槇原敬之の新作は、45歳ならではの素晴らしいポップス
 ポップミュージックにとって、いかに年齢を重ねていくかということは大変に難しい問題です。特にキャリアを重ねれば重ねるほど、それに対処しなければならなくなる。パフォーマー自身はもちろん、彼らのファンも同様に年を取る。曲もそれに合わせて成長していくことが望ましいはずです。

 だからといって、いきなり政治について語りだすのもちょっと違う。原発が吹っ飛んだとわめき散らすのも滑稽だ。近隣諸国との関係や歴史をひも解く曲を書いても、どこか付け焼刃の感は否めない。そのようなトピックを扱ったからといって、曲そのものがシリアスになるわけではありません。

 その点、今年デビュー25周年を迎える槇原敬之の新作『Lovable People』(2015年2月11日リリース)はユーモラスで穏やかな語り口はそのままに、45歳のソングライターならではのポップスが展開されている素晴らしい作品に仕上がっています。

https://itunes.apple.com/jp/album/lovable-people/id960286716

 大ヒット曲「どんなときも」(※1)のメロディを忍ばせた「Life Goes On~like nonstop music~」や、ロッド・スチュワートの「Rhythm of my heart」(※2)を思わせるケルト風味が心地よい「Elderflower Cordial」の鋭い切れ味。

「君の書く僕の名前」では、スティービー・ワンダーの隠れた名曲「You will know」(※3)のように高度な転調がギルバート・オサリバンの「Clair」のようなテンポに乗っている。それを違和感のない歌としてなめらかに聴かせる手際が圧巻です。

(※1)⇒【Youtube】槇原敬之 - どんなときも。 http://youtu.be/b88pxLpMZKk

◆いざというときに率直さが勝つ

 そうした音楽面の充実に増して歌詞の素晴らしいこと。「新しいドア」は、45歳の男性として嘘偽りのない一言一句が綴られています。

<何かもし見つかったら 怖いからと僕は
健康診断もがん検診も 行こうとしなかった>

 この、ごくごく素朴な言葉が示す日常の背後に死が潜んでいる。それが重要なことなのです。

<もう恋なんてしないなんて 言わないよ絶対>(※4)とかつて歌ったかわいらしいボキャブラリーのまま、人生の重大事に立ち向かう。難しい単語は何一つない。それを裏付けるための込み入った観念もない。いざというときに率直さが勝つ。

 それこそが槇原敬之というソングライターの真骨頂であり、彼の曲を真剣なものにしているのです。

(※4)⇒【Youtube】槇原敬之 - もう恋なんてしない http://youtu.be/naz0-szzYXk

 このストレートな姿勢は、「君の書く僕の名前」でのこの素晴らしいフレーズからもうかがえるのではないでしょうか。

<あぁ何度見ても 格好いい君の文字
墨と筆で書く意味や 意義が伝わってくるようだ>

 “字をきれいに書く”というちょっとしたことからここまでのフレーズを引き出すには、物事を正面からじっと見据える辛抱強い目玉が必要になります。それが25年にわたって彼の活動を支えてきた大きな要素の一つなのでしょう。

◆ポールのカバーを写経のように

 本作にはポール・マッカートニーの「Once Upon A Long Ago」(※5)のカバーも収録されていますが、これがまた写経のように正確なパフォーマンス。ポールと曲に対する敬意がひしひしと伝わってきます。

 しかし、そのサウンドと歌声は紛れもなく槇原敬之の色に染められている。首を垂れることで、威厳を失うわけではないのだと改めて教えてくれる素晴らしい演奏です。ここにも、彼が歩んできた25年というかけがえのない時間が凝縮されているように感じるのです。

(※5)⇒【Youtube】Paul McCartney - Once Upon A Long Ago http://youtu.be/yBsSUptatMw

(※2)⇒【Youtube】Rod Stewart - Rhythm of My Heart http://youtu.be/ly7utVyl9CM

(※3)⇒【Youtube】Stevie Wonder - You Will Know http://youtu.be/un78xqP9_mQ

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>