「女性」を描き続けてきた30年間――唯川恵さんインタビュー(1)

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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第65回の今回は、短編集『逢魔』(新潮社/刊)で初の時代小説に挑戦した唯川恵さんです。恋愛小説の名手として知られる唯川さんですが、本作は“恋愛×官能×時代物”。「牡丹燈籠」「番町皿屋敷」「源氏物語」など日本の古典文学作品をベースに艶やかな言葉でつづられる官能的な物語世界に、思わず引き込まれてしまうはず。身分違いの恋や、魔との邂逅などを描いた8編の作品が収録されています。
 今回は唯川さんに本作『逢魔』の内容を中心に、恋愛について、作家活動についてお話をうかがいました。
(新刊JP編集部/金井元貴)

■ 「女性」を描き続けてきた30年間

―― まずはデビュー30周年、おめでとうごうざいます。30年間の作家活動の中で、どのような変化を感じてきましたか?

唯川恵さん(以下敬称略):ありがとうございます。小説を書くということは変わらないけれど、例えば原稿用紙に手で書いていたのがワープロになり、さらにパソコンになりという手段の変化はありましたね。また、原稿を送る手段もFAXになり、メールになりという風に変わってきました。

―― 小説のテーマとしてはいかがでしょうか。

唯川:駆け出しの頃に、いろいろな女性を書きたいと考えていたのですが、それは30年間変わっていませんね。テーマというほどの使命感を持っているわけではないのですが。
私はよく恋愛小説の書き手だと紹介されることが多くて、それは大変ありがたいことです。でも、女性を描くという上で、生きていれば、恋愛だけではなくていろいろなことが起こりますよね。仕事もあるし、家族のこともある。友人との葛藤もあるはずです。もちろん人生において、恋愛は大きな要素ではあるけれど、それを含めた女性の生き方を描きたいというのがあったんです。

―― 本作『逢魔』は、日本の古典作品をベースに唯川さんがアレンジを加えた短編集です。昔の日本の言葉遣いの鮮やかさが映える文体ですが、まずタイトルの『逢魔』という言葉がとても官能的です。

唯川:最初の短編を書き始めたときから全編通したタイトルを考えていたのですが、なかなか決まらなかったんです。それで、「ろくろ首」をモチーフにした『悪魔の甘き唇』という短編の一行目に「男が現れたのは逢魔が時である」という言葉が出てきて、「あ、『逢魔』っていいな」と思ったんです。物語すべてに共通するのは、「魔と出会う」ことですし。

―― 「逢魔」は夜になる瞬間という意味ですね。

唯川:時間的な意味合いももちろんあるし、人間の世界ではない、なにか異形の世界に足を踏み入れるような意味だったり、もしくは人生の日の当たらない部分をのぞきみるような、そんな感じもします。

―― 装丁は桃色を基調に魅力的な装画が載っています。

唯川:これは「怪猫伝」をモチーフにした『漆黒の闇は報いる』を書いたときに、画家の新井由木子さんの描いていただいた挿絵なんです。とっても素敵だったので、そのときから単行本にするときには、ぜひ装丁にこの絵を使いたいとお願いしていました。

―― 『逢魔』は唯川さんにとって初めての時代小説となるそうですが、どうして時代小説を選んだのでしょうか。

唯川:一つ大きな理由としてあるのが、現代の恋愛小説を書くことに息苦しさを感じていたところがあります。現代の女性を描くとしても、その人を取り巻く環境や状況がとても複雑になっていて、それを無視することができません。例えば若い女性を主役に据えた場合、例えば就職難であったり、貧困であったりというのも一つ大きな要素として出てきます。どうしても恋愛に主軸を置きにくくなるというか、窮屈になってしまうんです。思いきり男女の恋愛を書くというのが難しい。また、若手の作家たちの小説を読んでいると、かなわないなと思うところもある。そんなことを編集者さんたちと話している中で、「時代物を書いてみたらいかがですか?」と言われて。

―― 新しいジャンルに挑戦することに、気負いはないのですか?

唯川:それはなかったですね。むしろ楽しかったですよ。時代物を書くときは、たくさんのことを調べるんですね。その時代ではどういうものを食べていて、時間感覚はどうで、どういうお店があったのか。そういった調べる経験はあまりなくて、初めてすることが多かったのですが、調べて理解して書くって難しいことではないんだなと思いました。

(中編に続く)