順天堂大学大学院環境医学研究所長で、かゆみの最新研究を行っている高森建二教授(同大学浦安病院皮膚科)は「かゆみの謎は重大な病気のサインになる」と語る。
 かゆみを引き起こす主な原因は、肥満細胞から分泌される「ヒスタミン」というかゆみを引き起こす化合物。これが皮膚の中にあるかゆみを感じる神経に結合するとかゆくなる。
 代表的な病に、じんましんがあり、見た目も赤く腫れるなどの異変が起こるが、市販の抗ヒスタミン成分配合薬を飲めばほとんどが治るとされる。しかし、それでも治まらないかゆみがある。これらのことを、専門医は“難治性のかゆみ”と呼んでいる。主に皮膚の乾燥によって生じるが、保湿剤をいくら塗っても効かない場合は、重大病を疑わなくてはならない。
 体内に生じた病気の影響で皮膚が乾燥して起こるかゆみが危ないのだ。

 「内臓疾患に伴う皮膚症状で全身のかゆみが続く場合は、糖尿病や甲状腺疾患、原発性胆汁肝硬変などの病気が考えられ、それを念頭に治療を進める必要があります」
 と言うのは、東京都多摩総合医療センターの皮膚科担当医。
 さらに、かゆみの出現が頻繁に起こる疾患としては、慢性腎不全や閉塞性胆道疾患もあり、いわば「かゆみに隠れた内臓疾患」という見方ができるという。

 このように、かゆみの発症で疑われる病気はいくつもある。中でも多く見られる腎不全や尿毒素症の場合は、「オピオイド」と呼ばれる体内物質のバランスが崩れ、かゆみを引き起こす。
 人工透析でも強いかゆみが続き、長年、多くの患者が耐えられないほどのかゆみに悩まされていた。しかし近年になって、かゆみを起こすオピオイドを抑える薬が開発され、多くの患者がかゆみから解放されているという。
 また、肝硬変や肝臓を患うことで併発する原発性胆汁性肝硬変は、胆汁中のピルビン成分が全身に回り、激しいかゆみを生じさせる。しかし、こちらも現在では「オピオイドの発見により、今ではナルフラフィン(カッパオピオイド受容体作動薬)の効用も確認されている」(専門医)という。

 また、東京社会医療研究所の村上剛主任は「胃、肺、腎臓、膵臓などのがんも、かゆみの原因になる」として、次のように語る。
 「まだはっきりしたメカニズムはわかっていないが、がん細胞が、かゆみを起こす何らかの物質を生むと考えられています。がんを摘出したら、かゆみが治まったという報告もある。難治性のかゆみと診断されたら、内臓悪性腫瘍のチェックも重要となります」
 こうした重大病から生じるかゆみの特徴は“皮膚の中から湧いてくるような感覚がある”という。

 本来、人の肌表面の角質は、角質細胞が細胞間脂質(セラミド)や天然保湿因子によってぴったりと重なり合い、体内の水分を保ち、ダニ、花粉といった異物の侵入を防ぐバリアの働きをしている。
 「ところが、重大病によって重度の乾燥肌になると、角質細胞がバラバラになり、干ばつ時の田んぼのようにひび割れて水分が蒸発し、割れ目から大量の異物が侵入します。これが神経を刺激して湧き出るようなかゆみを引き起こすのです」(専門医)