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●日本の航空機産業発展に向けたプロジェクトがスタート小型旅客機「MRJ」や先進技術実証機(ATD-X)の初飛行、そしてホンダジェットの納入開始など、2015年は日本の航空機産業にとって大きなニュースが目白押しだ。そしてさらに、将来の航空機にとって必要不可欠な新しい技術の研究が日本で始まることとなった。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)航空本部は2月10日、2つの新しいプロジェクトを今年1月に立ち上げたと発表した。ひとつは高効率で軽量なファン、タービンの技術実証を行う「aFJR」、もうひとつは航空機から出る騒音を低減する技術の飛行実証を目的とした「FQUROH」である。

○JAXA航空本部と新プロジェクトの位置づけ

発表ではまず、JAXA航空本部の役割について説明が行われた。

一般にJAXAというと、小惑星探査機「はやぶさ」や宇宙飛行士など、宇宙に関する取り組みが多く注目される傾向がある。しかし、もともとJAXAは、「宇宙開発事業団(NASDA)」と「宇宙科学研究所(ISAS)」の他に、「航空宇宙技術研究所(NAL)」も統合されてできたものであり、宇宙開発と同じぐらいに、航空分野でも長く大きな歴史と実績がある。例えば国産旅客機「YS-11」の開発支援や、短距離離着陸実験機「飛鳥」の開発、そして後述する国産初のターボ・ファン・エンジン「FJR710」の開発などを手掛けたのはNALであった。2003年10月にJAXAに統合された後も、航空機技術の発展のために日夜力強く研究が続けられている。

JAXA航空本部では、大きく3つのプログラムを実施している。航空環境技術の研究開発を行う「ECAT(Environment-Conscious Aircraft Technology Program)」、航空安全技術の研究開発を行う「STAR(Safety Technology for Aviation and Disaster-Relief Program)」、そして航空新分野の創造を行う「Sky Frontier」だ。またそれら3つを支える形で、基礎的・基盤的技術の研究を行う「Science & Basic Tech」がある。

航空機産業は今後20年で2倍以上の成長が見込まれており、また部品点数が自動車の約100倍もあるため、産業構造の裾野が広いという特徴がある。日本は航空機分野では若干遅れをとっているが、今後シェアの拡大や、国際共同開発における主導権を獲得し、日本の航空機産業を発展させるためには、経済性、環境への適合性、安全性、そして長期的な視点に基づいた先端研究に力を入れることが重要とされる。

その中で、今回ECATから2つ、「aFJR」と「FQUROH」のプロジェクトが開始された。詳しくは後述するが、aFJRは高い効率を持つ軽量のファン、タービンの技術実証を行うことを目的とし、一方のFQUROHは、機体から発生する騒音を低減させる技術の飛行実証を目的としたプロジェクトだ。

この2つのプロジェクトは、国際的な水準に照らして高い技術目標を掲げており、またこれ以上に獲得した技術の社会的、技術的な波及効果を意識した「出口志向」の強いものとなっており、そのために産業界と連携して進めていくこととされている。また文部科学省の「戦略的次世代航空機研究開発ビジョン」でも、優先技術として開発することが定められている。

●日本が誇る高性能ターボ・ファン・エンジンの名を継承○効率の良い次世代エンジンの開発に貢献するaFJR

aFJRは、これまでよりも効率の良い次世代ジェット・エンジンの開発を目指したもので、「advanced Fan Jet Research」の頭文字から取られている。

またFJRという名前は、今から約40年前に開発された日本製の高性能ターボ・ファン・エンジン「FJR710」にも因んでいる。FJR710はその成果が「V2500」というエンジンに技術が継承された実績があり、同シリーズのエンジンは現在、エアバスA320シリーズなどの世界的なベストセラー機に搭載されている。また日本のメーカーは主に低圧系のファンとタービンの製造を担当しており、そのシェアはエンジン全体の23%に上るほどだという。

