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●フィギュアという商品の特殊性 - 作業工程の高度化とリスク分散は業界全体の課題「グッドスマイルカンパニー」――フィギュアを企画・制作・製造・販売するほか、アニメやゲームの制作、アパレル、レーシングチームの運営など、幅広い事業展開を行っている企業である。

特に同社を代表するフィギュア「ねんどろいど」は、アニメやゲーム、実在の人物に至るまで、あらゆるキャラクターを2.5頭身にデフォルメした手のひらサイズのフィギュアとして、2006年の第一弾商品発売以来、高い人気を誇っている。一部のコアなファン向けだったそれまでのフィギュアを一般層に浸透させたのは、間違いなく同社の功績だろう。

昨年12月には、鳥取県倉吉市に同社として国内初となるフィギュアの製造工場「楽月工場(通称:ラッキーファクトリー)」を新設したことで話題を呼んだ同社だが、なぜこのタイミング、そして鳥取県だったのか。同社代表取締役社長・安藝貴範氏にその理由を語っていただくと共に、フィギュア以外の事業展望についても話を伺った。

――昨年12月に、グッドスマイルカンパニーとして国内初となるフィギュア製造工場が新設されました。まずはその理由と狙いからお聞きできればと思います。

これまでフィギュアの製造はすべて中国で行っていました。ただ、今後を見据えたとき、このまま中国だけで生産を続けていいのかという危機感があったのです。というのも、フィギュアの工程は、事業をスタートした10年前に比べて高度化しているからです。かつては200くらいだった製造工程が、今では1,000や2,000になることも珍しくありません。

一方で、中国では人材の確保が難しくなってきています。特に生産計画を立てたり、ラインを仕切ったりできる中間管理職が不足しているのが現状です。中国には出稼ぎして働く文化があり、人材が流動的。もともと、旧正月になると人ががらりと入れ替わるのですが、最近では情報がすぐに行き渡ることもあり、それ以外の時期でも入れ替わりが激しくなっています。サービス業やレストランで働いた方がオシャレじゃん、という空気もあるし、より条件の良い工場に移るケースも多い。3年目ともなると、もはや超ベテランですよ。一箇所でじっくり働くタイプの人は減っていると感じます。仕事が高度化しているのに人の入れ替わりが激しいとなると、個人のスキルが追いつかなくなってきます。

――そうした事態に、どのように対応されているのでしょう。

トレーニングの時間も短くなりますから、工程数をもっと細かく割って、分業を進めるしかなくなります。そうすると、工程が分断されて、作業ごとの歩留まりが悪くなっていく。例えば2,000工程あるとして、各工程で1%ずつとミスが出るとなると、最終的に膨大な数の不良品が出てしまうわけです。こうしたリスクの増大は弊社に限ったことではなく、フィギュア業界全体に言えること。他のホビーメーカーさんやおもちゃメーカーも、リスク分散の観点から、中国以外の色々な地域に工場を移すケースがあります。フィリピンやベトナム、マレーシアなどですね。そこで弊社としても、中国以外に工場を持つことにしたのです。

昨年12月、鳥取県倉吉市に竣工した国内初となるフィギュア工場「楽月工場(通称:ラッキーファクトリー)」の様子|

――しかし、なぜ国内だったのですか? 他のおもちゃメーカー、ホビーメーカーと同じく、フィリピンやベトナムという選択肢はなかったのでしょうか。

ここはフィギュアの特殊性が関係しています。例えば一般的な玩具であれば、成形して組み立て、塗装してシールを貼って出荷――という風に、作業の内容が比較的シンプルなので、今すぐ別の国に持っていっても大丈夫でしょう。しかし、フィギュアの製造工程は高度化していますし、量産に移る前の金型や塗装治具の開発なども相当に高度ですから、中国での製造工程をそのまま他国に持ち込んでも効率が落ちる可能性があるのです。

また、東南アジアでは中国のような出稼ぎが少なく、基本的にその町の人々が工場に勤めます。そうなると、その町の中で人材の取り合いになりますよね。すでに他業種の工場がある地域だと、安定的に稼働している場合、グッドスマイルカンパニーとして工場を新設しても中国以上に効率化できるとは思えなかったのです。

それから、もちろん為替の問題もあります。これまでは円高に助けられてきましたが、これからは円安に振れる。そういう諸々の事情を鑑みて、一旦は日本でやってみようと考えたのです。おそらく人の習熟度も他国より高いですし、安定的に長く働いていただけるのではないかと期待しています。

――鳥取県倉吉市を選んだ理由は?

