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●僕らのカルチャーをエアレースに乗せて、世界中へ届けたいグッドスマイルカンパニーといえば、「ねんどろいど」をはじめとするフィギュアを企画、制作、製造、販売するほか、アニメやゲームの制作、アパレル、レーシングチームの運営など、幅広い事業展開を行っている企業だ。

インタビュー前編では、同社代表取締役社長・安藝貴範氏に国内工場新設の狙いと、現在のフィギュア業界事情について語っていただいた。後編となる本稿では、グッドスマイルカンパニーが展開するフィギュア以外の事業展開――昨年発表された「レッドブル・エアレース」のオフィシャルパートナー、2014年シーズンで総合優勝を勝ち取った「グッドスマイルレーシング」、変形するヘッドホンや靴下といった新たなアイテム、さらにはグッドスマイルカンパニーという"企業そのもの"について、幅広く話を聞いていくことにしよう。

――先日、グッドスマイルカンパニーが日本初開催となるレッドブル・エアレースのオフィシャルパートナーとなり、安藝社長が大会エグゼクティブプロデューサーに就任することが発表されました。これまでレーシング事業を展開していたとはいえ、驚きのニュースです。なぜオフィシャルパートナーとして大会を開催することを決めたのでしょうか。

自分たちがレーシングチームの運営をしていることもあって、お声がけいただき、面白そうだなと思ったのがきっかけです。何より、日本初開催ってところがいいじゃないですか。僕は初物が大好きなんです(笑)。国内工場もそのノリが若干はありますね。

――(笑)。とはいえ、もちろんグッドスマイルカンパニーとしての狙いはあるわけですよね。

そうですね、「レッドブル・エアレース」といえば、世界中で見てもらえるスポーツです。そこにオフィシャルパートナーという立場で、演出に関われることは大きいですね。例えばエアレースのPVを作ろうということになれば、僕らが関わっているアニメスタジオが5社ありますし、何か玩具を作ろうとか、そういうこともできる。そこから僕らのカルチャーをエアレースに乗せて、世界中のいろいろなところに届けられるのは魅力的です。一方で、興行としても成立するだろうと思っています。うまくいけば、何年も続けて定着するスポーツイベントになるのではという期待もあります。

――グッドスマイルカンパニーとエアレースの組み合わせは少々意外でしたが、そう考えると違和感はないですね。

日本の会社でどこがエアレースと相性が良いかと考えると、僕らは比較的合うんじゃないかなと思いますね。

――安藝社長はエグゼクティブプロデューサーという立場ですが、具体的にはどういった形で関わるのでしょうか。

何をやるってわけでもなく、グッスマが関わってますよという示しみたいなものですね。ただ、どういうカルチャーをエアレースに結びつけるのか、それを誰がやるのか、あるいは演出や宣伝方法などについては、僕も意思決定に関わらせてもらおうと思っています。レッドブルさんが大きな広告費を投入しているので、それを僕らのアイデアでどう有効活用していくか。興味を持つか持たないか、ギリギリのところにいる人にアピールするのは、グッスマが得意とすることですからね。

――今回が初開催ということで、エアレースのことを知らない読者も多いと思います。エアレースの魅力とは?

カーレースでもそうですが、レースは基本的に準備が大事です。準備にヘタすると1年単位の時間がかかる。そうやって準備したものを、レースという一瞬のために使うわけです。レースでは短い間隔で状況判断を迫られます。スタートして3番手なら、2番手を今抜くべきか、もしくは早めにピットインして違うところを走るべきか……そういう状況判断や考えていることを、お客さんと共有できると、ものすごく面白いものになるんですよ。

レースの世界をチームとお客さんが同時に体験できると、応援してくれている人との間に強い絆ができます。そして、エアレースにも、同じ魅力があります。僕もエアレースは今回が初見だったのですが、しばらく見ているとわかるんですよね。「あ、今失敗したな」とか、「この人はうまいな」とか。パイロンを旋回するたびにタイムが表示されて、かかっているGまで数字で出る。すごくわかりやすくて、ベテランファンじゃないとわからないということもない。このわかりやすさとライブ性が最大の魅力だと思います。

――なるほど。今後もレッドブルとのコラボが期待できそうですね。

同じエクストリーム・スポーツの場に身をおいている者同士、何かあるんじゃないかなとは思いますね。先日、レッドブルエアレースの社長に会いに行ったのですが、彼経由でマテシス総帥に僕のアイデアを伝えてもらいました。「レッドブルの缶からロボットや飛行機に変形すると面白い」というおもちゃのアイデアです。そうすると、総帥からは「ぜひやってほしい。ジャパンカルチャーだ!」と(笑)。彼らにとって日本のカルチャーといえば変形ロボットだったりするんですよね。ちょっと違う気もするけど、そういうのが変に伝わって盛り上がるのも面白いですよね。もしかしたらレッドブルの玩具が出てくるかもしれませんね(笑)。

●僕自身は"巻き込まれ型"、バックアップの方が性に合っている――カーレースといえば、SUPER GTの2014年シーズンで総合優勝を勝ち取られました。率直に勝因は何だったのでしょうか。

体制作りを入念に行ったことでしょうか。レーサー、マシン、スペアパーツ、タイヤ。勝つために必要な要素を開幕前からセットアップして、レーサーたちがプラン通りにミッションを遂行できたのが良かったですね。2戦落としているのですが、それ以外はほぼ正しい判断ができて、必要なポイントを取っていけました。

――レーシング事業単体で黒字化していますが、これは業界でも珍しいことなのでは?

