『自分を好きになる方法』(講談社)

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 昨年、『自分を好きになる方法』(講談社)で三島由紀夫賞を受賞した作家の本谷有希子。アニメ『彼氏彼女の事情』で声優デビューしたり、『本谷有希子のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)でブレイクするなどマルチ活躍で知られるが、もともとは劇作家・演出家。2000年に、20歳という若さで、専属の俳優を持たず、毎回役者が全て入れ替わるというユニット形式の「劇団、本谷有希子」を旗揚げして注目を集めた。

 その本谷が、『新潮45』(新潮社)1月号で、やはり劇団「鉄割アルバトロスケット」を主宰する戌井昭人と対談。劇団立ち上げの頃の思い出話を語っているのだが、そのキチクっぷりがちょっとした話題になっている。

 まず、劇団を立ち上げる際の資金集めだが、本谷は「祖母にせびりました」とあっさり。

「これ言うと同期の劇団主宰者に少しひかれるんですけど(笑)。でも、おばあちゃんは私のことを溺愛してくれてたんです。(略)その後も、頭金とか必要になると、せびりました(笑)」
「芸術には、パトロン制度は当たり前だって言い聞かせてたかな(笑)」

 おばあちゃんがパトロン......これだけでもなかなかなエピソードだが、本当にキチクなのが、役者の扱いだ。

 まず「旗揚げ時、役者に出演料は払えたんですか?」という問いには、2人とも声を揃えて「まさか!」と即答。本谷は「何であげなきゃいけないの?」と続け、戌井に至っては「逆に俺にくれよって思ってた」と語っている。

 稽古での追いつめ方もなかなか凄まじい。本谷は以前の自分の演出のやり方をこう振り返る。

「最初の頃は常軌を逸してたかも。稽古中も、じーっと俯いて脚本だけ見て、役者の方を一瞥もせずに「そこ違う」ってダメ出ししてた。「せめてこっち見て言ってくれ」って役者に懇願された。」
「私、前半は演出家として役者にとって怖かったと思う。役者が血尿出したり、女優なのに円形脱毛症で髪が抜けたりしてたから。」

 しかも、情緒不安定な人に「しんどくて電車に飛び込みそうになりました」と言われたエピソードも公開。戌井が「まあ、本当に死なれちゃうと嫌だけど」とフォローしても、こう返すのだ。
 
「でもさ、どっかで何とも思わない自分もいない?」

 こうしたシビアさは公演中にも発揮されるようで、毎回客席の後ろで観ている本谷。本番中にも楽屋に乗り込んで「何であんな女優演技すんだ! 何してくれんだ!」とダメ出し。常連の役者から「役者が混乱するから」「本番中に本谷のこと、考えたくない」と楽屋への出入り禁止を言い渡されたこともあるという。それで、しようがなくノートを付けながら観ていたら、役者の演技が嫌で自分でも気づかないうちに6頁にわたって「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ」とびっしり書き殴っていたこともあるらしい。

 とにかく自分の作品世界を守ることが最優先で、役者はそのためのモノ扱いという感じだが、本谷自身「最初、役者を人として見てないんだよね。演出家って嫌な人多いのかも(笑)」とそのことを認めている。

 やはり、どこかに人を人とも思わないような狂気がなければ、表現者として新しいものをつくれないということなのだろう。実際、本谷にかぎらず、劇作家にはこういうタイプは多く、戌井も劇団を始めた頃に「俺がやりたい事をやるから、君たち、演技とか考えないでね」とまで言っていた事を明かしている。

 ところで、そんな本谷も最近は「感謝が分かってきた」らしく、今の自分と怖かった頃の自分が「自分の中でつながらない」という。そして、「でも、演出家としては、人のことを一切考えなかった頃、好き勝手わがまま言ってまわりを振り回していた時の方が、よかったかもしれないと思うこともある」と感想を語る本谷。

「演出家たるもの、役者やスタッフに『殺してやりたい!』って思われるくらい横暴じゃないとね、って思うことはあります」

 いや、編集者に聞くと、本谷さん、小説家としては「かなりメンドくさい」という評判もあるので、まだまだ大丈夫だと思うのだが......。
(島原らん)