盛りあげよう!東京パラリンピック2020(9)
【車いすテニスプレーヤー上地結衣インタビュー Vol.3】

2014年シーズン、女子車いすテニスで世界ランキング1位になり、4大大会でも大活躍だった上地結衣選手。今回は、上地選手が車いすテニスに出会った頃のお話や、2020年東京パラリンピックに向けて、障がい者スポーツをもっとメジャーにするためには、どんなことが必要になるのかなどお話をうかがった。

伊藤:2020年のオリンピック・パラリンピックが東京に決まったと聞いたとき、最初にどう思いましたか?

上地:ちょうど決まった時は、全米オープンの準決勝で試合中だったんです。試合前にニュースでちょこちょこ見ながら、試合に入って。その試合は負けたんですけど、試合後のインタビューでメディアの方に「東京に決まりました」と聞いて、すごくびっくりしましたね。

伊藤:2020年のご自身の姿について想像はしましたか?

上地:そうですね。家で見ていたら、きっとじっくり考えてどうしようかなと思っていたと思うんですけど、本当に試合が終わった直後だったので、その流れで自然と「じゃあ2020年もやっているんだろうな」「2020年のパラリンピックの大きな舞台に立てていたらいいな」って想像しましたね。

伊藤:一方、車いすテニスという競技で、2020年に向けて変えていける部分はどこだと思いますか?

上地:車いすテニスで言うと、これから始めようとする人の受け入れ体制ですかね。そこは他の競技でも抱えている問題のひとつかなと思います。2014年は、錦織圭選手のおかげでテニスの人口が増えましたよね。そんなふうにテニスをしたいと思った時に、テニスができるっていうのと同じで、車いすテニスをしたいと思った時に、気軽に車いすテニスを始められる環境があるといいなって思います。それが車いすテニスだけではなくて、車椅子バスケ、ウィルチェアーラグビーでも、体育館に行ったらできるようになればいいなと思いますね。

伊藤:確かにそうですね。

上地:全部の(障がい者スポーツ)競技が本当にそうなればいいなって思います。今は始めたい、やりたいっていう本人や、そのご家族の方の強い思いから、「こんなところないですか? あんなところないですか?」っていくつかまわって、見つけられたらラッキーみたいなところがまだあります。これまでよりはかなり窓口も増えて、できる環境も増えたと思うんですけど、まだテニスに比べて、普通に車いすテニスをしたいって言っても、パッとできるような感じではないと思いますね。

伊藤:上地さん自身、最初は車椅子バスケから始められたとお聞きしましたが、その車椅子バスケを始める時はどういうきっかけだったんですか?

上地:私の場合は本当に特殊だと思うんですけど、すごく環境に恵まれていたなと思います。車椅子バスケを知ったのは、インターネットで母が広島のバスケットのボランティアをされている方と知り合ったのがきっかけです。
「(地元の)神戸にもこういうチームがあるよ」と、紹介していただいて。そのチームが活動している体育館は、私が小さい頃にリハビリに行っていた病院の隣の体育館だったんです。でも、体育館には怖い人がいるから絶対に行けないと思っていたので、当時はリハビリにしか行ってなかったんです(笑)。

伊藤:その怖いと思っていた人たちが車椅子バスケの選手なんだって分かって、怖くなかったですか?

上地:そうですね。10歳の女の子が、若くても20代後半の男性選手ばかりで、強面の選手の中に入るのは、なかなか勇気がいりました。でも、初めて行った時から良くしていただいて、「どんどん入ったらいいよ」って。チームの大事な練習時間なのに自分にボールを回してくれたり、「じゃあシュートしてみようか」と声をかけてくださって、その時に「面白くないな」って感じていたら、バスケを1年間続けることもなかったと思いますし、そこからテニスにつながることもなかったと思います。

伊藤:バスケからテニスへの転向は、何がきっかけだったんですか?

上地:4歳離れた姉がいるんですが、姉が部活動で軟式テニス部に入ったのがひとつの理由です。姉の真似をずっとしてきていたので。それと、テニスとバスケって両立されている人が多いんです。イメージなんですけど、バスケは激しいスポーツなので、やっぱりテニスより競技寿命が短いようで、テニスは遊びでもできるし、みたいな感じで。バスケの現役を退いたらテニスに行こうかなっていう方が結構多かったんですね。私の周りは特に。なので、そういったつながりでテニスを始めました。

伊藤:上地さんが車いすバスケを始められたきっかけは、偶然知り合いがいらしたことが大きかったと思いますが、偶然を待つのは、本当に窓口が広がるというのとは違いますよね。

