも上位に入って(ポイントを)少しでも加算したほうが、後々、自分に響いてくるので、優勝が無理でも捨てないでやるのが大事だと思う」。
 勝てなくても、捨てないでやる。諦めないでやり続ける。その先に栄光があることを勝者ハーンが教えてくれた。と同時に、その大切さをどれだけ噛みしめても勝者はたった1人で、それ以外は敗者になってしまう厳しさを、グーセンやべやジョンソンやケイシー、そして松山が教えてくれたように思う。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
<ゴルフ情報ALBA.Net>