2月13日、2015年シーズンの「スーパーラグビー」が開幕した。スーパーラグビーとは、ワールドカップ優勝経験国のニュージーランド、オーストラリア、南アフリカのクラブチームによって行なわれるラグビー世界最高峰のプロリーグである。各国5チームずつ計15チームが参加し、レギュラーシーズンを勝ち上がった6チームによるプレイオフを経て、7月4日に決勝が行なわれる。

 2016年からは、新たな南アフリカのチームと、アルゼンチン、そして日本を本拠地にする3チームが加わり、計18チームに拡大。そんな壮大な規模を誇るスーパーラグビーに、今年は6名の日本代表選手が挑む。ニュージーランドのチームに2名、オーストラリアのチームに4名が所属。2月末に終わる日本のラグビーシーズンと少し重なるが、両立することも可能なので、逆に有名外国人選手が日本のトップリーグに来る理由にもなっている。

 今シーズン、日本代表選手が所属するチームは、以下のとおりだ。

[ニュージーランド・カンファレンス]
チーフス(ハミルトン) → リーチ マイケル(東芝/FL/26歳)
ハイランダーズ(ダニーデン) → 田中史朗(パナソニック/SH/30歳)

[オーストラリア・カンファレンス]
ワラタス(シドニー) → 松島幸太朗(サントリー/CTB、WTB/22歳)
レッズ(ブリスベン) → ツイ ヘンドリック(サントリー/FL/27歳)
ウェスタン・フォース(パース) → 山田章仁(パナソニック/WTB/29歳)
レベルズ(メルボルン) → 稲垣啓太(パナソニック/PR/24歳)

※チーム名のカッコは本拠地。南アフリカ・カンファレンスに所属する日本人選手はゼロ。
※ポジションの略称=PR(プロップ)、HO(フッカー)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバー・エイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、WTB(ウィング)、CTB(センター)、FB(フルバック)

 田中史朗は3年目、リーチ マイケルは2年前に続いて2度目、松島幸太朗とツイ ヘンドック、山田章仁、稲垣啓太は初のチャレンジとなる。レベルズ(オーストラリア・カンファレンス所属)と3年目の契約を結んでいた堀江翔太(パナソニック/HO/29歳)は、今年9月に開幕するワールドカップを見据えて首の手術をしたため、今年のスーパーラグビー参戦は断念。それでも今年は、スーパーラグビーに参戦する日本代表選手が過去最多(6名)となった。

 なぜ今、日本人選手が続々とスーパーラグビーに参戦するのか――。まず、2年前に世界の扉を開けた田中と堀江の場合には、強い想いがあった。

「2011年にニュージーランドで行なわれたワールドカップで結果を残すことができなかったので、2019年に日本で開かれるワールドカップを成功させるために、何かしないといけないと思った」(田中)

「海外に行こうと思ったのは、そこまでラグビーがうまくなかったから。僕は大学時代、畠山健介(サントリー/PR/29歳)、五郎丸歩(ヤマハ発動機/FB/28歳)らの陰に隠れていたので、もっと辛い経験をしないといけないと思った」(堀江)

 また、ふたりの所属するパナソニックも、彼らの背中を押してくれた。元監督でもある飯島均部長が、「日本人選手を海外でプレイさせることは、パナソニックだけでなく、近い将来、日本のラグビーに有益になる」という、広い視野と信念を持っていたことも大きかった。

 そして2012年、田中と堀江は日本代表選出を辞退し、ニュージーランド国内のプロリーグ「ITMカップ(旧・州代表選手権)」でプレイすることを決断。かつて三洋電機(現・パナソニック)で一緒にプレイし、オタゴ代表指揮官を務めるトニー・ブラウンがふたりを誘ってくれたからだ。「彼らの夢だったスーパーラグビーでプレイする機会を手助けしようと思いましたし、その力があると信じていました」(ブラウン)。

 その後、田中と堀江はITMカップを経て、晴れてスーパーラグビーチームとの契約を勝ち取った。「僕たちに続く選手が出てきてほしい」と田中が常々言っていたように、ふたりの挑戦が現在の増加要因のひとつとなっているのは間違いない。

