グラミー賞4冠のサム・スミスにパクリ騒動。曲が似るのはイケナイこと?
 イギリスの22歳、サム・スミスが4冠を達成して幕を閉じた音楽の祭典・第57回グラミー賞(日本時間2月9日)。

 ですが授賞式の前には、サム・スミスの「Stay with me」がトム・ペティの「I won’t back down」(’89年)に酷似しているとの指摘があり、スミス側が印税の支払いに応じるというニュースが報じられました。

⇒【YouTube】Sam Smith, Mary J. Blige - Stay With Me (Live GRAMMYs 2015) http://youtu.be/nopayVKZuYQ

⇒【YouTube】Tom Petty And The Heartbreakers - I Won’t Back Down http://youtu.be/nvlTJrNJ5lA

 もっともトム・ペティ本人も盗作被害を訴えているわけでなく、「たまたま曲が似るのはよくあることだ」とムルアカさんにならって水に流した様子。それもそのはず。グラミーの歴史を振り返っただけでも、“よく聴きゃ似てるこの2曲”な組み合わせが意外と多いのです。

◆グラミー賞、よく聴きゃ似てる列伝

 というわけで、再びトム・ペティにご登場願いましょう。ショーン・コルヴィンの「Sunny came home」(第40回最優秀楽曲賞)と「Mary Jane’s last dance」は、リズムギターのストロークとコードがよく似ています。ここにレッド・ホット・チリ・ペッパーズの「Dani California」も加えると、どれだけトム・ペティがモテモテかが分かるでしょう。

⇒【YouTube】Shawn Colvin - Sunny Came Home http://youtu.be/qfKKBDFCiIA

⇒【YouTube】Tom Petty And The Heartbreakers - Mary Jane’s Last Dance http://youtu.be/aowSGxim_O8

⇒【YouTube】Red Hot Chili Peppers - Dani California [Official Music Video] http://youtu.be/Sb5aq5HcS1A

 ギターの次はキーボード。キャプテン&テニールの「Love will keep us together」(第18回最優秀レコード賞)を参考に、さらに良い曲に仕上げて賞をかっさらっていったのがドゥービー・ブラザーズの「What a fool believes」(第22回最優秀レコード、楽曲賞)でした。トヨタウンのCMでもおなじみですが、あのブライアン・ウィルソンが「自分が作者だったらよかったのに」とうらやむほどの名曲なのです。

⇒【YouTube】Captain & Tennille - Love Will Keep Us Together http://youtu.be/0aU57V6VBW0

⇒【YouTube】Michael McDonald - What a Fool Believes Live http://youtu.be/mnnTmbQ4rAA

 続いては“パクり、パクられ”に敏感なソングライターの世界ならではの、ちょっと深イイ話。「Up ,up and away」(第10回最優秀レコード、楽曲賞)の作者であるジミー・ウェッブが1971年にロンドンでハリー・ニルソンと会ったときのこと。ニルソンが実に申し訳なそうな顔をして、ウェッブにこう切り出したといいます。

「僕の『Gotta get up』という曲の中で、“Up ,up and away”というフレーズを使わせてもらえないだろうか」と。

 ウェッブはニルソンの思慮深さに感銘を受けつつ、そもそも自分だってスーパーマンのラジオ番組で使われたフレーズから拝借したのにと種明かしをしています。ちょっとしたアイデアから偉大な曲が生まれ、それがまた別の才能を思わぬ形で刺激する。まさにソングライターズサークルと呼びたくなるエピソードです。

⇒【YouTube】The 5th Dimension - Up, Up and Awa http://youtu.be/_ii_WugJEJg

⇒【YouTube】Harry Nilsson-”Gotta Get Up” (BBC-1971) (2/7) http://youtu.be/uwQa_Ot7ss8

 このように繊細な気づかいがある一方、無意識のうちに様々な水脈につながっていくのもポップスの素晴らしいところ。ノラ・ジョーンズの「Don’t know why」(第45回最優秀レコード、楽曲賞)の一部が、ほとんどビートルズの「Yesterday」であることにお気づきでしょうか。<Don’t know why I didn’t come>と<I believe in yesterday>を聴き比べてみてください。こういったおおらかな偶然も楽しいものです。

⇒【YouTube】Norah Jones - Don’t Know Why http://youtu.be/tO4dxvguQDk

⇒【YouTube】The Beatles - Yesterday http://youtu.be/S09F5MejfBE

 ちなみに「Yesterday」が出来たとき、ポールもジョンも「とんでもない曲ができた」と大興奮だったそうですが、それもボブ・ディランにかかると「掃いて捨てるほどあるティン・パン・アレー風の曲だろ」と、反応は両極端。さて皆さんはどちらに共感するでしょうか。

 では最後に、はっきりとした意図をもって先人に敬意を表した例を。05年に「Boulevard of broken dreams」(第48回最優秀レコード賞)でグラミーを獲得したグリーン・デイが12年に発表したアルバム『Uno!』。そのファーストシングル「Oh love」でプラターズの「The great pretender」のフレーズが少し歌詞を変えて組み込まれています。それでもメロディは、はっきりそれと分かる形で残っている。フレディ・マーキュリーやザ・バンドもカバーしたクラシックナンバーが、グリーン・デイというもう一つの良心によって生き永らえた格好です。

⇒【YouTube】Green Day: “Oh Love” - [Official Video] http://youtu.be/IWwMqa-_210

⇒【YouTube】The Platters - The Great Pretender http://youtu.be/rwfmbXJEBtY

 というわけで、サム・スミスはトム・ペティよりも小金沢昇司にそっくりなのではないかと感じる今年のグラミー賞でした。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>