「規制」との対決(画像はヤマト運輸のホームぺ―ジより)

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ヤマト運輸が2015年3月末で「クロネコメール便」を廃止する。4月からはメール便の9割を占める法人客向けに事前に内容物を確認する新サービス「クロネコDM便」を始め、個人客向けには現在の宅急便より小さいサイズを追加するなどして対応する。

廃止を決めたのは、顧客がメール便では扱えない手紙やはがきなどの「信書」を送り、郵便法違反に問われる事態が起きているからだ。

「お客さまが容疑者になるリスクを放置できない」

ヤマトのメール便はA4サイズの荷物を郵便ポストに投函するサービスで、1997年に法人客向けにスタートし、2004年には個人客向けに拡大した。厚さ1センチまでなら82円、2センチまでなら164円と宅急便よりも割安なため、主に法人客がカタログやパンフレットなどの送付に使ってきた。

最近はネットオークションや通販の台頭で、商品配送にも使われるなど利用が広がっている。2013年度のヤマトの取り扱い数量は20億8220万冊、売上高は1200億円にのぼり、国内シェアを日本郵政グループの「ゆうメール」と二分する。

このメール便では、手紙やはがきなどの信書は送れない決まりになっており、違反すると300万円以内の罰金か3年以下の懲役に問われる可能性がある。ヤマトに限ってみても2009年7月以降にメール便で信書を送り、郵便法違反の疑いで書類送検されたり、事情聴取されたりした事例が8件あった。

ヤマトが実施したアンケートでは、何が信書に当たるかを理解していた顧客は23%、メール便で信書を送ると罰則を受ける可能性があると知っていた顧客は3.8%しかいなかった。ヤマトは顧客に信書を同封していないかを確認し、署名してもらうよう荷受方法を厳格化するなど対応してきたが、顧客が摘発された事態を重く受け止め、「信書の定義や範囲が曖昧で、お客さまが容疑者になるリスクを放置できない」(山内雅喜社長)と廃止を決断した。

新規参入するのは難しい

そもそも信書とは「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」と定められている。ヤマトの主張通り、この説明は曖昧で分かりづらい。そこで総務省はガイドラインで具体例として、書状や領収書、納品書、願書、結婚式の招待状、表彰状、商品の品質証明書などを列記。一方で新聞や雑誌、カタログ、パンフレット、小切手、クレジットカード、航空券などは信書に該当しない「非信書」として例示する。

しかし、信書が存在することが問題を複雑にしているとして、ヤマトはかねてより信書という概念そのものの撤廃を訴えてきたが、総務省が首を縦に振ることはなかった。ヤマトは2013年12月に主張を改めて信書を内容物でなく、大きさで判断する「外形基準」へと規制を改革すると同時に、違反した顧客への罰則を廃止するよう総務省の審議会に求めたが、昨年秋にまとめられた規制緩和案にヤマトの考えが反映されることはなかった。

信書の配達は日本郵政グループがほぼ独占しており、さまざまな障壁があるため、新規参入するのは難しいのが実情だ。その日本郵政グループは年内にも上場することになっている。

今回の廃止の背景には、規制緩和が進まないなかで規制に守られたままのライバルと対峙していかなければならないことへのいら立ちがある。ただ、ヤマトは規制と戦って成長してきた歴史を持つだけに、今後も「生活者の利便性の向上を止めるような規制は緩和されるべき」(山内社長)と改革を訴えていく考えだ。