当初はいろいろな場所を検討していたのですが、一番熱心に誘致してくださったのが鳥取県でした。鳥取県は"まんが王国"を政策として打ち出していて、カルチャーに対して骨太な対応をしてくれます。また、倉吉市は工場地帯なので、周辺に金型屋さんをはじめとする生産インフラが整っていることも大きいですね。もともと工場で働いていた人が多いので、ポジティブに迎えていただけるのではないかと感じました。

――雇用の促進など、地域活性化につながるのではという期待もあります。

最初からそこまで考えていたわけではないのですが、鳥取や倉吉の方と話していると、そうした期待が大きいことも伝わってきます。弊社としても、ぜひ応えたいという気持ちですね。倉吉市という場所が発展するのは僕たちにとってもハッピーなこと。倉吉は住みやすいし、ご飯は美味しいし、温泉もいっぱいある。若い人たちも快適に暮らせる町だと思います。まだ具体的には決まっていないのでどうなるかわかりませんが、古い木造の円形校舎を美術館にしようとする動きもあって、僕たちにも展示会をやりませんかとお声がけいただいたりしています。アート系を志望している方が移住するのにも良いでしょうね。

●中国で既存の工程を効率化するだけでは、生産技術の"イノベーション"は起きない――そんな中、楽月工場の第一弾商品となる『ねんどろいど 桜ミク Bloomed in Japan』、そして第二弾商品となる『figma 馬(茶)/(白)』が発表となりました。桜ミクは倉吉市の名物である打吹公園だんごを手に持っていますね。今後はこうした地元の名産品などを取り入れて、フィギュアを名産品にしていく流れも考えているのでしょうか。

実はこのお団子、偶然なんですよ(笑)。もともと桜ミクの企画の中にお団子を持ったものがあって、倉吉市に行ってみたら打吹公園だんごが名物だと。何かとご縁があるんですね。今後は名産品とコラボしたりする展開も面白いかも。

――『ねんどろいど 桜ミク Bloomed in Japan』と『figma 馬(茶)/(白)』は、ふるさと納税の対象になっています。ユニークなアイデアですが、どこから生まれたアイデアなのでしょうか。

一言でいえば苦し紛れなんですよ(笑)。というのも、日本ってやっぱり生産コストが高い。正確な数字はまだ出ていませんが、最初からいつも通りの価格で売るのは難しい。そこは耐えながらやっていくしかないかなと思っていたのですが、そこで知ったのがふるさと納税制度でした。

『桜ミク』はいわば鳥取産であり倉吉産なわけですから、この方法で販売できるのではないかと思ったのです。県側としては税収が増えますし、僕らとしては比較的高く県に買っていただけますし、お客様はフィギュアが安く手に入る。誰も損をせず、みんなハッピーになれるのではないかと考えました。もちろん、これが解決策のすべてではないですけどね。面白いじゃないですか。

――日本製ということになると「メイドインジャパン」としてのブランドも付加されそうですね。

そこは、どうなんでしょう。『iPhone』だって中国製なわけですよね。最終的に責任を持つのが誰か、デザインをしているのが誰か? という話で、僕は世界中のどこで作られていても構わないと思いますよ。中国製がダメとは思わないし、これからも製造の95%は中国でしょう。ただ、こういった挑戦をすることで話題性が出ますし、お客様にも若干の誇らしさは感じていただけるのかなと思います。ただ、正直な話、コストのことを考えれば中国で作るのが今はまだベストなんですよ。ただ、それだとイノベーションが起きないんです。

――イノベーションといいますと?

フィギュアって、もっと表現が豊かになってしかるべきだと思っているんですね。だけど、これ以上中国で既存の工程を効率化するだけでは、生産技術に関するイノベーションが起きない。かといって、そうした技術開発を要求すると、中国工場に負担をかけてしまう。楽月工場はあまり大きな工場ではなく、研究所のような存在といってもいいかもしれません。ここで新たな生産技術についても研究を進めていく予定です。すでに新技術も生まれています。

――それは、どのような技術なのでしょうか。

フィギュアの生産で、原型から金型に起こす工程があるのですが、この部分のフルデータ化を進めています。一般的なプロダクトではCADデータから金型を制作するのですが、僕らのフィギュアでは有機的な曲線を多用しているため、CADデータではなくポリゴンデータを用いてデータ作成をする必要があり、そのポリゴンデータから金型をそのまま作ることが技術的にもコスト的にも合わなかった。

そこで今までは、ポリゴンデータを立体出力して原型の形にしたものを、型取りして金型にするというアナログなやり方を採用していたのですが、フルデータ化されればかなり精度が高くなり、金型の開発過程もグッと短くなるはずです。まだクリアしなければならない課題はありますが、今回のトライで何かが見えてくることを期待しています。

――今後、新たに国内工場をつくる予定はありますか?

コストが合えば、といったところですね。フィギュア自体の商品設計が変わっていかないといけないと思っています。国内生産では、これまでのように価格を安くできないですし、価格を上げざるを得ない。例えば極端な例ですけど、フィギュアが5万円になったとして、それだけの価値が継続的にあるとお客様が見てくれるのかどうか。

これが『スター・ウォーズ』だったら、何十年経っても人気があるでしょうし、仮にフィギュアが5万円でも、それは5年後も5万円の価値があるものとして自分が納得できます。しかし、じゃあ今流行っているアニメのフィギュアを5万円で買ったとして、5年後も自分がその作品を愛しているのか? 5年後の5万円の価値を担保できるかどうかがわからないわけです。フィギュアって、アートとキャラクター商品の間にあるものなんです。造形としての美しさはあっても、果たして価値が継続するのか。そういうところは改めて問い直していかないといけないと思いますね。

中国に生産が集中することへの危機感や、イノベーションへの期待――国内工場新設の裏には、変化し続けるホビー業界の事情が隠されていた。将来にわたって価値を継続できるフィギュア作りを目指して、グッドスマイルカンパニーの挑戦はまだ始まったばかりだ。後編では、フィギュア以外の事業展開について話を伺っていく。

(山田井ユウキ)