写真はイメージ。本文と関係ありません

写真拡大

 若者や子ども、そしてそれを育てる親世帯の貧困問題が大きな社会問題化するなか、大卒者の貧困も大きな問題になっている。経済協力開発機構(OECD)に加盟する30か国のうち、給付制奨学金がなく、大学の学費も有料という国は日本だけだ。

 そして、奨学金制度を利用して大学卒業した者がその返済に困窮した結果、日本学生支援機構から返済を求める訴訟を起こされるケースは、なんと2012年までの8年で100倍超に膨れ上がった。いまや大卒者だから親にも余裕があり、本人も卒業後に安定した生活が送れるなどとはとても言えない時代なのである。

Fラン大学生は貧困への入り口なのか!?

 では、その最底辺と言われるFラン=Fランク大学の卒業生はどうか?

「入学時に四則演算がまともに出来なかったり、小学校で習う常用漢字が書けないというのが、Fラン大学生の実情です。でも、大学生全体の就職率の中で言えば、Fラン大学が特化して悲惨とは言えない」

 こう語るのは、当のFラン大学で講師を務めるD先生。意外な実情を話してくれた。

「例えばある程度以上のランクの大学卒業生は、その大学を卒業『するからには』ということを意識してエントリーシートを出していくため、そもそも過当な競争の中で『お祈りメール100通』といった事態が起きてくる。専門性の高い学部の卒業生についても、選択する職種の幅が狭いためにそうなりがちです。ですが、例えば入学時の偏差値が40付近といった最底辺の大学でも、福祉系の短大なら介護系求人などが充実しています。一方で、国際○○学部、総合○○学部といった何の専門性があるのか分からない学部の生徒については、在学時代の専攻とはまったく無関係な就職先に入っていく傾向がある」

 そもそも就職先を選り好みしないFラン大学生は、意外にも逞しく生きているようだ。

 では実際にFラン大学卒業生の声を聞いてみた。2年前に東京郊外の某大学・総合情報学部を卒業したJ君は「同級生で就職浪人は一人もいなかった」と言う。

「在学中は、学校内でエロゲーやり放題だし、ほぼ全員ネットジャンキーでパラダイスでしたけど、就職先は見事にバラバラですね。おそらく最強の勝ち組は、警察官になった奴かな。安定してますしね。本丸の情報通信系に行った奴はいわゆるITドカタ(底辺SE)になれた人間はまだ優秀で、僕なんかは同じ情報系でもネット通販の会社で、メールの送受信をするだけの簡単なお仕事と、あとはひたすら梱包発送のお仕事」

 その他の同級生の就職先は、携帯電話会社の販売、サポセン、システム系の子会社孫会社あたりが情報系では多く、あとは居酒屋から不動産、電気工事屋、介護、工場内軽作業などざまざまだ。

「とにかく学校でやったこととはほとんど関係ないところに就職している奴が大半です。親が金持ちの奴はニート化しているけど、それはほんの一部でみんな働いている。フェイスブック情報によれば……ですけどね。だいたいみんな、月収は手取り15万円程度じゃないかな? この間、同窓生の何人かでサバゲー行ったとき、月収18万円宣言した奴がいて、周りのみんなが『殺していいですか』みたいな感じだったし」

先生のコネでパチンコ屋に就職

 一方で、別の某Fラン大学(同じく東京郊外)の建築科を卒業したT君の就職先は、産廃業者(建築解体)。卒業後に二の腕周りが4センチ太くなった。

「俺の知っている限り、卒業生は全員『現場職』ですよ。うちは建築科と機械科と電気科があるけど、卒業生集めたら家が一軒建ちますね。建築科はリフォーム、塗装、縁があるやつは大工、あと俺のように解体。電気の奴らは電気工事、機械科はなぜかパチンコ屋になった奴が多いです。ちなみにパチンコ屋は先生のコネですね」

 言わば以前の中卒・高卒者を雇用してきた業界が、Fラン大学生の有力な就職先になっているということか? 同様のことは、都内の某Fラン大学の文系学部でも言えるようだ。女子卒業生のHさんは現在、美容エステの営業職に就いている。

「学校がある場所(繁華街)の問題かもしれないですけど、卒業生の男子は飛び込みとかテレアポ営業がやたら多くて、キャバのボーイとかホストになった奴も数名。どうやら詐欺とかやってんじゃないってヤバ目の男もちらほら……。女子はまあ、ショップ店員、事務、エステ系とかネイル系、あとお水とか、芸能スクール通いながら風俗とかですかね。アホすぎますね。大学出てなにやってんのって話だけど、在学中からの仕事引きずってそのままの子が多いですし、特に文系Fランの女子は見た目チャラくても半分は中身メンヘラか中二病だから、他に就職できないですよ。地方出身で地元戻った子が一番悲惨で、この間仲良かった子からライン来て、月収13万円でライン工やってるって言ってた。可愛いんだから東京戻って来てお水でもやれって言っといた」

“Fラン”と割り切れる学生は強い

 基本的に、非常に低所得。だが就職に挫折したり、昨今の『就活に挫折し続けてうつ病に』といった悲壮感は、いまいち感じない。前出D先生は、その理由を「Fランの割り切り」と言う。

「Fランとバカにされますが、 彼らはしたたかで逞しいです。その理由は、第一に彼らの親に経済的な余裕がないから。実際に就活相談を受けても、常に出る言葉が『親のこととか考えると遊んでられない』という言葉で、学費や大学在学中の生活費を『親からの借金』と捉えて卒業後に『返済していく』という意識の学生もこの5年ほどで一気に増えた感覚があります。以前の高卒就職先がFラン大学にシフトしているというご指摘はその通りで、彼らは就職先に選り好みをしないし、在学中もよく働くし、一昔前の『大学生のモラトリアム』は、いまのFラン大学生には当てはまらない。確かに信じられないほどバカですが、働かなければ生きて行けないという感覚が非常に高い彼らは、ある意味高偏差値の大学に通う学生よりも『目覚めている』って印象を受けるんですよ」

 大学に進学している時点で、たとえ親が低所得でも、卒業後すぐに親に金を返していかなければならなくても、本人に学力がなくても、少なくとも「家族の縁」が断絶しているわけではない。貧困というものが単に無職や低所得に加えて、様々な縁を絶たれて孤独であるために「そこから抜け出せない」ことを意味するのなら、彼らはこの格差社会の中で生き抜くことに目覚めたニュータイプなのかもしれない。

鈴木大介「犯罪をする側の論理」をテーマに、裏社会・触法少年少女らの生きる現場を中心に取材活動をつづけるルポライター。著作に、福祉の届かない現代日 本の最底辺の少年少女や家庭像を描いた『家のない少女たち』(宝島社)『出会い系のシングルマザーたち』(朝日新聞出版)、『家のない少年たち』(大田出版)『最貧困女子』(幻冬舎)などがある

関連商品