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日立製作所は2月18日、最先端研究開発支援プログラム「原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡の開発とその応用」において、1.2MVの加速電圧を備えた「原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡」を開発し、世界最高の分解能(点分解能)となる43pm(ピコメートル)を達成したと発表した。

詳細は、米国科学誌「Applied Physics Letters」のオンライン版に掲載された。

同社は、2010年3月から国家プロジェクト「最先端研究開発支援プログラム」の助成を受け、原子レベルでの電磁場観察を可能とする「原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡」の開発を行ってきた。同装置では分解能を最大限に向上させるために、加速電圧を1.2MVとすることで、電子線の波長を短くし、さらに球面収差補正器の搭載をはじめとする数々の技術開発を行ったという。

具体的には、光学顕微鏡では凸レンズと凹レンズを組み合わせて球面収差を補正し、焦点ぼけをなくした上で、試料構造の拡大像を観察するが、電子レンズを用いる電子顕微鏡では、これまで凹レンズの機能を出すことができなかったため、長い間、球面収差により分解能の向上が阻まれてきた。近年、この球面収差を補正する装置の開発が進められてきたが、球面収差補正器の性能を引き出すには、搭載される電子顕微鏡本体に高い安定性が求められるため、大型の超高圧電子顕微鏡には搭載できなかった。今回、1.2MVのエネルギーのばらつきを抑えた電子ビームや高安定電界放出電子銃などの実現により、電子顕微鏡装置全般において安定性を大幅に高め、超高圧電子顕微鏡に球面収差補正器の搭載を可能にした。

このうち、電子ビームはエネルギーがバラつくと焦点ぼけを生じてしまうため、高い分解能を得るには、安定した電圧で加速することが不可欠である。そこで今回、電子ビームを加速する電圧の安定度を高めるため、ノイズが少なくかつ温度変化に対して電気抵抗の変化が起こりにくい抵抗器、ノイズフィルタ機能を有する高電圧伝達用のケーブル、安定度の高い高電圧制御回路などを開発し、従来装置の安定度を約70%上回る、安定度3×10-7の1.2MV超高圧電源システムを開発した。これにより、1.2MeVの高いエネルギーを持ちながら、そのばらつきを0.54eVに抑えた電子ビームを得ることができた。

さらに、従来の電子顕微鏡に使われていた電界放出電子銃は、電子を引き出すための電圧(引き出し電圧)をかけて電子放出を開始後、時間とともに放出電子電流が減少していくため、1日に1〜2回は電子の引き出し電圧を調整しながら使用する必要があった。しかし、引き出し電圧を調整するたびに電子ビームの軌道がわずかに変化するため、最適条件で球面収差補正器の効果を得ることが難しくなる。今回、電子銃内部の電子が放出される部分の真空度を、従来比約100倍となる3×10-10パスカルという極高真空にする技術を開発し、10時間以上にわたり、無調整で電子ビームを安定して放出できるようにした。これによって、1日の観察の間、球面収差補正器の条件を再調整することなく最良の性能を維持できるようになった。

この他、原子レベルの観察を行うためには、電子ビームや観察する試料に対する振動、音響、磁場などの外部からの乱れ要因を、極限まで抑える必要がある。これらの乱れ要因を抑制するために、電子顕微鏡専用の頑強な建屋を建設し、音響に対しては建屋室内に吸音材の貼り付け、および精密な室温制御を行い、さらに、磁場に対しては、磁気シールドの機能を有するパーマロイという特殊な合金で電子顕微鏡装置の周囲を覆ったという。

なお、同装置の性能を評価するため、どのくらい微細な構造をカメラに伝達できるかを示す情報伝達性能を、タングステンの単結晶を試料に用いて検証した。その結果、球面収差を補正した状態で世界最高の分解能となる43pmの結晶構造情報を伝達できることを確認した。また、同装置によって撮影したGaN結晶の顕微鏡像において44pm間隔のGa原子を分離して観察できることも確認した。同社では、これらの性能は、開発した電子顕微鏡が、試料の構造や電磁場を原子レベルで観察・計測できることを示すものであるとコメントしている。

(日野雄太)