どうなんでしょうね。皆さん赤字って言っているだけじゃないですか。黒字じゃないとできないと思いますよ。まぁスポンサーにとっては赤字かもしれませんが、僕らは運営母体として資金を投入し、事業として行っていますからね。

――ホビーメーカーであるグッドスマイルカンパニーが、レーシング事業として成功したポイントはどこにあるのでしょうか?

ファンに情報開示をしたところでしょうか。今、僕らはどうなっているのかという情報を開示すること。どう考えて、どんな作戦をとろうとしているのか、そういうことをずっとリアルタイムで公開してきました。Twitterが普及する前は専用ページを作って、そこで開示していましたが、今は皆Twitterをやっているので専用ページも必要なくなってきましたね。そういったオープンな姿勢が共感いただけたのかなと思っています。

――チーム運営にファンがお金を払って支援されているという、個人スポンサー制度もユニークですよね。

企業スポンサーをつけるのに限界があるという当初の苦しみが良い方向に出ましたね。スポンサーをつける場合、女の子が車体に貼られているということがネガティブなケースもあるんですよ。レースのスポンサーさんはクールなイメージが大事なケースが多いですから。今はチームとして強いことが認知されましたし、初音ミクも今や"クール"なのでいいんですが、当初はどうしてもね。そうなると、ファンの方に支援していただくという方法を考えざるを得なかった。よく成立したもんだなと。初音ミクファンからレースファンになってくれたた人って、すごく増えているんですよ。もとがオタク特性なので、あっという間に、めちゃくちゃ詳しくなるんですよね。そうすると、タイヤ交換のタイミングとか、マシンセッティングとかに鋭いツッコミが入るので気が抜けませんね(笑)。

――今年の連覇にも期待がかかります。

2015年は連覇を目指して勝ちにいきますよ。基本的な体制は昨年のままですが、マシンが「BMW Z4 GT3 MY2014」から「メルセデス・ベンツ SLS AMG GT3 MY2015」に変わります。国内レースの特性を考えたとき、これがベストだと判断しました。やるからには勝つところまでやるというスタンスです。今年勝てないと、目標である二連覇がまた遠のいちゃいますからね(笑)。

――フィギュア以外の事業展開についてもう少しお聞きしたいのですが、変形するヘッドホンや靴下など、他業種のメーカーと組んで多方面に事業展開をされていますよね。こうした幅広い展開はどこから生まれるものなのでしょうか。

個人的な話なんですが、僕自身が"巻き込まれ型"なんですよ。何をやりたいというモチベーションを自分で持ってくるのが得意ではなくて、バックアップの方が性に合っているのかもしれない。そもそもフィギュア事業もバックアップから始まっていますし、その結果としていろいろなものに関わらせてもらえるようになってきました。

その中で、例えばヘッドフォンについてはロサンゼルスに持っているスタジオで、仲の良いミュージシャンであるリンキン・パークと遊んでいたのがきっかけ。彼らがヘッドホンを作りたいと言い出して、じゃあその手伝いをするよ、と。そのうちFOSTEXさんと一緒にやることになって、ただ作っても面白くないから、変形ロボみたいになったら面白いんじゃないかということになったんです。でもヘッドフォンは作るのが難しくて、3年かかりましたね。

靴下を販売することにしたのも、レーシングのチームウェアを一緒にやっているテラソラルというブランドのメンバーと話しているとき、偶然出てきた話からなんです。カーレースだってそう。僕らが主体的にやっているというよりは、何かにトライしてやっているうちに学んでいく。ホビー事業が幸い調子がよかったこともあって、そういう時間をとれたのはラッキーでしたね。うまくいっても失敗しても、体験を自分たちのものにできることには突っ込んでいきます。

●『キルラキル』は英語圏でも人気、――靴下の話もでましたので、アパレルについても今後どんな展開を目指していますか?

