日本で仕事ができたことはとても幸せでした。日本のサポーターの皆様の応援に感謝しています。日本代表チームの将来に幸運を祈っていますーーとは、プレスリリースの最後に記されていたアギーレの言葉だ。

 わだかまりはないように見える。八百長という人聞きが悪い騒動。その末の解任劇を連想させない、なんとも穏やかな文面だが、形式的というか、リアリティを感じないというか、とってつけたような印象が残ることも確か。

 契約期間内での解任には通常、巨額な違約金が発生する。だが、大仁会長は「内容は守秘義務があるため申し上げられない」と、断りつつも「違約金という形のものはない」と述べ、円満解決を強調した。

 本当のところはどうなのか。これが、綺麗事に聞こえたのは、僕だけではないはずだ。

 告発が受理されたーーとは、捜査を初めても構わないという合図に過ぎない。そのために召還されることが、代表監督の仕事に支障をきたすほど頻繁になれば問題だが、その可能性がどれほどか、いまは全く見えない状態だ。

「6月にW杯予選が控えているので」という、大仁会長の理屈は、一見もっともらしく聞こえる。しかし、それはあくまでも第一ラウンドに過ぎない。対戦相手は、監督抜きで戦っても敗れる心配のない弱者。代行監督で十分用が足りる。解任を急ぐ理由にはならない。少し冷静になれば、このくらいの話は誰にだって分かる。しかし、大仁会長のみならずメディアも一緒になって、しきりに慌てようとする。

 代表チームの周期は4年。その半年、つまり、8分の1が終了したに過ぎない段階で、早くも慌てるフリをする。もっともらしい言い回しで大変だ大変だと緊急事態を煽ろうとする。4年周期の代表文化に慣れていないファンや国民を扇動しようとする。

 スペインでは、アギーレと同じような立場にある選手たちは、いま普段と変わらずプレイしている。特段、それが問題視されているわけでもない。八百長問題を取り巻く日本のこの騒ぎは、世間体を極度に気にする日本人独得の気質に起因している。そういって言い。アギーレはさぞ面食らっているだろう。カルチャーギャップに襲われているはずなのだ。

 ポータルサイトのトピックス上位には、冒頭で紹介したアギーレの「とても幸せでした」なるコメントを見出しにした記事が掲載されていたが、僕にはそれが、美しい話には聞こえなかった。臭いものに蓋をしたがる事なかれ主義。嫌な日本の一面を見てしまったような、苦い気持ちになった。

「その手腕を高く評価している。世界のトップレベルの監督だと確信している」大仁会長の声明文には、そう記されていた。捨てがたい人物だが、残念ながら、解任せざるを得ない。そのような内容の文面だった。

 これが本当なら、せめて休養、休職に留めておくべきだろう。しばらく代理監督で様子を見る。推移を見守ることが、ベストな選択ではないのか。

 アギーレは確かに、アジアカップでミスをした。4試合を同じ先発メンバーで戦ってしまった。ベテランを多く復帰させたことも問題だった。将来を考えず、テストを忘れ、目先の勝利を欲しがったにもかかわらずベスト8に終わったその敗れ方の悪さは、大いに責められるべきだと思う。

 だが、就任したのはわずか半年前。情状酌量の余地もある。4年契約の監督を、そのわずか8分の1が経過した段階で解任したくなるほど酷いものではなかった。目を凝らすべきは、アジアカップ後の采配。最低2年間は見守りたい。そうした気にさせる監督だった。悪くはない。10段階評価で7をつけたくなるほどだ。

 いまこの瞬間、アギーレ以上の監督を見つけ出すことは簡単な作業ではない。僕はそう思う。休養、休職に留め、代理監督で様子を見る。捜査の推移を見守る。それと並行して、アギーレ以上の監督を探す必要もある。クロを確信すれば、その時点で解任すればいいし、良い監督候補が見つかれば、諸々を天秤に掛けて考えればいい。柔軟な対応こそが必要だった。