ドラマ『ゴーストライター』で文壇の女王・遠野リサを演じる中谷美紀。(写真は、中谷美紀ファーストアルバム『食物連鎖』。プロデュースは坂本龍一)

写真拡大

若い編集者の小田、駆け寄る。
「神崎編集長、この原稿読んでいただけませんか。まだ作家でもなんでもない人の原稿なんですけど」
神崎編集長、原稿を受け取るが。
「これをどうする?」
「本にしたいです」
(すかさず)「初版何部だ」
「……3000部」
「200万円の赤字だな」
火曜9時ドラマ『ゴーストライター』(フジテレビ系列)のワンシーンだ。

「わかってます。でも一度だけ自分の作りたい本を作るチャンスをください。お願いします」
頭を下げる。
「まだわからないのか。本なんて売れないんだよ」
神崎編集長、机の上の本を取り、投げる。
「これも」
もう一冊つかみ投げる。
「これも」
投げる。
「これも、これも、これも」
数冊を鷲掴みにして投げる。ばっさああっ。
「これも。ぜんぶ赤字だ」
このへんでドラマを見ていた出版関係者、シビアな現実描写に涙目である。
だが、まだまだ。
神崎編集長、おいうちをかける。

「すべての赤字を(遠野リサの本を持って)この一冊の本で回収している」
小田、たじろぐ。
「これが出版界の現実だ。欲しいのはいい本じゃない。売れる本。確実に金になる本だ」
「金になれば何でだっていいんですかッ」
「その通りだ。おれやおまえの給料もそこから出ている」

ぎゃーーーーー!
出版関係者の間で、いま「マジすぎてヤバイ」と話題のドラマ『ゴーストライター』。

出版社が舞台だったり、作家やライターが登場人物のドラマは、いままでも、あった。
あったが、それは、ファンタジーというか、夢やあこがれの職業としての作家であり、出版社であったではないか。
なのに、『ゴーストライター』!
ほんとのことだけど、そこ、言っちゃダメでしょ!ってなシーン続出。

文壇の女王と呼ばれ、次々とヒットを飛ばす遠野リサを演じるのは、中谷美紀。
小説家への夢が捨てきれず上京し遠野リサのアシスタントになる川原由樹を演じるのは、水川あさみ。
持ち込み原稿を読み川原由樹の才能を見いだした若手編集者小田は、編集長に「本を出させてくれ」と願い出る。
このときの神崎編集長のセリフの非情さに、作家やライターの人は泣いたにちがいない。
これは、わりとマジな現実だ。
でも、ドラマのなかで、(しかも、本を次々と放り投げながら)言わなくてもいいじゃないか。
ぼろぼろじゃないか。投げ捨てられた本のなかに俺の本があるじゃないか(妄想)。

第二話。
遠野リサは、行き詰まりを感じていて、プレッシャーや期待の大きさに潰されそうになって、書けなくなっている。
そして、とうとう原稿を落とす。
別の出版社も、万が一に備えはじめる。
「穴埋め考えとけ」
「いや、急に言われても……」
「頭を下げたら書いてくれる作家のひとりやふたりキープしていないのかッ」
「いやあ」
「連載小説の雑誌なんて全部売り切っても赤字だ。なのになんでわざわざどこの出版社も作っている?」
副編集長、いらだちで机を叩く。
「原稿料を払って作家を囲い込むためだ。この部署は、原稿書いてもらうために作家と仲良くなるのが仕事。わかってんだろ」
「いや、これでも、毎日仲良くやっています。今朝だって朝まで麻雀やって、今夜だって」

ぎゃあああー。
全部売り切っても赤字だ赤字だ赤字だ赤字だ赤字だ(永遠に続くエコー)。
作家を囲い込むためだ囲い込むためだ囲い込むためだ(永遠に続くエコー)。

遠野リサは、川原由樹にプロット案を出させる。
「小説を書きたい」と言っている若手を育成する気持ちも少しはあったのだろう。
だが、ずぶずぶと川原由樹が代わりに書くことになっていく。
川原由樹がゴーストライターになっていく過程がじわりじわりと描かれる。
ゆっくりと共犯関係の地獄に落ちていく。

新人賞を取った作家も登場する。

「いまはただ小説を書いていられれば、よくて。賞金500万円いただいて、3年は何もしなくても生活できますし」
驚く編集者。
「え、会社は?」
「辞めました」
編集者、絶句。
「……マジか」
「あ、だ、だめですか」
「だめですよ」
語気を強めて。
「どうして相談してくれなかったんですか」
「え?」
編集者、頭を抱える。
「はぁ」

売れっこ、憧れの生活、セレブって感じなのは、遠野リサだけだ。
綺麗な海の見える仕事場。高級レストランで食事。暖炉まである仕事部屋。秘書、そしてアシスタント。

結婚のために書くことを辞めると言いだした川原由樹との駆け引きがはじまる。
遠野リサは、彼女の婚約者に言うのだ。
「わかってることはひとつだけある。彼女はいま書くことが楽しくてしょうがないはずよ」

第三話。
とうとうプロットだけではなく小説も、ゴーストとして川原由樹が書くようになる。
力関係がじょじょに変わってくる。
「わたしを育ててるんじゃなくて利用してるんじゃないですか」と詰め寄る川原由樹。
笑う遠野リサ。

「利用してるのあなたのほうでしょ。わたしの小説を書くことと引き換えに出版させろだなんて」
「引き換えだなんて」
「初版3000部ですってね。
それがどういうことだかわかる?
全国に書店は一万五千。つまり五軒に一冊。
もちろん平積みじゃなくて本棚の片隅よ。
あなたの本を手に取る人なんていない。
あなたの文章でもわたしの名前で出版すれば初版二十万部。
誰もが目につく場所に平積みされる。
不公平だと思う?
わたしは十五年かけてここまで来たのよ」
ぐいっと顔を近づけて。
「いい? 遠野リサの代わりは誰もいない。でも、川原由樹の代わりは?……いくらでもいる」

遠野リサの家族関係がどうなるかも目が離せない。
息子は、放っておかれたことを恨んでいる。
母親は認知症で、娘が誰なのかもわからない。
母娘のシーンになって、中谷美紀と江波杏子のふたりが画面を占めると、まあ、なんて綺麗。
親が子を縛り、子が親に囚われてしまう、このあたりがメインの展開にどう絡んでくるかも見どころだろう。

そしていよいよ2月3日火曜日よる9時『ゴーストライター』、第四話。
書けなくなった文壇の女王と、書く才能を開花させた何も持っていない女のギリギリ保たれていた均衡が、(おそらく)いよいよ崩壊しはじめる。
なにしろ予告編で、女王遠野リサが土下座で「お願い…します。原稿を……ください」と川原由樹に言っておるのだ。
某編集部でははやくも、「お願い…します。原稿を……ください」が流行語になっていると聞いた。
ぎゃーーーと悲鳴を上げながら見るがよいぞ、出版関係者たちよ。(米光一成)