昨年末、米国疾病対策センター(CDC)が「2014年の重要な健康対策トップ10」を発表した。気になるのが、「死亡の最大要因」として心血管疾患、喫煙と並び医師の処方が必要な鎮痛薬(痛み止め)の過剰摂取が取り上げられたことだ。
 関東中央病院麻酔科担当医は「米国では医師の処方が必要な鎮痛剤の過剰摂取による死亡が、2010年までの10年間で5倍増の1万5300人に達して大問題になっている」と説明し、こう続ける。
 「最近のデータでも、米国では毎日44人が亡くなっている。この数字は、麻薬で亡くなる人数より多いんです。医療費が高い米国では、ちょっとした体調不良や痛みでは病院に行かず、市販の鎮痛剤で対処する人が多いといわれます。なのに、病院で処方された鎮痛剤の過剰摂取トラブルが多いのはなぜか。病院で処方されるのは麻薬系鎮痛剤が中心で、痛みを鎮めるためというより気分を良くするために使う人が増えているからともいわれています。また、病院に行かず他人の処方薬を貰って飲む例も多く、トラブルに拍車をかけている。その対策として麻薬系鎮痛剤の処方を90日以内に抑えるようにルールを改正するなどしているようですが、結果は出ていません」

 では、日本はどうだろうか。そもそも鎮痛剤というのは麻薬系と非ステロイド系に分かれ、日本では後者の中でも安全性が高いとされる「アセトアミノフェン」が主流であるため、米国ほど被害は出てはいない。しかし「健康被害は出ており注意は必要です」(麻薬科医)との話もある。

 会社員の男性(56)は、腰痛のため貼り薬を使用していたが、あまり効能がないため、近くの整形外科に行った。そこでの診断は椎間板ヘルニアだったが、手術をせず、しばらく治療しながら様子を見ることになった。
 その際、処方された痛みを抑える非ステロイド系の鎮痛薬を飲み続けることになったが、2〜3日後、食欲が落ち、食べる量も少なく、食べた後も胃の周辺にモヤモヤ感が残るなどの異変が生じた。そこで別の病院を受診したところ「腎臓の血流が低下している。肝機能も悪い」と診断されたという。

 「鎮痛薬を飲む前は健診でも指摘されたことがなかった病気だし、薬が合わないのかなと疑問に思い医師に相談しました。そうしたら、新たに腎機能を改善する処方薬を加えてもらい飲むようにしたんです」
 と言う男性。その後、少しずつながら症状が改善されたが、気付けば処方薬は4種類に増えていたという。

 「鎮痛薬に関して言えば、非ステロイド系とはいえ腎臓の血流を悪くし、腎機能の働きを低下させることがあります。また、心筋梗塞や心不全を増やすデータもあり、心臓や腎臓の悪い人、血圧が高い人は気を付けなければいけません。また、安全とされるアセトアミノフェンも、お酒の後で飲むと代謝物が毒性を持ち、肝臓の障害を起こすこともあるので注意が必要です」
 こう語る専門家もいて、今後は日本でも鎮痛薬で体調を落とす患者が増える可能性も指摘する。
『その症状、もしかして薬のせい?』(セブン&アイ出版)の著者で地域医療に従事し、コラムニストでも知られる長尾和弘氏も、同書の中で「日々の診察の中で、あまりにも多くの種類の薬を飲まされている患者の実態に危機感を覚える」と警鐘を鳴らし、薬の「多剤投与」が起きる理由を上げている。
 「ある症状を抑え込むために出した薬に副作用があれば、それを抑える薬を出す。しかし、その薬にも副作用があれば、さらに別の薬を出さなければならないのです。これを繰り返して行けば、いくらでも薬の種類を出せる」と述べている。