『陰獣 (江戸川乱歩文庫)』江戸川 乱歩 春陽堂書店

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 今年で没後50年を迎える、推理小説界の巨匠・江戸川乱歩。これまでにも乱歩の作品を多数刊行してきた春陽堂書店では、このタイミングに合わせ、江戸川乱歩文庫をリニューアルし、2月下旬から順次刊行します。表紙の装丁は、多賀新氏の手による銅版画装画をそのまま採用していますが、従来のものより色味を鮮明にしており、乱歩の世界観がさらに伝わってきます。さらに今回のリニューアル版からは、裏表紙に銅版画の全体図と、新たに解説も追加。巻末付録で収録作品すべての解説が読めるほか、雑誌掲載当時の広告も載せています。

 第一回目の配本は、本書『陰獣』と『孤島の鬼』。乱歩といえば、美輪明宏さん主演舞台が大ヒットした『黒蜥蜴』をはじめ、名探偵・明智小五郎や怪人二十面相が登場するシリーズが有名ですが、『陰獣』も最高傑作の呼び声が高い作品です。金田一耕助シリーズで知られる作家・横溝正史は、掲載雑誌の編集長として、長年にわたり乱歩作品に関わっていましたが、特に『パノラマ島奇譚』と『陰獣』の2作品については、高く評価していたようです。

 物語の主人公は「わたし」こと探偵小説家・寒川。寒川は、ひょんなことから自分の作品のファンだという美貌の人妻・小山田静子と出会い、文通を始めます。やがて静子は、探偵小説家の大江春泥(おおえ・しゅんでい)から執拗な脅迫行為、いわゆる"ストーカー"被害に遭っていると訴え、寒川は事件の解明に乗り出すのですが......。果たして陰獣の正体とは何者なのか、超絶トリックもさることながら、特筆すべきはその心理描写。ラストまで息もつかせない筆の運びで、サスペンスに満ちた乱歩ワールドの魅力がうかがえる作品となっています。

 さて、『陰獣』というタイトルがなんとも印象的ですが、本書の解説によれば、実は『陰獣』には、エロティックな意味ではないのだとか。乱歩は、"陰気なけもの"という意味で使用し、「近頃犯罪実話物なんかに陰獣という言葉がよく使われ、残虐あくなき色情犯罪者を形容する慣わしになっている様だけれど、それなら『淫獣』とでも書くべきで、私の『陰獣』はそんな意味は含んでいない」(『探偵小説十年』より)と述べていたそうです。

 作品ごとに、知られざるエピソードも満載の巻末解説は、乱歩ファンなら見逃せないものになりそうです。文字も大きく読みやすくなってお目見えする同シリーズ、この機会にぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

【関連リンク】
春陽堂書店
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紀伊國屋書店
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