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●「なんでこの道はこんなに回り道しているんだろう?」道路にはいろいろ謎が多い一冊まるごと「国道」について書かれた新書があると聞いたら、驚くだろうか。『ふしぎな国道』は、国道マニアであるサイエンスライターの佐藤健太郎氏が、国道のおもしろさと国道マニアの世界を紹介している1冊だ。

新書とは文庫本よりも少し大きな新書版(173mm×108mm)の判型をした本のことで、教養やハウツーなどのノンフィクションを主に扱っている。入門的に読みやすいことに加え、ハードカバーの単行本などに比べると持ち運びもしやすく、未知の分野でも通勤時間や昼休みなどを使って気軽に読み進めることができる。そんな新書の棚でひときわ目を引いたタイトルの『ふしぎな国道』。新書とともに電子書籍版も販売されている本書に魅力について、今回は著者の佐藤健太郎氏にうかがった。

○最初は科学の本を書く予定だった

――そもそも、なぜ国道の本を書かれたのでしょうか。

本当に国道が好きだったんです。例えば"鉄道マニア"は、ジャンルが確立していてファンも多いですよね。それに隠れて実は道路趣味の人も一定数いて、いろいろなジャンルがあるんですよ。実際に国道を最初から最後まで走ってみる「国道完走」趣味の人もいますし、歴史研究に打ち込む人もいます。最大派閥は、国道らしからぬ細くて荒れた道、"酷道"を走るというジャンルで、mixiのコミュニティは1万人を超えています。それに最近は、廃道を探検するカリスマみたいな方がいて、廃道も一大ジャンルになりつつあります。僕は酷道も行きますけれども、かつて国道であった道、「旧道」の経路を探るのも好きですね。

――どうして国道に興味を持たれたんですか。

ドライブが好きというのが大きなところです。それから説明が難しいのですが「数字が1から順番についているもの」に惹かれるというのもあります。僕の本業は化学の分野ですが、周期表を1から順に記憶していたり、プロ野球選手の背番号だけやたら覚えていたり。数字が並んでいるものが好きだから、道路の中でも高速道路や林道にはあまり興味がないのかもしれません。(番号がついている)国道を全部見たくなる、マニアックなところがあるんです。

道路も探っていくと結構謎があるんですよ。たとえば、国道には欠番があり59〜100号が抜けています。地図を見ながら、「なんでこの道はこんなに回り道しているんだろう?」と考えるだけでも楽しくなります。この近所を通っている「国道294号」という道は、見た目上は茨城県の取手市で終わっていますが、法律上は「国道6号」と重複して千葉県の柏市まで走っています。この重複区間が何のためにあるのかよくわからない。道路にはいろいろ謎が多いので、それを探っていくとついついおもしろくなってしまいます。

――あとがきで、「最初は科学の本を書いてほしいと言われていたのが国道の本になった」というエピソードがありましたね。

「こういう本を書いてくれ」といろいろな出版社の方が来られますが、その時に「サイエンスも良いんですけど、実は国道という趣味もあって……」といつも話していました。でも、「ああそうですか、おもしろいですね。で、本題ですけど」という感じでスルーされて(笑)。今回、講談社の方が国道でいってみようかと思われて、それで執筆にいたりました。

――国道の本を書きたいという思いはもともとあったのですね。

そうですね。今までに国道の本もいくつか出版されていて、例えば酷道専門の本はあります。でも、国道趣味全体を網羅するような本はなく、自分ならおもしろおかしく書けるのではないか、と思っていました。

――国道のおもしろさはあまり知らなかったのですが、読んでいて国道マニアの姿が見えてきました。『ふしぎな国道』は、マニアの視点から一般読者に紹介する構成になっていると感じたのですが、そのあたりはいかがでしょう。

僕の本業であるサイエンスの本での「知られていない世界のことを伝えていく」というノウハウが役に立ったのかもしれません。例えば、「階段国道」(※青森県にある階段の国道)というのは、マニアの人にとっては今さら聞くまでもない、聞き飽きた場所ですが、それを知らない人はたくさんいます。マニアの世界の本ですが、マニアックに走り過ぎないよう、読者との距離感をはかりつつ、興味を持ってもらえるよう心がけていました。自分自身のマニアとしての姿と、マニアを外から見た感じの視点を考えながら書きましたね。

○「なんでこんな国道があるの」から紐解く内容に

――『ふしぎな国道』を執筆するにあたり、構成やレイアウトなど工夫した点はありますか?

