「OurPlanet-TV」より

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 一般には馴染みが薄いが、東京・永田町に国会記者会館という建物がある。地上4階、地下2階、延べ床面積6115?で、東京メトロ国会議事堂前駅徒歩1分、首相官邸と国会議事堂に隣接する超一等地に建つ。土地と建物は国有だが、政治部を持つ新聞社、放送局159社が加盟する記者クラブ「国会記者会」が衆議院から管理を委託されるかたちで独占的に使っている。しかも、使用料は無料、つまりタダだ。

 この建物を巡って2年前、裁判が起こされた。訴えたのは、インターネットメディアのOurPlanet-TV代表の白石草さんだ。同会館の屋上から毎週金曜日夜に繰り広げられる反原発デモの模様を中継しようとしたところ、共同通信OBで会館の管理を任されている国会記者会事務局長の佐賀年之氏から「今日は国会記者会に加盟しているメディア以外には使用させないことにしている」といわれ、取材はおろか会館に立ち入ることさえ阻止された。

 詳しいことは後述するが、会館は「国会関係の取材のため」に国民の税金で建てられた国有財産だ。一般社会人の常識からしたら、メディアとはいえ一部私企業が独占的に無償で使い、後発メディアを排除するというのはどう考えてもおかしいだろう。白石さんはあの手この手で「壁」を突破しようと試みたが埒が明かず、やむなく裁判に訴えたというわけだ。

 その顛末記が「放送レポート」1月号に書かれている。そこから浮かび上がってくるのは、既存メディアの情けないほどの「志」の低さだ。権力の中枢で取材をしている記者たちがこの程度なのだから、日本のメディアに権力の監視を期待するなど、どだい無理なことかもしれないとさえ思えてくる。逆に言えば、そこまでメディアの劣化が進んでいるというわけだ。

 孤軍奮闘の白石さんがまず試みたのが弁護士を伴って会館を訪れ、国会記者会に対して正式に取材の申し入れをすることだったが、佐賀氏の態度は変わらず、あえなく敗退。次に、記者会に対して撮影の許可を求める仮処分申請をしたが、国会記者会には記者会館屋上の管理権限はないとして東京地裁でも高裁でも却下された。

 これを見かねた衆議院の職員から行政処分という方法を使えば屋上から取材が可能になると言われ、書面の書き方や方法を教えてもらいすぐに実行した。衆議院の事務局は白石さんには同情的で、「私たちはインターネットメディアだからといって排除するつもりはない。むしろ入れたい」と言っていたほどだという。ところが、行政処分も却下される。理由は「国会記者会の協力がないと入れることはできない」というものだった。

 白石さんが裁判を起こしたのは2012年9月29日のことだった。国と国会記者会を相手取って、報道の機会を喪失したことに対する損害賠償を求めたのだ。

 裁判の過程でさまざまな問題点が指摘された。ポイントのひとつは、なぜ、本来は「公」の施設であるはずの国会記者会館を、NHKや私企業である新聞社・放送局の社員で構成される国会記者会なる団体が「無償で自由に」使っているのかという点だ。会館は1969年に衆議院事務局が5億6379万円をかけて建設した。2階から4階に新聞社や放送局が入居する部屋があり、それぞれの会社がまるで支局のようにして使っている(しつこいがタダで)。

 それどころか、そもそも国の財産でありながら、記者会に加盟していないメディアに対して高額な家賃を取ってまた貸ししていることもわかった。さらに問題なのが、あれほど大きな国有財産の管理を任されていながら、国会記者会は登記もしていない単なる任意団体で、会計報告などの情報公開をいっさいしていないことだ。テレビ、地方紙、全国紙、通信社の4社の政治部長が持ち回りで常任幹事を担当し、会館の運営を決めていた。あまりにも不透明だ。

 ちなみに、これほど杜撰に管理された国有財産は他にはない。

 国と国会記者会が会館の運営に関して契約らしきものを交わした形跡もなかった。唯一、建物が完成した際に衆議院が国会記者会に通知した「国会記者事務所の使用について」と題するわら半紙に印刷された古びた文書があるだけだった。第一条「使用の目的」には「国会関係の取材のための新聞、通信、放送等の記者用事務室」と記載されており、第三条の「使用料」には「無料とする」と書かれていた。そして第八条2項に、次のように記されていた。

「建物の使用目的に鑑み、国会記者会加盟社以外についても衆議院が必要と認めるものは、使用できるものとし、この場合においても国会記者会が運営管理に当たるものとする」

 この通知に従えば、白石さんらの行政処分の申請は許可されるべきだった。しかし、そうならないのは、建物を所有している国(衆議院)よりも、管理を任されている存在に過ぎない国会記者会(政治部)の方が力関係では「上」だからだ。各社の政治部記者は政治家とも近い。大手メディアの政治部連合体を敵に回すことを怖れて、国有財産の私物化状態が放置されているのである。要するに、既得権だ。

 実際、前出の共同通信OBの佐賀氏は、白石さんらが撮影許可を求めて事務所を訪問した際、こう言い放ったという。「明治から120年続く既得権益を手放すわけにはいかない」「ネットメディアとテレビが競合する。雑誌と新聞は競合する」。しかし、経済的既得権を守るため、大手メディアが束になってネットメディアを排除するというのは、なんとも度量の狭い話ではないか。ネットメディアの台頭に自信を失っている証左かもしれない。

 さて、一般社会人の常識からすれば当然、白石さんらの主張が認められそうなものだが、14年10月13日に下された東京地裁の判決は、原告の訴えを棄却するというものだった。詳細は省くが、要するに、国会記者会にカギを渡して屋上管理を任せているのは裁量の範囲であって、不合理ではない、ということだった。ただ、判決文にはこうも記されていた。「インターネットメディアは多数かつ多様であるため、公平かつ妥当な対応のためには国と記者クラブとの協議や基準づくりが必要であった」。あまりに当然の指摘だった。

 白石さんらは地裁判決を不服として、いま控訴審を戦っている。
(野尻民夫)