 日本代表主将であるニュージーランド出身のリーチの場合は、少し経緯が違っている。2011年のワールドカップ直後、日本代表の前指揮官であるジョン・カーワンから、「ブルーズ(ニュージーランド・カンファレンス所属)に来ないか」という誘いがあったという。だが、ニュージーランドにおけるスーパーラグビーは、「オールブラックス(ニュージーランド代表)の養成の場」という意味合いもあり、すでに日本代表の中心選手だったリーチは、当時ニュージーランド国籍(2013年8月に日本国籍を取得)だったにもかかわらず契約できなかった。

 それでも、「夢だったスーパーラグビーでプレイしたい」というリーチは、2013年、所属する東芝と関係性が強いチーフスの「育成枠選手」となり、期限付き移籍を発表。しかし残念ながら、2月の日本代表戦で負傷し、チーフスとの契約は解除されることになった。2014年もオーストラリア・カンファレンスのチームと契約直前までいったが、再びケガのために断念。だが今年、ついにチーフスのスコッド(本メンバー)に選出され、リーチは念願のスーパーラグビー参戦を果たした。

 一方、今年初めてスーパーラグビーに参戦する4選手(松島=ワラタス、ツイ=レッズ、山田=ウェスタン・フォース、稲垣=レベルズ/すべてオーストラリア・カンファレンス所属)の移籍には、日本代表のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)の存在が大きくかかわっている。

 元オーストラリア代表監督で、スーパーラグビーでの優勝経験もあるジョーンズHCは、「海外でプレイしたい選手がいれば支援する」「スーパーラグビーの試合はすべてテストマッチ(国際試合)のよう」と語っていた。「ワールドカップでベスト8進出」を掲げる指揮官にとって、アジア国との親善試合だけでは大きな強化につながらないと感じていたのだろう。

 そのため昨年、ジョーンズHCは個人的にオーストラリア協会に掛け合い、各チームに1名だけ『日本人枠』を作ってもらったようだ。日本ラグビー協会がかかわっていないため、公式なリリースは出ていないものの、山田の所属するウェスタン・フォースのホームページには、「オーストラリアの各チームは35名のスコッド以外に、1名の日本人選手をリクルートすることが許されるため、山田と1年契約を結んだ」と明記されている。

 もちろん、彼ら4人は実力があったからこそ契約に至ったわけだが、スーパーラグビー参戦にジョーンズHCの後押しが大きかったのは否めない。昨年、オーストラリア・カンファレンスのブランビーズに所属した立川理道(クボタ/25歳)は、SOやCTBといったゲームをコントロールするポジションだったこともあり、1試合も出場できなかった。また、同カンファレンスのレベルズに所属していたマレ・サウ(ヤマハ発動機/27歳)も本来のCTBではないWTBでの起用に戸惑い、ともに今年はスーパーラグビーでプレイせずにワールドカップに備える選択をした。

 トップリーグ終了直後にオーストラリアに飛び立った山田は、スーパーラグビー開幕戦ではベンチ外。リーチ、松島、ツイ、稲垣の4選手は、日本選手権終了後に海を渡る。「外国人選手」扱いながら、シーズン途中からの合流となるため、厳しい現実が待っているのは想像に難(かた)くない。また、世界レベルの代表選手が揃うリーグなだけに、ケガのリスクも小さくないだろう。昨年の立川のように、公式戦に出場することができず、ゲーム勘を失う恐れもある。

 それでも挑戦しなければ、なにも始まらない――。「さらにレベルの高い場所で戦ってみたい」という思いは、アスリートの本能でもあるだろう。田中や堀江はスーパーラグビーで試合を重ね、その経験を日本代表に還元し、いまや特別な存在となった。

 24年間の長きに渡り、日本代表が白星を挙げていないワールドカップの開幕まであと7ヶ月――。リスクをかえりみずスーパーラグビーに臨む「勇敢な桜の戦士たち」を、心から応援したい。そして、世界的な選手へと成長することを願うばかりだ。

斉藤健仁●文 text by Saito Kenji