「私の誕生日は88年3月10日よ」「え、僕と同じだ!」「素敵な偶然ね。私の写真を送るわ」。戦場で極限の緊張が続くなか、そんな甘い言葉をささやかれたら、思わず気が緩んでしまうのも無理はないのかもしれない。

 アサド政権と反政府勢力の対立が続くシリア内戦では、ネットを使ったプロパガンダや戦闘員の募集が注目を集めているが、ネットの活用法はそれだけにとどまらない。アサド政権を支持するハッカー集団が女性のふりをして反体制派に接近し、相手のパソコンから機密情報を盗み出した実態が明るみに出たのだ。

 アメリカのサイバー・セキュリティー企業ファイア・アイの報告書によれば、ハッカー集団はまず女性を装ったスカイプのアカウントを用意。反体制派の男性戦闘員とチャットを通して親密になった上で、女性の写真入りのファイルを送り付けたという。相手がそれをクリックすると、パソコンにウイルスが自動的にダウンロードされ、データを盗み出す。男性を誘惑するためのチャットの脚本まで用意されていたという。

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 13年11月〜14年1月にかけてハッキングされたデータは7.7ギガバイトに達し、その中には反体制派陣営の戦闘計画や必要物資の情報、大量の個人情報などが含まれていた。「この計画を誰が主導したのかは分からないが、アサド陣営がデータを入手したとすれば強力な武器となっただろう」と、ファイア・アイは指摘している。

 ハッカー集団が仕掛けた罠はチャットだけではない。反体制派向けの偽サイトを作成し、そこに女性のライブカメラ映像へのリンクを掲載。それをクリックすると、不正ソフトが組み込まれたサイトに誘導される。さらにフェイスブックの偽のログインページに誘導して個人情報を入力させる仕掛けもあった。

 被害者はシリア国内だけでなくレバノン、ヨルダンなどの中東各国にも及んでいる。色仕掛けに弱いのは万国共通?

[2015.2.17号掲載]

クキル・ボラ