なぜトヨタは愚直に“ポテンシャル採用”にこだわるか

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片や小集団型組織で終身雇用。片やフラット型組織で成果主義。どこまでも対極的なトヨタとグーグルだが、共通点が1つある。働く社員たちがみな、仕事への誇りを持っていることだ。

トヨタの主戦場は海外だ。とりわけ北米市場が好調で業績を伸ばしている。一方で、中国市場など新興国市場ではやや苦戦している。トヨタは2015年までに新興国の販売比率を50%に高めることを目指す。長期雇用を前提に現地で活躍できる人材の育成を大方針に掲げるトヨタが求める新卒は“精神的、肉体的にタフ”なポテンシャル人材だ。

宮崎直樹元専務(現豊田合成副社長)は「トヨタは泥臭い会社。入社後に海外や国内の仕入れ先に派遣し、様々な苦労を経験させてグローバルに活躍する人間を育てます。それに耐えうるには単に勉強ができる、語学が堪能というだけのやわな精神の持ち主ではダメ。男性や女性を含めて精神的、肉体的なタフさを持った人を採用したい」と語る。

入社後に事務系、技術系問わずに工場および販売研修を約6カ月実施した後に各部門に配属される。その後は配属先でのOJTや全社研修、あるいは海外研修などを実施し、それぞれの分野のプロフェッショナルとしての腕を磨く。早ければ入社7〜8年目に海外駐在員として赴任するケースもある。

トヨタは海外の拠点に日本人幹部を送り、日本人がコントロールするのではなく、世界の地域ごとに自立して運営することを目指している。そのために現地の自立化をサポートし、現地で活躍できる人材を採用し、育成することを大方針に掲げる。地域のマーケットに通じたプロ、生産や技能のプロを養成し、地域で業務が完結できるようにしていくことが人事部の最大の使命だ。

採用では海外拠点に放り込まれたときに、言葉も違えば文化も違う人たちとチームを組んで一緒にやっていける人かどうかを重視する。具体的な人材要件は2つ。1つは、あえて「困難で高い目標」を自分で掲げ、現場の現実をしっかりと見据えたうえで、地道に、愚直に、やり抜いていける人。もう1つは、他の価値観を尊重し、意見に謙虚に耳を傾け、周囲を巻き込みながら仕事を進めていくことを、グローバルな舞台で実行できる人だ。

トヨタの新卒総合職採用数は例年500人超。エントリーシートや適性検査による書類選考を経て面接に進む。1次面接のグループディスカッションと集団面接を経て、2次の部長クラスの面接が最終選考となる。2次の面接官は、事務系は人事部の部長クラス2人、技術系は人事部の部長と技術系の部長クラスの2人だ。最終面接といっても単なる儀式ではない。技術系の2次面接では研究内容などの専門性もチェックされ、相当数が不合格になるなど最難関だ。

では面接ではどのようにして学生を見極めているのか。宮崎元専務は「学生時代に運動も含めて、あることに一途に取り組んできたとか、様々な経験をした人をできるだけ採るようにしている」と指摘する。

前述した人材要件をベースに学生時代に目指したもの、それをどのように克服してきたのかという視点からその人物を見極めている。一般的に学生時代に達成した結果だけをアピールする学生が多いが、それだけでは不十分だ。採用担当者が重視しているのは、結果に行き着くまでのプロセスであり、どのように工夫して目的を達成したのかを探る。

知識の習得や語学が優れているというだけではない。物事の本質まで掘り下げて考え抜く経験を積んだ学生を求めている。それは技術系も同様だ。研究内容の背景と目的をしっかり確認し、将来どのように研究を生かしていきたいのか、幅広い視点で考えられる学生かどうかを見極める。とくに「研究を進めていくうえで困難な課題にぶつかり、どのように工夫して乗り越えたのか」という苦労話を聞くようにしているという。

トヨタは11年度から先輩社員によるリクルーター活動を復活させた。もちろん、リクルーターが面接・選考することはなく、目的はものづくりを重視するトヨタの特徴を改めて学生に知ってもらうことにある。

(ジャーナリスト 溝上憲文=文 ライヴ・アート=図版作成)