急激な輸入規制により2013年下半期の金輸入が激減したインドは、長年にわたる最大の金需要国の座を初めて中国に明け渡した。経常収支の赤字は拡大し、その額は一時GDP(国内総生産)の5%近くまで膨らむ結果となったが…。

インドの金輸入を
増やすことにつながった
原油価格の下落

インドの経常収支の赤字を減らすために白羽の矢が立ったのが、金だった。同国での金の輸入は、金額では原油に次ぐ規模にまで膨らんでいた事情がある。

政府は、輸入関税を短期間で10%にまで引き上げ、さらに輸入した金の20%(金額ベース)を宝飾品の形で再輸出することを、次の輸入許可の要件にすることとした。「80:20ルール」と呼ばれるこの規制は、10%の関税と合わさって効果を発揮した結果、輸入は激減した。

ところが、経済が伸び盛りのインド。2014年の春にモディ新政権が発足し、外資導入の規制撤廃や許認可手続きの簡素化などの構造改革が始まり、経済の好転とともに金の売れ行きは高まることになった。この7〜9月期の需要は225トンと、前年同期の161トンから39%の増加となった。輸入にいたっては9月が143トン、10月が150トンと市場関係者も驚くほどの数字に。そこで懸念されたのが、輸入規制のさらなる強化だった。

ところが2014年11月28日にインド政府が発表したのは、「80:20ルール」の撤廃だった。まさにサプライズ。理由は明らかにされていないが、背景にあるのは原油安だと考えられている。

まず、規制強化で金輸入が減り、経常赤字が改善したこと。GDPの4・8%にもなった赤字が2014年4〜6月期には1・7%まで縮小した。

さらに、同年8月以降30%以上も値下がりした原油価格がそれに加わった。原油を100%輸入に頼っているインドでは、価格の下落は赤字の減少につながる。実際に10月は123億6000万ドルと前年同月比で19%も減少した。このまま原油の低迷が続くと、2015年の輸入代金は2013年比で527億ドル減るとの見積もりもある。実は2013年通年のインドの金輸入の金額は440億ドルほどなので、原油安の効果はそれを上回るのだ。こうした流れを踏まえたうえでの規制緩和策とみられている。

さらにモディ首相は、金を尊ぶ敬けいけん虔なヒンズー教徒でも知られる人物。国民に人気のない政策の緩和に動いたのには、こうした背景も考えられる。すでに輸入関税の引き下げも視野に入れているとされ、輸入規制は一気に緩和される可能性が高まってきた。世界最大の需要国の復活は間違いないだろう。その裏には原油安があるというわけだ。

亀井幸一郎
PROFILE OF KOICHIRO KAMEI
マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表。中央大学法学部卒業。山一證券、に勤務後、日本初のFP会社MMI、金の国際広報機関WGCを経て独立し、2002年より現職。市場分析、執筆講演など幅広く活躍中。

この記事は「ネットマネー2015年3月号」に掲載されたものです。