本来なら国道の歴史から書くべきかもしれませんが、読者が頭からそれを読むのはつらいだろうということで、まずは導入をわかりやすく、「階段国道」の話など興味をひきやすいところから始めています。それらの話で引っ張り込みつつ、歴史に触れるという流れにして、最後は道路標識グッズなど、ちょっとアホなこともやっています。この流れは、編集者さんと話し合って決めました。

●良い本の定義は「本を読んだ後に世界の見方が変わる」こと――特に写真が充実していますよね。

なるべく写真を多く入れようということで、カラー写真も入れてぜいたくに仕上げていますね。ビジュアルについては、自分の地元の写真があると、「なるほど、この道はこういうのだったんだ」という親しみを持ってもらえる、というのもありました。

――話の中で地元の国道が出てくると身近に感じられました。

帯の絵も「国道246号線」の標識にしましたが、別バージョンとして「1号線」「2号線」「4号線」も作ってもらいました。東北地区の書店には「4号線」の表紙の本を置くなど、地区によって地元の番号を全面に押し出しています。

――確かに東京の人が「246」って聞くと、「ああ、246ね」と思いますね。

関西の人に「246」って言うと、「それどこ?」となったりもするんですけどね。帯の番号を何号にするかは散々迷って、3桁の方が見栄えがする。で、3桁国道で一番メジャーなのは「246」かなと。地元である茨城の友達には、「なんでカッコつけて246なんだ」「6号にしろ」とかいろいろ言われましたが(笑)。

――タイトルも目に止まりやすいです。

これはずいぶん悩みました。最初は『国道入門』というタイトルを考えてました。シュールでいいかなと思ったんですが、目に止まりにくいかもということでボツ。他に、『国道党宣言』とかも考えたんですけど、「変な思想の本と思われるから絶対やめてください」と言われて却下されました(笑)。最後『ふしぎな国道』に決まったのは、『ふしぎなキリスト教』という本が講談社新書にあって、それとの連想で出てきました。もちろん内容は全く関係ありませんが。この本については、タイトルもありますが、表紙(帯)が良かったのかなという気はします。書店で平積みにしてあると、すごく目を引く表紙かと思います。

○鉄道に乗らない人はいても、道路を使わない人はいない

――『ふしぎな国道』出版後、読者の反応はいかがでしょうか。

読者の方におもしろく読んでいただいているようで、それはうれしいことですね。非常に読書量の多い書評家の方にも、早い段階で絶賛をいただきました。彼らはたいていのことは読んで知っていますから、こういう全く知らない変なジャンルというのは新鮮だったのかもしれません。

良い本の定義は、「本を読んだ後に世界の見方が変わる」ことだと僕は思っています。この本は、そういう視点が届けられたのかもしれません。道路というのは、普通はただの手段でしかないけど、マニアにとっては目的です。このように、視点をぐっと変えてもらえたということですね。

――手段が目的になっているんですね。

国道マニアの合言葉で「手段のためなら目的を選ばない」という言葉があります。道を走るという手段のためなら、目的は別に何でもいいから走ってみたいという人達が確かにいて。家族をドライブに連れて行くと称して国道を走るということができるので、趣味としては有意義――かと思っているんですけど(笑)。ちょっと気をつけて見ているだけでも、「ここにこの道ができている」とか発見がありますから。

○新書は表紙を見ているだけでも情報が得られる

――今回のインタビューでは新書の魅力についてもお聞きしたいのですが、著者として、ずばり新書についてどう考えておられますか?

著者としては、正直つらいですね(笑)。こんなにがんばって書いたのに、一冊あたり数十円の収入か、と。しかし裏を返せば、買う方にとっては大変にありがたいということでもあります。僕も本を書く時に、新書を資料として読むことがあるのですが、よくできた本なら一冊で知らないジャンルについて概観できます。700〜800円で1ジャンル知ることができるという意味では、これほどありがたいものはありません。もちろん深い情報への入口としても、すごく役に立ちます。

本屋に行った時は新書の棚に行き、タイトル見ないでスッと一冊抜いてみるんです。そして読んでみると「ああ、こういう世界があったんだ」と思うこともあるので、ランダムに新書を眺めてみるだけでもおもしろいですよ。

『ふしぎな国道』もそうですが、書く立場としては、専門家でない人にもジャンルを概観し、かつある程度踏み込んで知っていただけるように意識しています。専門家やマニアでも「ほう」と思ってもらえる部分があるよう、初心者にもスムーズに頭に入ってくるよう、さじ加減に最も気を使います。

――新書で国道の本はメジャーな分野ではないですよね。書くときにそこは意識されましたか?