上地:そうですね。人と人とのつながりで練習場所を見つけることも、素敵なことだと思うんですけど、私みたいに競技じゃなくても、気軽に「ちょっとやってみたい」とか、そういう感覚でできるっていうことがより大事かなと思います。

伊藤:上地さんが先ほど使った「窓口」という言葉はとても分かりやすくていいですね。窓口が広がって、プレイヤーが増えるとファンも増えるのかなと。

上地:だと思いますね。障がいのある方だけじゃなくて、健常者の方でも車いすに乗ってできる環境はあるんですけど、そういうのを知ってる方がまだ少ないですよね。もっと知って、経験してもらえると、自分の近くにいる障がいを持った子に、「教えてあげよう」ってことにつながっていくと思うし、障がいがあるから障がい者の協会に問い合わせるってことでなくていいのかなと思います。

伊藤:自分がやったことのあるスポーツって、その一流を見たいって思いますし、それって、2020年の観客増員にもつながりますよね。ロンドンパラはチケットが完売して、開会式、閉会式はもちろん満席でしたが、試合会場は満席じゃなかったんです。車いすテニス男子の決勝は、半分も埋まっていませんでした。

上地:そうですね。それでも車いすテニスの今までの大会に比べれば、考えられないくらい入っていたんですけど、いかに普段が少ないかですよね。

伊藤:観客が満員の会場で戦う試合って気持ちも違うんじゃないですか?

上地:そうですね。やっぱり違うと思います。普段は観客といっても身内が多くて、身内を除くと本当に少ないんですよね。ロンドンパラが特別だったのは、テニスが有名で、パラリンピックの発祥の地のロンドンだから、純粋に車いすテニスっていうものを見たくて来た人が多かったのかなって思います。

伊藤:日本の大会で言うと、飯塚(福岡県)でやっているジャパンオープン(※)は、観客が増えてきましたよね。
※飯塚国際車いすテニス大会。国際テニス連盟公認の国際大会で、グランドスラムの次に大会規模が大きいとされるスーパーシリーズに格付けされている。

上地:そうですね。だいぶ増えましたね。

伊藤:出場していて違いは感じますか?

上地:違いますね。日本だからっていうのはもちろんあると思うんですけど、すごく後押しにもなりますし、パワーをもらえます。

伊藤:そうですよね。では満席にできるとしたら、観客にはどんなふうに試合を見て欲しいですか?

上地:私は、何か特別なものは特に求めないです。錦織選手の試合を見るのと同じように、「今のショットすごかったな」とか、「今の車いすさばきすごかったな」とか、本当にひとつの競技として自然に「すごいな」って思ってくれたら嬉しいです。

伊藤:上地選手が特に見てほしいプレイとは、どんなものですか?

上地:取れない範囲のボールっていうのは、明らかに健常者のテニスより多いんですが、いかにそれをカバーする力があるかっていうのと、いかにそこに打つかですよね。"予測力"っていうものがすごく大事なので、「次はここに打たせたいから、そのためにこっちに行かせて」とか、「こういう球を打たせるために、自分がこういう球を打つ」っていう。そういう、パッと見では分からない頭脳戦というところは、自分がもっと伸ばしたいところでもありますし、見てほしいところでもありますね。

伊藤:そういう見方をしたら、車いすテニスをより楽しく観戦できそうですね。長い時間ありがとうございました。

(おわり)

【プロフィール】
上地結衣(かみじ ゆい)
1994年4月24日生まれ。兵庫県出身。エイベックス・グループ・ホールディングス所属
先天性の潜在性二分脊椎症で、成長するにつれて徐々に歩行が困難となり、車椅子を使用するようになった。11歳のときに車いすテニスを始めると、あっという間に才能を開花させ、14歳という若さで日本ランキング1位に。2012年ロンドンパラリンピックではシングル、ダブルスでベスト8。2014年シーズンは、4大大会のシングルスで2勝、ダブルスでは年間グランドスラムを達成し、現在世界ランキング1位となっている。(1月27日現在)

伊藤数子(いとう かずこ)
新潟県出身。NPO法人STANDの代表理事。2020年に向けて始動した「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会」では顧問を務めている。2003年、電動車椅子サッカーのインターネット中継を企画、実施。それをきっかけにして障がい者スポーツと深く関わるようになった。現在、障がい者 スポーツ競技大会のインターネット中継はもちろん、障がい者スポーツの楽しみ方や、魅力を伝えるウェブサイト「挑戦者たち」でも編集長として自らの考えや、選手たちの思いを発信している。また、スポーツイベントや体験会を行なうなど、精力的に活動の場を広げ、2012年には「ようこそ、障害者スポーツへ」(廣済堂出版)」を出版した。

文●スポルティーバ text by Sportiva