はっきりとしたイメージはないのですが、コラボというからには相手がいるわけで、そこに失礼があってはいけないと考えています。デザインや品質で十分に満足いくものにしないといけません。それから、アパレルは買う楽しみも大事だと思うんです。買う場所があって、何を買うか選べるバリエーションがあって、使う楽しみがある。それらがちゃんとそろっている状態で出さないと、中途半端になってしまいます。

松戸でカフェをやったときも、料理のクオリティにはかなり気を遣いました。僕の健康のために作ったカフェというのがコンセプトのスタートなので(笑)。そこにキャラクターを乗せてみたらたくさんの人にきていただいて、でも料理がハイエンドすぎて多くの客さんに対応できなくなってしまったという。そういうのが面白いですよね。

――グッドスマイルカンパニーは海外のファンとも積極的にコミニケーションをとっているイメージです。海外展開についてはどう考えていますか? 日本と海外ではさまざまな違いがあると思いますが。

海外には日本が大好きという人が一定数いて、そういう人には日本と同じ鮮度で情報を届ける必要があります。日本と同じサービスをどこまで提供できるか。それを実現するたびにお客さんの満足度が高まって、購入数も増えていると感じます。今は4、5カ国語くらいは同時にフィギュア情報を発信していて、海外からの問い合わせも増えています。大事なのはコミュニケーション。ファン同士もそうだし、ファンとメーカーもそう。ネットでは嘘がつけませんし、お互いがフラットな関係であるべきです。

―― 一方で『ミュータント・ニンジャ・タートルズ』など、海外向けのフィギュアも手がけられています。

アメリカで人気の作家さんとロサンゼルスでアトリエをシェアしているのですが、彼に改めて『ミュータント・ニンジャ・タートルズ』を描きなおしてもらって、僕らがフィギュア化して販売するという試みですね。アメリカのメーカーではなく、日本のフィギュアメーカーがやるとこうなるんだってことを見せたいです。ちなみに、日本のアニメって北米でも人気なんですが、日本でアニメを作っている人って日本のお客さんを気にしすぎているんですね。『キルラキル』なんかは英語圏でも超人気なんですよ。でも、それをクリエイターに知ってもらうには、現地に連れて行って体感してもらうのが一番。それをやるためには媒介が必要で、それが僕らなんだと思っています。

――アニメといえば、アニメスタジオ設立から3年が経過しましたね。手応えはいかがでしょうか。

感じたり感じなかったり……(笑)。すごいなと思うのは、どんなアニメでも彼らは同じ熱量をもって向き合うんですよね。えげつなくヒットを狙うみたいなことをしてくれてもいいのですが、まじめに向き合っちゃう。もっとはっちゃけさせないと、もったいないなと感じています。

――以前、アニメーターの創作環境について苦言を呈されていましたが、現在はどうなっているのでしょうか。

ここについては、僕らだけで解決できることではないんですよ。監督含め、アニメーターは大げさに言えば日本中の全スタジオで共有されているところがあって、プロジェクト単位で集まったりしますからね。ただ、品質と期間、コストを考えると、やはり十分ではないと思います。アニメはファンが濃いので、品質的欲求が高くなり、クリエイターもそれに応えようとして袋小路にはまることが多いのです。市場をまるごと大きくすることでしか改善しない問題です。市場規模が制作品質に対して足りていない。

海外でもサイマル配信などがあって、リアルタイムに日本のアニメを視聴している人が多い。でもそこからまだまだ回収できていない。ちゃんと海外にも市場を広げて、外に向かって作品作りをしていかないといけないと思います。そのためにはデザインの力が必要です。わかりやすいデザインにしたり、立て付けを綺麗にしたり、そういうことができるアートディレクターが何人かいますから、彼らを中心にしたチームを作りたいと思っています。

――今回のお話で、グッドスマイルカンパニーがどんな会社なのかということが、かなり見えてきました。改めて、安藝社長から見たグッドスマイルカンパニーとは?

一言でいうと、主体性がない会社ですね(笑)。外から見ると無邪気な感じが漂っていると思いますが、実はすごく真面目でストイックなんですよ。ストイックすぎて、何かプロジェクトを任せると、それをちゃんとしようとしすぎるところもあります。だから、どんどん新しいテーマを与えて変化させていく必要があるんです。グループ全社、そんな雰囲気ですね。

――グッドスマイルカンパニーは来年、15周年を迎えます。安藝社長として何かやりたいことなどはありますか?

僕らしかできないようなことをやっていきたいですね。グループだとアニメやオンラインゲームのチームなど関係会社も増えてきたので、全社の力を集結させたようなプロジェクトをそろそろやってもいい時期かもしれません。常に社運を賭けて全力投球していきます。これまでも、これからもね。

創業した2001年から2015年にかけて、エンターテインメントカルチャーの中心であり続けたグッドスマイルカンパニー。その背景にあるのは、真面目でストイックな社風と、エンターテインメントをもっと盛り上げようという安藝社長の熱い思いだ。レッドブル・エアレース主催、SUPER GTの新たな戦い、そして国内工場がフィギュア業界にもたらす革新――グッドスマイルカンパニーの動きはいつも新鮮な驚きに満ちていて、だからこそ面白い。

(山田井ユウキ)