殿堂入りの表彰を受けるアギーレ。母国メキシコでの評価は揺るぎない。 (C) Getty Images

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 ハビエル・アギーレの解任劇は、母国メキシコでも大きな衝撃をもって伝えられた。
 
 ベスト8敗退に終わったアジアカップの残念な結果は無関係ではないだろうが、解任の直接の引き金となったのはサラゴサでの監督時代に巻き込まれた八百長疑惑である。
 
 長く監督を務めてきたアギーレは、過去にその采配を批判された経験はあっても、今回のようにピッチ外の問題で職を解かれたことはない。メキシコを代表する名将は、名誉を著しく傷つけられる結果となった。
 
 今回の解任劇を受け、メキシコでは2つの議論が起こった。
 
 ひとつは、アギーレの監督生命はこれで断たれたのかという議論。すなわち、八百長疑惑にまみれた監督を、今後雇おうとするクラブが現われるのだろうかという懐疑論だ。
 
 もうひとつは、八百長疑惑が原因で解任された事実が、栄光に満ちた彼のキャリアに永遠に影を落とすかという議論だ。
 
 国際レベルで考えれば、どちらもマイナスの影響は避けられないだろう。しかしながら、メキシコ国内に限れば、今回の一件がアギーレに決定的なダメージを与えることはないはずだ。多少のイメージの低下はあるにせよ、失意のアギーレにとって母国メキシコは癒しを与えるオアシスとなるだろう。
 
 メキシコ国内では、アギーレの監督としての評価は揺るぎない。私が勤める『ESPN』が昨年10月、「メキシコ・サッカーの歴史でもっとも優れた監督は誰か?」というアンケートを実施した。その結果、アギーレは2位にランクインしたのだ。
 
 二度目のメキシコ代表監督として臨んだ2010年の南アフリカ・ワールドカップで、国民の期待を裏切るベスト16敗退に終わり、その采配が議論の的になったのはそれほど遠い過去の話ではない。
 
 あるいは、その8年前の日韓ワールドカップ後はさらに激しいバッシングに晒された。メキシコ人が格下と見なす隣国アメリカに敗れ、ベスト16敗退を余儀なくされたからだ。
 
 にもかかわらず、アギーレはリカルド・ラ・ボルペに次ぐ評価を受けたのである。
[編集部・注/ラ・ボルペは元アルゼンチン代表GK。現役の晩年を過ごしたメキシコで指導者となり、同国のビッグクラブの監督を歴任。02年から06年まで率いたメキシコ代表では06年ドイツW杯で16強に]
 メキシコのサッカー関係者もアギーレを依然高く評価している。クラブ・アメリカも、グアダラハラも、クルス・アスルも、いつでも喜んでアギーレを監督として迎え入れるだろう。現職の監督をクビにしてまでも、だ。
 
 パチューカとクラブ・レオンの両クラブを保有するパチューカ・グループとアギーレは良好な関係を築いており、この2クラブは有力な新天地候補だ。
 
 メキシコ国内でのアギーレのステータスを絶対的にしたのが、昨年11月のサッカー殿堂入りだ。引退後ではなく、56歳の現役監督として殿堂入りを果たしたのは異例であり、文字通りの快挙だった。
 
 異例の殿堂入りに異を唱える声は皆無で、むしろアギーレという優秀な監督が異国の代表チームを率いている現状を嘆き、一刻も早い母国帰還を願う声が圧倒的だった。
 
 日本代表監督という仕事は、アギーレにとって大きな挑戦だった。そのポストを志半ばで離れなければならなかったのは、本人には痛恨の極みだろう。解任で負った傷は永遠に消えることはないし、メキシコの国家イメージを傷つけたかもしれない。
 
 しかし、メキシコ国民の見方はそうではない。現状にあぐらをかかず、つねに新たなチャレンジに向かうアギーレを称賛する声は後を絶たない。失敗を恐れないチャレンジ精神を称える国民性が根底にあるからだ。
 
 国外で成功を重ね、実績を残してきたアギーレはメキシコ国民にとって英雄なのだ。国民は決して母国の英雄を見捨てたりはしない。
 
 残念ながら、アギーレが国際的に名誉を挽回するには困難を極めるだろう。国外での挑戦は不本意にも終わりを告げた。これからは、崇拝を受ける母国メキシコに戻り、何らかの形でサッカーに携わっていくことになるはずだ。
 
文:アルマンド・ネリア
翻訳:下村正幸