今回はじまる新しいプロジェクトも、FJR710のように日本の航空産業に貢献したいという想いが込めて、FJRの名前が継承されたのだという。

aFJRが立ち上げられた背景には、航空機の騒音やNOx(窒素酸化物)に対する環境基準が年々厳しくなっていることや、また燃料価格の高騰や不安定さから、燃費の良い航空機が期待されていること、また、燃費が良くなればCO2などの温室効果ガスの排出量も減少させることができることなどがある。

そのためには、エンジンの「バイパス比」を大きくすることが必要だ。バイパス比というのは、エンジンの前方に取り付けられた大型のファン部分のみを通過する空気の量と、エンジンの中心部分を通過する空気の量の比率のことで、これを大きくすることで燃費が上がり、排気ジェットの騒音も減少させることができる。ただ、バイパス比が大きいほうが良いというのは亜音速で飛行する航空機に限った話で、超音速で飛行する航空機にとっては、逆にバイパス比が低いエンジンのほうが適している。

旅客機用のターボ・ファン・エンジンのバイパス比は年々高くなっており、例えばV2500シリーズのエンジンのバイパス比は5前後だが、最新のボーイング787に搭載されているRRトレント1000というエンジンは11もある。また、エアバスのA320neoや、日本が開発中の旅客機MRJに搭載されるPW1000Gシリーズは、最大で12にまで達するという。しかし、aFJRではさらにその先を見据えて、バイパス比13以上にもなる超高バイパス比のエンジンを実現させるという。

開発のポイントとしては、まずファンの軽量化が挙げられる。素材には炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が使われる。すでにCFRPはいくつかのエンジンで使われ始めているが、aFJRでは内部を中空化したり、構造を見直すことで、さらなる軽量化を図るという。これにより、V2500と比べて0.9%ほど軽くなるという。また、軽量化ファンのブレードの形状を工夫し、表面を流れる気流の層流が乱流に変わる地点を後方に遅らせて抗力を減少させる「層流ファン空力設計技術」が使われるという。さらに、そのファンを回すために使われる低圧タービンの羽にセラミックス基複合材料(CMC)を用いることでも軽量化が図られる。さらに、エンジン・ナセルの内側にある、音を吸収する吸音ライナーも、現在はアルミが使われているが、性能を維持しつつ、より軽量なプラスチックを用いるという。これらの改良によって、V2500シリーズと比べて、エンジン総質量を10%程度減少させることを目指すとされる。

aFJRは、これらブレードや吸音ライナーなどの技術について、各要素レベルでの性能試験を行う計画だ。試験にはJAXAの他、IHIや東京大学、筑波大学、金沢工業大学が参画し、JAXAやIHIの試験設備を使って、性能の確認の他、ファンに鳥が衝突したときの状態を見るためのゼラチンを打ち込む試験、また軸が破断したときに回転数が上がるのを防ぐため、羽を壊しながら速度を落とす過回転防止ブレードの試験などが行われる。

各要素の開発は数年前からはじまっており、2012年度までに設計技術や使用する材料の研究が行われ、2013年度には計画の準備や策定などが行われた。そして2014年度から試験がはじまり、2015年1月にaFJRチームが発足したという。試験計画は5年で、2017年度までに終え、その後実際のエンジンの開発、製造に活かすため、技術移転を行っていきたいとのことだ。

エンジンから出る騒音が減り、燃費も向上すれば、航空会社にとっては利益が増加するため、aFJRの市場における価値が高くなることが期待されるという。またV2500のファンや低圧タービンなどの低圧系要素は日本のメーカーが担当しているため、多くの技術の蓄積がある。おそらく国際共同開発になるであろう次世代エンジンにおいても、aFJRの成果とその優位性を活かして、開発や製造に食い込みたいという。

発表を行ったaFJRプロジェクト・チームのプロジェクト・マネージャーの西澤敏雄氏は「試験の成果を実機の開発につなげていきたい」と期待を語った。またIHI理事の金津和徳氏は「このプロジェクトを通じて、日本のエンジン競争力の向上に期待したい。また若手技術者の人材育成になることも期待している」と語った。

