【2月特集 2015年躍動するホープたち(2)】

 今年の4月から高校生になる、飛び込みの板橋美波(JSS宝塚)が7月に行なわれる世界選手権の、高飛び込み、板飛び込みの2競技で代表に選出された。しかしそれは、完璧な演技で勝ち取ったものではなく、悔しさの残るものだった。

 2月7日に行なわれた、飛び込み国際大会派遣選手選考会女子高飛び込み決勝で、15歳の板橋美波(JSS宝塚)はチームメイトで1歳上の佐々木那奈(JSS宝塚)に逆転負けを喫して涙を流した。

「4本目の109C(前宙返り4回半抱え込み)を普通に飛んでいれば80点台は出たと思うけど、今日は予選前の練習で助走がいきなり崩れて不安になってしまい、それが決勝にも影響しました。その前の207B(後ろ宙返り3回半エビ型)では初めて90点台を出せたので、それで少し油断してしまったのもあると思います」

 7月に行なわれる世界選手権代表がかかったこの試合で「勝たなければ」と緊張してしまい、前夜もなかなか寝つけなかったという。その不安と焦りで助走が狂い、午前中の予選ではストライドが広がり、飛び込み台の先端から足が半分出てしまう踏み切りになっていた。それを踏まえて、決勝では少し後ろからスタートしたが、今度は先端まで届かず、手前で踏み切ってしまった。加えて予選では回転が甘かったため、決勝ではギリギリまで持っていこうとして最後の体の伸ばしが遅れ、わずかに回転オーバーに。

 この109Cは、女子では世界で板橋ただひとりができる難易率3.7の難しい種目だ。完璧にやれば100点台になるが、普通にやれば出せるという80点台をこの日も出すことができていたら、板橋の5種目合計は380点台中盤になっていた。これはロンドン五輪銀メダルを上回る得点になる。

 チームの先輩である寺内健は「あいつは化け物ですよ。ものすごく刺激になるけど、同じことをして負けたらどうしようかと思うから、自分の戦い方と戦略を考えています」と苦笑しながら、高く評価する。

 両親が柔道をやっていた影響から、幼いころは柔道をやりたいと言っていた板橋が、飛び込みを始めたのは小学3年生からだった。同じ時期、柔道の練習にも行ってみたが、遊び感覚で始めていた飛び込みの方が楽しかったという。

「始めた頃はジャンプも低かったし回るだけで、特別に水切れもすごいわけではなくて強化の対象外でした。でも寺内選手が『この子はすごい』と言ってくれて、小6の4月からJSS宝塚で(馬淵)崇英コーチの指導を受けるようになったんです。今の私があるのは寺内選手のおかげなんです。でもその時は何がなんだかわからないうちに2週間の合宿にも行ったけど、練習はきついしできないことだらけで、毎日泣いて泣いて、泣いて......。あの時が人生で一番泣いたと思います」

 負けず嫌いの性格は幼い頃からだった。小学生のときに鉄棒ができず、「友達ができるのに自分ができないのは嫌だ」と放課後に毎日ひとりで練習をしていたという。飛び込みを初めてから、陸上トレーニングでの宙返りができず、「みんなはできるのに」と、泣きながら、コーチの補助を受けて小学4年生のときにやっとできるようになった。

 そんな中、「一緒に始めたふたりより練習量は半分くらいだったのに何故か......」という自分でも不思議なくらい、筋肉がどんどんついてきた。

「一番ショックだったのは、(太股の筋肉が)男子の先輩と同じくらいだとか、コーチよりすごいと言われたことですね。Gパンを買う時も太股に合わせたらウエストがブカブカで、ウエストに合わせると太股がパツパツだから。それで休みの日はいつもジャージでいるんです」と苦笑する。

 だが、その筋肉があるからこそジャンプ力が向上し、持ち前の回転速度をさらに生かせるようになったのだ。馬淵崇英コーチも「あのジャンプ力と男子以上の回転の速さは特別な才能。練習では安定している109Cをいかに試合で出せるかが課題だが、能力的にはトップにいける力がある」と評価する。

 7月の世界選手権では、12位以内に入って決勝に進出すれば、来年のリオデジャネイロ五輪の出場権を獲得できる。視界は一気に広がってきた。

「前は五輪に『出られたらいいな』くらいに思っていたけど、今は優勝したいと思えるところまで来ていると思うし、そんなに遠くない夢だと思うので、頑張って必死に食らいついていけば、リオでも結果は残せると思います。だからまずは世界選手権ですね。ただこれまでの海外の大会では緊張して失敗することの方が多かったので、日本で350点くらい出していても、初めてワールドカップに出たときは290点とか、自分が高飛び込みを始めた頃くらいの得点でした。精神力をもう少し強くしていけたらと思います」

 以前は世界を甘く見すぎていたところがあったという板橋。初めての日本代表に入った13年東アジア大会は1mと3m飛び板飛び込みに出場したが、「メダルを取れる」と言われていながらも失敗を重ねて5位と7位に終わった。

 その経験から「このままじゃダメだ」と気持ちを切り替え、昨年6月の代表選手選考会で優勝すると、ワールドカップやグランプリに出場を果たし、アジア大会代表にもなった。

 だが、「メダルを獲れる」と言われていたアジア大会ではミスをして5位に終わり、イタリアのグランプリ大会でも0.25点差で優勝を逃し、今まで以上にもっと細かなところまで気持ちを張りつめなければいけないことを実感した。

 一方で7月の世界選手権では個人戦以外の楽しみも出てきた。今大会の高飛び込みで優勝して、世界選手権代表になった16歳の佐々木は、昨年4月からJSS宝塚に入って一緒に練習をするチームメイト。彼女と組んでシンクロ高飛び込みに出場できる可能性が大きいのだ。

 板橋は「練習も一緒にできるし、ほぼ同年代だから。先輩とやっていた時は失敗すると『すみません』と謝って気を使っていたけど、今度は互いに『今、失敗しちゃった』『うん、いいよ。次頑張ろう』って言い合える」と笑う。シンクロは強敵の中国も1チームのみ。2名いる個人戦と違ってメダル獲得の確率が高くなるのだ。

「ただ、私は簡単な演技の方が苦手なんです。体のコントロールがたぶん下手なので、それだったら思い切り回す方が楽というのがあるんです。佐々木さんは基礎ができているので、頑張って合わせられるようにしたいですね」

 崇英コーチは「パワーとスピードは制御するのが難しく、精神面が大きく作用する。それを安定させるにはキャリアが必要」という。板橋はまだ15歳。これから経験を積んでいけば、確実に400点台も見えてくる。

 彼女の世界の頂点を目指す歩みは7月の世界選手権から始まる。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi