暴力団と菓子問屋が組んだ「脱法ビジネス」が行われている

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 バレンタインの売れ残りチョコレートが、ヤクザの新しい“シノギ”になっているという。

「チョコのシノギを始めたんだ」

 指定暴力団三次団体の組長が、筆者にこう話す。このシノギは、ある食事会にやってきた菓子問屋の話を聞いて即決したという。翌日には不動産の手続きを開始し、窓口になる企業舎弟を割り振りした。

「必ず儲かる。堅いシノギになる。売れ残ることはまずない」

 と、その組長は言う。あまりに自信たっぷりなので、代紋をかたどったチョコでも作り、組員や家族に強制販売するのかと勘ぐった。水や洗剤、コーヒーなどを仕入れ、組員に高値で売りつける組織はあちこちにあるのだ。

「考えが甘いかどうか見に来いよ。(記事の)ネタになるだろ」

 組長に誘われて電車に乗った。

売れ残ったチョコレートを買い叩いて海外へ

 東京から特急で30分、衛星都市の工業団地近くに倉庫はあった。変哲のない倉庫で、普段は地元の農家が路地野菜の出荷に使っている。入口の脇に小型のトラクターや農機具が雑然と置いてあった。知り合いを通じて、その一部を間借りしたという。

「ものには売り時ってもんがある。需要と供給だ。相場ってヤツだ。安い時に仕入れて、高い時に売るのが商売の基本だろう。バレンタインデーは菓子屋のかき入れ時。コンビニでさえ、一店あたり10〜20キロは仕入れるらしい。工場は1カ月前からフル回転する。普段は100円のチョコが、その時期なら倍でさばける」

 組長のスキームはこうだ。

 今年、バレンタインデーで売れ残ったチョコを掻き集める。半分は業者に紹介してもらった工場からだ。その他、コネを総動員してありったけの売れ残りチョコを買い叩く。とりあえずどんな製品でもかまわない。

 それらのチョコはいったんこの倉庫に集積し、卸問屋に5万円程度のギャラを渡して“選別”させる。ここで「廃棄処分」になったもの以外を、北海道に借りた同規模の冷蔵倉庫に運ぶのだという。

 チョコの天敵は気温と湿度だ。高温多湿で溶けてしまうと商品として使えないし、チョコに混ぜ込んだクリームなどが酸化してしまうからだ。湿度が低く涼しい北海道なら電気代があまりかからず、輸送費を払っても十分に元が取れるという。

 組長が説明する。

「賞味期限はチョコによってばらばらだ。工場が仕入れる原材料には1年以上もつものもあるが、俗に言うタブレットの板チョコは1年から1カ月。クリームなんかをたっぷり混ぜてる商品だと2週間程度のものもある。事前に経営情報を集め、現金が必要な工場を回って、原料として余ったチョコレートを買い集める。まとまった量なら、すでに製品の形になったものでもいい」

 北海道に保管したチョコは、次のバレンタインデーがやってきて、全国の製菓業者の工場がフル回転する時まで寝かせる。そして、時期を見定め、寝かせておいたチョコをシンガポールに空輸する。それらがシンガポールの工場で再び溶かされ、タブレット(板チョコ)の菓子原料として生まれ変わる。

「すでに賞味期限が切れていたチョコが、これによって新品として取引可能になる。日本の法律がザルすぎだ」

菓子業界の“裏商売”にヤクザと半グレが乗った

 このビジネスを仲介するのは、アジアをうろつく“半グレ”たちだという。

「あいつら(半グレ)、人脈とパイプだけはある。雑貨や健康食品などのシノギで、輸出入のノウハウも持ってるから便利屋としては使える。普通の若い衆に、シンガポールの工場探せっていっても無理だ」

 こうして出来上がったチョコを日本に「再輸入」し、息のかかった菓子問屋にまとめて引き取らせる。菓子問屋が協力者となったのは、現金をすぐに動かせる旨みがあったからだ。

「卸問屋のインチキにいっちょ噛みした形だ。もともと、問屋の間では知る人ぞ知る裏商売だったんだと。銀行に『チョコの賞味期限をごまかして転売するから融資してくれ』とも言えないしな。そいつは事業を広げたいが現金がなかった。そこで俺が融資、というか投資することにした」

 法の不備を突いた商売……。「違法」ではなくても、道義的に問題はあるだろう。こうして賞味期限をごまかしたチョコを大手の業者は決して買わないだろうが、利益率を上げるため、安い原料を欲しがる工場は全国にある。実際に、食べても問題はない。味の劣化は一般の顧客には判別できない。

「食ってみて味の違いが分かるのはパティシエくらい。一般人にはまず分からない。この仕事に金をぶち込むんだから、チョコの試食程度はした。東京でも有名な店は、やっぱりいいチョコを使ってた。何千円もするヤツ(商品)は、それなりの理由がある。反対に、馬鹿に安いものにはカラクリがあるということだ」

 この組長は、自身の縄張りの中でホストクラブを経営している。そこに“ある指令”を出したと笑う。

「今年は『客からもらったチョコは回収する』と言ってある。頑張ってたくさんもらうよう、マネージャーには電話した」

 ジョーク半分だろうが、組長がこのシノギに入れ込んでいることはわかった。

 組長の新しいシノギは、暴力団らしく不正を下敷きとしている。が、詳細を聞くと、ヤクザの代紋のメリットはまるでなく、商売人の着想だ。

 帰り際、土産にチョコをいくつかもらった。

「賞味期限切れのチョコだ。食ってみてくれ」 

 帰りの電車で食べたそれは、しっかりと甘く、ほろ苦かった。

鈴木智彦(すずきともひこ)1966年北海道生まれ。日本大学芸術学部除籍。雑誌・広告カメラマンを経て、ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーライターに転身。実話誌、週刊誌を中心に、幅広くアウロトー関連の記事を寄稿している。著書に『潜入ルポ ヤクザの修羅場』『ヤクザと原発 福島第一潜入記』(ともに文藝春秋)、『我が一家全員死刑 福岡県大牟田市4人殺害事件』(コアマガジン)など