●エンジン以外からの騒音も減らすことで低騒音の実現を目指す「FQUROH」○フクロウのように静かに飛べる飛行機を目指すFQUROH

aFJRと並んで、この日発表されたもうひとつのプロジェクトが「FQUROH」だ。FQUROHは「Flight demonstration of Quiet technology to Reduce noise from High-lift configurations」の頭文字から取られており、航空機から出る騒音を低減するための技術の飛行実証を目的としている。FQUROHはフクロウと発音するが、これは実際のフクロウが空を静かに飛ぶように進化してきた鳥なので、航空機の騒音低減というミッション目的と合致することから名付けられたそうだ。

航空機から発生する騒音はすさまじく、空港周辺に騒音対策を施したり、建築物の建設に制限が出たり、夜間の離発着を行わないようにしたり、あるいは航空会社が支払う着陸料に、騒音に応じたペナルティがあったりといった対処がなされてきている。

しかし、航空機による輸送はこれからも年5%ほどのペースで増えると予測されており、今後20年で2.6倍になり、離発着数も今の2倍になるという。それにより、騒音も平均で3dbほど増えることが予測されている。そこで航空機から出る騒音を、さらに減らしていく必要がある。

かつては、騒音の主原因はエンジンにあったため、バイパス比を増やすことで騒音を減らしてきた。しかし、数字の上では年々、確かに下がってはきているものの、いよいよバイパス比の改良だけでは追い付かなくなってきたのだという。

そこで、エンジン以外の部分から発生する騒音も減らしていかなければならない。騒音の原因として大きいのは、離着陸の際に主翼から展開させるフラップとスラット、そして着陸脚だという。これらは90から100dbほどの音を発生させる。

だが、騒音の源となる空気の流れは、物理現象が複雑で予測するのが難しく、また巡航時は機体に収容する必要があるため、最適な形状にすることが難しいという課題があった。

FQUROHは2013年からプリプロジェクトとして進められており、これまで数値解析や風洞実験を通じて研究が行われてきた。そして見通しが立ったことで、実際の飛行機を使って実証することを目的とし、正式にプロジェクトとして立ち上げられたという。また日本はこの50年間、航空機を開発した経験が少ないため、航空機を飛行させて新しい技術の実証を行う、そのプロセスを確立することも目的とされている。

実証試験はまずJAXAが保有する「飛翔」を使って行われる。飛翔はJAXAが2011年に導入した実験用の航空機で、米国セスナ社のサイテーション・ソヴリンを改造した機体だ。試験では、飛翔のフラップ上面に騒音を抑制するための装置を装着し、また端の形状が丸められる。また着陸脚のタイヤとタイヤの間のブレーキ部に、穴の開いたフェアリングを装着するという。

そして2019年ごろには、三菱航空機のMRJを使った実証試験を行いたいとのことだ。

試験にはJAXAの他、三菱航空機、川崎重工業航空宇宙カンパニー、住友精密工業が参画する。また大学や海外の研究機関との連携も図られるとのことだ。

登壇した川崎重工業航空宇宙カンパニーの葉山賢司氏は「これまで数値計算や風洞実験を行ってきたが、実証機を使った飛行試験はなかった。このFQUROHで実際に効果を確認でき、またその後物を造るという、「設計のループ」を初めて取り扱うことになる。世界的にもまだこの技術は実用化されていない。非常に期待している」と期待を語った。

また三菱航空機の中西邦夫氏は「現在開発しているMRJでは、環境に優しいこと、低騒音であることを売りにしているが、まだまだ低騒音化を進めていかないといけない。期待している」と語った。

最終的な数値目標については、FQUROHは各要素の実証を行う計画であるため、また既存の機体を改造する形でやるので、低騒音化には限度があるという。成功基準としては、各騒音源それぞれ2db程度下げることを目指すという。いずれ、本格的にこの技術を使った航空機を造ることがあれば、エンジン低騒音化などを含めると4db程度下げることを目指したいとのことだ。

参考・・・

(鳥嶋真也)