インタビューは神戸市立中央図書館の一室「神戸賀川サッカー文庫」で行なった。賀川さん所有のサッカー関連蔵書の一部が受託され、昨年4月から一般公開されている

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現役最年長、90歳のサッカージャーナリスト、賀川浩(かがわ・ひろし)さんが1月12日、FIFA(国際サッカー連盟)会長賞を受賞した。日本人初というだけでなく、ジャーナリストとしても初の受賞である。

60年以上もの間、日本サッカーを鋭く、温かく見守り続けてきた“伝説の人物”にロングインタビュー。後編では、アギーレ解任ショックに揺れる日本代表について語った。(前編はこちら→http://wpb.shueisha.co.jp/2015/02/21/43930/)

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―ここからは現在の日本代表について聞かせてください。アジア杯での準々決勝敗退、どう評価しますか?

賀川 勝てなかった直接的な原因は、点が取れなかったことですよね。ワントップに岡崎を起用しながらも、点を取る仕事をMFの本田にさせる。アギーレは、そういう形に持っていったように見えましたし、理解できるやり方です。

そして、本田も自分が点を取るつもりだったと思いますが、調子がよくなくて、1試合で決定機を何回も外した。全部決めろとは言わんけど、ひとつは決めないといかん。ただ、今いるメンバーでMFの本田以外に誰が点を取れるのかという話にもなるね。

―やっていたサッカーの内容自体は悪くなかったと。

賀川 結局、アギーレは解任されてしまったけど、それまでは順調にきていたし悪くなかった。彼はザックさんに比べて顔が悪いから損しとるね(笑)。サッカーのやり方は順当だったし、チームもええ方向に向かっていた。

―では、なぜ日本には強力なストライカーがなかなか育たないのでしょう?

賀川 昔と比べてこれだけサッカー人口が増えたのに、ストライカーが出てこないのは本当に不思議なこと。釜本もそうだし、今のロナウドもメッシもそうだけど、たとえフリーにならなくても、1対1の局面になったら絶対にシュートまでもっていく意志と力がある。

残念ながら、今の日本にはそうやって「俺が点を入れる」という選手がいない。理由はいろいろあるんだろうけど、あえてひとつ挙げるなら、さっきのプラティニの話(前編参照)みたいに、子供の頃からのシュートの練習が足りないのかな。シュート練習は時間がかかるからと敬遠されがちだし、無理せずにフリーの選手を探してパスをしろという指導者も多い。

―根深い問題ですね。

賀川 ただ、そんなに焦る必要もないと思います。プロ(Jリーグ)ができて20年ちょっとですが、ここまで日本サッカー全体のレベルが上がっているのは間違いない。いい選手も出てきているし、これからも少しずつよくなっていくはず。だから、そんなに心配していません。

―アギーレ監督の解任については、どう思いますか?

賀川 仕方のないこと。裁判所に出廷するとなると、日本代表の活動にも影響が出るかもしれない。W杯予選も始まるのにスペインと日本を何度も往復しているようでは腰を据えて仕事ができない。日本サッカー協会の判断は正しいと思います。

アギーレのサッカーを見れば、誰でも続けてもらいたいと思うだろうし、これからどう変わっていくのか見てみたいというのもあったけど、やむを得ない。

―ただ、協会の任命責任を問う声は多いです。

賀川 アギーレに八百長疑惑があることをなぜ知らなかったのかという部分ですよね。じゃあ、僕から聞きます。日本のメディアは知っていたんですか?

つまり、協会だけじゃなく、僕も含めた皆が勉強不足だった。大事なのは経験すること。今回の件は残念だけど、サッカーの世界にはこういうこともあると皆が理解できた。

世の中と同じで、スポーツの世界にも善と悪がある。それが世界で最も愛されているスポーツ(サッカー)なら、ほかのスポーツよりもいろいろなことがある。だから、メディアが任命責任を問うのはおかしな話。協会はどういう形で責任を取るかを自分たちで決めればいい。

―監督解任による今後のチームづくりへの影響も心配です。

賀川 これから監督が代わって、どういうやり方をするのかわからないけど、マイナスの影響は出るでしょう。これまでやっていたサッカーをベースにするといっても、監督が代われば、練習方法や采配は変わってくるんやから。またイチからチームづくりをしなければいけない。

―後任監督について、賀川さんが求める条件は?

賀川 2018年のロシアW杯アジア予選を勝ち抜けるかどうか。日本人であろうと外国人であろうと、それができる監督を連れてくればいい。それ以上は求めないよ。

―オススメの候補は?

賀川 僕より協会の人間のほうが詳しいでしょう(笑)。

―では、最後に今後の目標を聞かせてください。やはり、3年後のロシアW杯を現地で取材することですか?

賀川 生きていて、体が動くようならね(笑)。昔、現場で会ったこともあるんやけど、ウルグアイのディエゴ・ルセロさん(故人)という記者が93歳6ヵ月のときに、94年アメリカW杯を取材しているんです。それがW杯取材の最年長記録。

でも、僕がロシアW杯に行けば、1ヵ月だけ史上最年長になる(笑)。まあ、それはともかくとして、ここまでずっと現場でサッカーを見てきたわけだから…やっぱり見たいですね。

■賀川浩(かがわ・ひろし)

1924年生まれ、兵庫県神戸市出身。神戸一中(現・神戸高)サッカー部に入部し、5年時に全国優勝。52年、産経新聞社に入社し、74年にサンケイスポーツ編集局長に。同年の西ドイツ大会から2006年のドイツ大会まですべてのW杯を取材。10年の南アフリカ大会は持病の腰痛悪化のため断念するも、14年のブラジル大会は取材した

(取材・文/渡辺達也 撮影/ヤナガワゴーッ!)