国道の本も2冊くらいはあるのですが、一般の方は国道について全く知らないでしょう。そういう方たちに届けるためには、どうしたら良いかを考えました。カラー写真も入れたのは、編集者さんの意見です。単価は高くなりますが、そのほうがよいだろうと。

――知られていないノウハウを伝えるサイエンス系の本の経験が生かされているというお話がありましたが、新書でもそれは同様ですか。

生かされたと思います。僕がブログを書き始めたときは、読者を大学1年生くらいに想定して書いていたのですが、絞ったのが良かったと思うんです。理系の大学1年生くらいに向けて書くと、がんばれば高校生も読めるし、専門の研究者には「そういうこともあるのか」というふうに受け取ってもらえる。そこを狙ったのはあります。ブログだと、以前はブックマークで常連の方もいたんですけど、最近はTwitterとfacebookを通じて見に来る人もいて、ブログのエントリーごとに読者が違いますし、「この話題だったらこういう人が来るんだろうな」と、エントリーごとに考えて書いています。

●道路を利用するすべての人に読んで欲しい――ブログでの反応は実際に本の執筆にも影響していますか。

すごく影響しています。特に、距離の測り方みたいなところでしょうか。世の中には"伝わらない悲劇"がたくさんありますが、伝わらない原因の8割方は相手との距離を測り間違っているだけだと思うんです。相手がどれくらいの意識を持ち、どれくらいのことを知りたいのかというのを測りそこねて伝えてしいまい、とんちんかんなことになるケースがすごく多いだろうと。その距離感を間違えないために、ブログなどで「こういうことを説明しなきゃいけなかったのか」とか、「こういうことを知りたいのか」とかいう、反響を見られたというのはすごく勉強になりました。意外なものがウケたりもしますし。

――新書の内容がおもしろくても、読者になかなか届かないということもあると思うのですが、読者に手にとってもらう方法についてはどうでしょう?

一時期は新書からベストセラーがたくさん出て、それまでなかった芸能人やスポーツ選手の本が新書で出るようになりました。でも最近では、ベストセラーはそこまで出なくなってしまったというのはありますね。

ブログだとリンクを張って、「これに対してこういう反論がある」とか「この人がこういうコメントしている」みたいなのが見られますけれども、本だと1冊読んだだけで終わりになりがちです。でもそうではなく、「こういうものもあるんだよ」、「こういう意見もあるんだよ」とつなげて調べられるようになると良いとは思います。具体的には、書店さんのフェアなどもそうですし、書評のサイトなり、そういうところで1つのジャンルからつながっていくような仕組みが発達するといいですね。

○将来は地図や動画との連動に期待

――電子書籍で読む方も増えてきていると思いますが、著者としては違いを感じますか。

この本だったら、本当なら電子書籍の文章が動画にリンクしたり、地図と連動して「ここにありますよ」と示したりすることができれば良かったですね。道路関係の面白い動画も公開されているので、そちらにリンクしたりということも将来的にできるとよいのですけれど。

――電子書籍と新書の相性は良い部分はありますか。

僕のように資料として読む人間にとっては、場所をとらず検索もしやすい電子書籍は、大変に便利です。論文なども、場所や検索性の問題から今やほとんどPDFで読みますし、今後は専門書もそうなっていくと思います。動画を使いたい分野や、アップデートが必要な専門書には、電子書籍が向くのではないでしょうか。今後は、漫画と専門書の両端から普及が始まっていくのではないかと思っています。

――最後に、改めて『ふしぎな国道』をどのような人たちに読んでもらいたいですか?

道路を使っているすべての人に、です。普段、空気のように思っている道路にも、それぞれの歴史があります。この間、奈良県の住宅街にある細い路地みたいな国道に行ってきました。これは飛鳥時代からある「竹内街道」という道で、日本が国家として初めて管理した、いわば元祖国道でした。

ただ、今はもう誰もそんなこと知らないし、来歴も知らないでみんな利用している。でも知ってみると「ああ、そういういわれがある道なんだ」と、道路の見方が変わります。というわけで、ぜひ道路を利用するすべての方に、「ふしぎな国道」を読んでいただければと思います。そうすると、1億部くらいのベストセラーになりますしね(笑)。

今回うかがった『ふしぎな国道』以外にも、幅広いジャンルの入門書が新書として出版されている。佐藤健太郎氏のように、タイトルを見ないでランダムに新書を選ぶのも1つの手だが、自分の好奇心をそそるようなタイトルから、読みたい本を選ぶのも面白い。

馴染みのない読者には、なかなか手に取り辛い新書だが、特定のジャンルを集めた書店のフェアなど、新書の読書層を広げようとする動きもある。直近では、電子書籍を扱うブックリスタが新書をテーマにしたフェア「BOOKFESTA 2015 winter」を開催しており、今回の『ふしぎな国道』をはじめ、電子書籍で配信中の新書6,800冊の中から、タイトルがユニークな作品をピックアップして紹介している。

今回のインタビューを機に、これまで新書を読んだことがない方も、気になる新書を探してみてはいかがだろうか。雑学をまとめた本から、ビジネスに役立つ本まで、幅広いジャンルの入門書を扱っている新書。普段触れることのできないような、新しいジャンルへの入門書が見つかるかもしれない。

(飯田樹)