″老ける″理由は恋愛観にアリ? 美容ジャーナリスト・岩本さんに聞く

写真拡大 (全3枚)

日本人は老け込むのが早い。そう言うと「いやいや、西洋人の方が、アジア人に比べて年齢経ればすぐにシワとか目立ってくるし、劣化早いでしょ!」と、つっこまずにいられない人は多いと思う。ここフランスでも、見た目について言えば確かにそうだ。同じ年齢で比べたときに、フランス人は日本人より一般的にシワが多く、肌の張りも良くない。ただし精神面の若さを考えたとき、果たしてそうと言えるだろうか。

フランスでは、年だからといって地味な服を着るわけでもないし、老齢のために卑屈になったり、年柄をわきまえて自重したりする人は少ない。「いつまでも若い気持ち」を持ち続ける、あるいは、そもそも歳を気にしないというのが多数派だ。

この違いはどこから来るのか? 皮膚科専門医としてスキンケアやアンチエイジングを研究し、『パリのマダムに生涯恋愛現役の秘訣を学ぶ』を出版した美容ジャーナリスト・岩本麻奈さんに聞いてみた。

――フランス人の心の若さの源は何だと思いますか?
ずばり恋愛ではないでしょうか。フランス人にとって、もっとも大事なことは「愛(アムール)」です。たとえ結婚していたとしても、相手に魅力を感じなくなったら、我慢して関係を続けるということをしません。年齢を経てもなお、日本より男女関係のダイナミズムが高いです。そのため相手に対して魅力的であるために、常に自分を磨くというメンタリティが一般的で、ひいてはそれが自分の魅力を保つ緊張感を持続させているのです。

――自分を磨くことの一つに「美容」があると思うのですが、日仏でそれに対する違いは感じますか?
フランスは、愛する人のために、恋愛をするために、モテるために美しくなりたい、美しさを維持したいと考える人が多いです。その行動はよい意味で自分本位であり、異性に向いており、周囲の同性と比べて自分の美しさがどうか(人種もさまざまで比べにくいという理由もありますが)、ということはあまり気にしていません。「自分のため」と軸がはっきりしているフランスと、「周囲と比べてどの位置にいるか」を基準にする日本では、自分が本当に美しくなる術ではなく、世間で流行っている美容法に依存しやすい傾向にあります。美しさにかかわる動機が異なるので、美容に努めて得られる結果も必然的に変わってきます。

――例えばどのように影響するのでしょうか?
以前より言われている「美魔女」という言葉に形容されるように、年齢を経ても美しさを保つ女性が、日本のメディアでしばしば取り上げられます。しかし男性から見たときに、「きれいだけど、どこかずれている」と感じたことはありませんか? というのも、その美しさは多くは同性目線という枠に限定されるため、「きれいになったけど好きな人から振り向いてもらえない」とか、「夫からは愛されずセックスレスのまま」という結果に終わりがちな人がいることも事実です。要するに「センシュアリティ(官能性やここちよさ)」が足りないのです。「男女関係」そして「性」は種の保存に関わっており、更年期以降となってもおそらく“生きる”意味の根幹の一つです。そこが満たされないと心の若さは保てないのではないかと考えています。

――男女としての雰囲気や関係性は、日仏で結婚や出産を境に大きく変わる気がします
結婚の枠組みとして、未だ家と家の繋がりを大切にする日本と、個人と個人を重要視するフランスという違いが大きいですね。フランスでは、家庭を持つことが相手との関係を続けていけることの安定さに繋がりません。愛情がなくなっても仮面夫婦で過ごし、別の人に愛を注ぐということを多くは選択しません。愛がなくなったら、基本、関係は終了です。またフランスの女性の多くは生涯に渡って働くことを選択し、経済的に自立した女性が多いので、我慢する必要もない。そのため事実婚を含めた婚姻生活の継続には子供ができた後も、「父親」や「母親」という立場だけでなく、「男」や「女」としても相手を魅了し続けていく必要があるため、魅力や若さを保つきっかけになっているのだと思います。

――恋愛観の違いも影響しているのではないでしょうか? 
フランスでは付き合う前に、日本のような「告白」はまずありません。境界線は曖昧で、まずはセックスも含めお互いのことを知った上で、それでも一緒にいたいなら関係を続ける、というのがフランスのスタイルです。そのため、いつもきちんと中身(心も身体も)を磨く必要があります。拙書で取り上げたフランス人の一人は「恋人選びはワインセラー。ビンテージをいろいろ飲んで、それが合わなかったら次へ行けばいい」と果敢に語ってくれました。ラベルで判断してとりあえず付き合うのではなく、気に入った中身が見つかるまで味見を続け、見つかったときにどっぷり浸かるのがフランス流です。「合わなくとも隣にたくさん並んでいるでしょ」と(笑)。

――やはり日仏ではずいぶん違うんですね……!
もちろん文化や風習、習慣が異なるため、日仏で恋愛観や男女観に隔たりはありますが、決して日本人が男女の「愛」に乏しい人たちというわけではないはずです。おおらかで艶やか、それは秘めたる日本の歴史が物語っております。日本人もフランス人も同じ人間ですし、根本で存在する普遍性があると思うのです。そこへ至る文化的アプローチの違いを紹介するために、『パリのマダムに生涯恋愛現役の秘訣を学ぶ』では、センシュアル(官能的)をキーワードにさまざまな事例を挙げて、断片的な言葉を紡いでみました。男女関係や最新美容情報、パリの美しい街並み(カラー写真は知人の男女で、リアル撮りおろし)など、日仏の違いを手に取って理解してもらえれば嬉しいです。
(加藤亨延)